第144話 愛羅とのスキンシップ
「んー、ヤバこれ。アーシ眠くなってきたかも」
翡翠の瞳を両手で擦りながらふにゃっとした声を出す愛羅は眠たげな視線を送ってくる。
こうなっている理由は一つ。
「ベッドの上で膝枕されたらそうなるんじゃない? これしてからもう20分も経ってるんだし」
「ホントだ。そんな経ってるんだ。……ね、りょーまセンパイ、これ毎日してほし」
「嫌。あと愛羅は寝かせないから」
「…………なんかエッチじゃないそれ」
「え?」
「ごめ」
「はい」
なにを言いたかったのかすぐに理解した龍馬だが、こんな反応をすれば謝る他ない愛羅だ。
「じゃあ話変えて、なんで起こすのー? って聞く」
「単純に暇になるから」
「いやいやそんな理由で? そこは寝かせるところでしょ。アーシ寝たら好きなことできるんだよー? なにされたか気づかないだろうし」
「っ!? あ、はぁ……。それお母さん聞かれたらどうなるんだか。危機感を持ってよ本当。男を家に上げるならまだしも、寝て無防備になるのは愛羅にとっていいことじゃないでしょ」
「それは知ってる。そんなバカじゃないし」
一体なんの狙いがあってこんなことを言っているのか検討もつかない。それでもからかおうとしているようなことはわかる。
「馬鹿じゃないって言われてもこの状況なんだけど。膝枕もしてるし」
「アーシのギャルっぽ見た目に騙されてない? ギャル全般がそうだって言うわけじゃないけど、アーシはそんな軽いオンナじゃないから。信頼してる相手しか部屋にあげたりしない、ってこんなこと話さなかったっけ」
「まぁ、その言葉を信じないわけじゃないけどさ。初めて家にあげてもらっただけで判断するのはあれだけど」
「りょーまセンパイってアーシをなにかとアーシを子ども目線で見てんよねー。ってか親目線で話してる気がする」
鋭い愛羅でなくとも、これはわかることだろう。当たり前のことを数回に渡って注意していれば透けてしまうこと。
「こんなに甘えられたら親目線にもなるって」
「アーシオトナだし」
「膝枕されたまま言っても信ぴょう性ないんだけどなぁ。メイクしてるけど顔はまだまだ高校生だし」
龍馬が上半身を前に倒し、膝枕されたその顔を覗き込んで視線を合わせた瞬間、ハッとさせて顔を隠す愛羅だ。
「の、覗き込んでくんなし……。顔近すぎ……。あ、あとそれはそれ。これはこれってもんだし……」
膝枕で、顔を近づけられたのだ。ボソボソと小声で、早口で反論。照れを隠すように饒舌になってしまうのは反射的なものと言っていいのかもしれない。
「はいはい。じゃあそう言うことにしとくよ。未成年者さん」
「……正論言うなし」
「ははっ」
そしてツッコミに笑い声を出す龍馬だが、愛羅の本心に気づいていればこんな反応はできなかっただろう。
子ども目線で、親目線で見られたくない理由を——。
「りょーまセンパイって鋭いとこあるのに鈍いとこはホント鈍いよね。そんなのされるとモヤモヤする」
「全く意味がわからないんだけど……。なんかごめん。これでもちゃんとしてるつもりなんだけどなぁ」
「マ、とぼけてないのはわかるからいいけど、膝枕されてるこの状態を見て何か悟るものとかないわけ?」
横目でチラッと見てくるその表情はどこか熱を帯びているように感じる。
「まだ高校生だし寂しい部分もあるんだろうなって思うけど。あの契約を交わす時にそう教えてもらってもいるし」
「そ、それはそーだけど、もっと別なとこだって」
龍馬と言う男に膝枕を要求した理由——。
「まぁ俺としては貞操概念っていうか、そんなことの感覚が崩れなければいいから。それだけはお願い」
「うっわ。わからないからって話逸らした。意気地なしじゃん」
「意気地なし? じゃあ教えてくれたりする?」
「そ、それはムリ。絶対ムリ。言えるわけないじゃん……」
「なんだそれ。自力で回答見つけろって?」
「ん」
「それなら頑張るけど……」
「あー、やっぱいい!」
「えっ!? どっちなのそれ」
この先は勇気のいること。大半の者がこちら側だろう。いや、もしかしたら全員がこちら側なのかもしれない。
「……ってかさ、りょーまセンパイさっきから大人目線で紳士ぶってるけど、アーシをオンナとして意識してんのバレバレだかんね。緊張してる以外でその要素掴んだし」
「えっ?」
「『男を家に上げるなら危機感を持って』、『寝て無防備になるのはいいことじゃない』。これってりょーまセンパイがアーシをそんな目で見てないと出てこない言葉じゃない?」
反撃と言わんばかりの楽しそうな声色。確かにこの歳にもなれば盛り上がられる一つの話題にはなるだろう。
「……それは一般論。そもそもお母さんが一階にいるんだから変なこと考えられないし」
「変なことって?」
「変なことは……変なことでしょ?」
「ははぁー。センパイってばホントヤラシーの。変なことされたらどしよこれ。今のうちに動き封じとこ」
「って言ってくっついてくるのはやめてほしいんだけど……。全然封じれてないし」
膝枕をされた状態でまた抱きつかれる。愛羅からしてみればでっかいぬいぐるみにハグしているような感覚なのだろが、龍馬は当然違う。
柔らかい体に甘い匂い。それを強く感じさせられるようにアタックされているわけである。
愛羅という人物を女性として見ないことは不可能に近いこと……。それを可能に近い状態にしているの強い理性である。
「だってりょーまセンパイがアーシを親目線で見てくるからだし。アーシはもうJKなんだからその目線は却下。膝枕するのだって初め……久々だし」
「……」
今、何か口に出たのは気のせいだろうか……。と、この件を打ち消すように愛羅は少し大きな声をあげるのだ。
「マ! そんなわけで、妹でもいいし彼女でもいいし、そのくらいの目線で見てよ。今は。こんなことしてるからそんな感じがいい。じゃなきゃ意地でも寝るから」
「ははっ、甘えるなぁ……。本当」
「いいでしょ? 契約あるんだし」
「はいはい。とりあえずわかったよ」
龍馬からしてみれば理性の保身を獲得するためにもこの立場を貫こうとしていたが、愛羅はその道を自然に塞いでくる。
そんなやり取りから10分が経った頃だろうか。
「あのさ、愛羅。そろそろ足痺れてきた」
「残り30分コースなの言い忘れてた。もっと甘えさせて」
「な、長くない? いくらなんでも……」
「会話してたらすぐ経つから。その後はでびるちゃんとのことについていろいろ聞かせてもらおーかな。超仲よさそうだったしブラコン目線で追及しよ」
「ちょっと待って。それはさすがに遠慮したいんだけど……」
ここにきてまさかの言及だった。
「こんな可愛いJK膝枕してるんだから対価ってね。あ、頭撫でてくれたら特別に28分コースにしてあげるよ?」
「追及の面を考えてほしいんだけど……」
「それなら90分になるけど大丈夫? りょーまセンパイの足、ヤバいことなるよ」
「完全に殺しにかかってない? それ。愛羅のことだから痺れたところを絶対攻撃してくるし……」
「にしし。マ、追及は絶対だから。だから諦めて頭撫でてよ。はい、……ん」
その言葉を最後に頭をこちらに向かって突き出してくる。
「……」
「無視ダメだかんね。撫でろ」
年上相手に完全命令である。
「はぁ。愛羅を彼女にした彼氏は大変だろうなぁ……」
「いちお、社長令嬢だかんねアーシ。だからどっちみち大変になるっしょ」
「その言い分は的確過ぎるなぁ……あはは」
苦笑いを浮かべる龍馬はその後、口を閉じる。それは太ももの上にある金髪の髪に触れたことで愛羅が黙ったからでもある……。
手入れをしっかりしているのか、絹糸のような感触は触れていて気持ちのよいものだった。
恋人代行をはじめた俺、なぜか美少女の指名依頼が入ってくる 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann
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