打ち切りを前提に書く読む

脳幹 まこと

☆を敵に回してみる


 随分と刺激的なタイトルになってしまった。なんとか本文も負けないようにしたいと思うので、よろしくお願いします。


1.

 長編小説を書けたためしがない。

 書けない理由については「極度の飽き性だから」ということで一応の結論が出ていたのだが、改めて考えてみると、飽き性でなくとも長編を書くのは難しいと思ってしまうのだ。

 理由はただ一つ、☆の存在である。

 ☆がつかなかったらどうしよう。別のアイデアにすべきではないか。

 ☆がついたらどうしよう。次の話からプレッシャーになる。

 それに比べて一話完結式はいい。出してしまえば、もう責任を負うことはないのだから。


 ☆というのは魅力的ではあるが、あまりに執着しすぎると、思うように書けなかったり、動向に気を取られるという欠点がある。

 一日中評価が気になるという現象は、きっと私だけのものではないはず。それが連載形式では作品が完結するまで続くことになるのだ。私だったらとても終わりまでもたないだろう。

(そこが楽しいんじゃないかという意見も分かる。分かるが耐えられないのである)

 評価されれば勿論嬉しいし、続投の励みにもなる。なんとなく自分が認められているような気にもなる。問題なのはそのサイクルに終わりがないことだ……


 ならば、終わりを設けてみよう。

 

2.

 前置きが長くなってしまい、申し訳ない。

 そういうわけで発想を逆にした。☆、すなわち評価を小説続投における「障害」にしてみようと考えた。

 やり方は簡単。☆が目標数だけ集まったら、その時点から物語を畳むようにする。そしてタグに「☆○○になったら打ち切り」とでも付けておく。

 とはいえ、突然「完結済」にするのも後味が悪いので、目標の☆が溜まった時点の話から三話以内で物語を上手いこと完結させることにする。

 この方式を取れば、ほぼ確実に盛り上がったまま作品を完結させられる。なぜなら評価されたことが打ち切りのトリガーなのだから。


 私の経験則から、まったく連載経験のないカクヨムの民が目標とすべき☆の数は15個としている。

 これは要するに「まぐれではないと判定できるギリギリの数」である。

 多すぎるとスリルがない。あまりに少ないと想定外の・・・・打ち切りをする羽目になる。限りない寛大と慈悲の心により☆を与えてくださる方がいらっしゃるのだ。

 勿論「☆15? 第一話の400文字で達成するんだが?」という創造の彼方にいるような方もいるだろう。その場合は、自分が出した作品のうち最も評価の高い作品の☆を適用すればいいんじゃない?

 無事達成できた場合、次の作品は前作の倍の☆を限度にして、打ち切りラインを設ける。書ける量が多くなり、連載期間は長くなる。それは一種の成長要素と呼べるのではないか。

 まったくの未経験(☆15)から始めても、打ち切りを達成するごとに許容できる☆の数が倍になっていく為、順調に行けば七作品目の時点で☆は千個近く貯められる計算だ。(☆15-30-60-120-240-480-960)


3.

 実践したとすると、作者はどうなるか。大まかに二つの変化があると想定する。

 一つは「嬉しいはずの評価に複雑な感情を抱く」こと。☆が上限に近づくたびに一喜と一憂が同時に迫り来ることになる。


作者A「ああっ……これで☆が12個……! これから盛り上げるつもりなのにぃぃぃ……!」

作者B「よかった、この話でも評価なしだ。これでまだ進められる。まだ一緒に居られる……」

レビュアーA「評価:☆☆☆ タイトル:おめでとうございます! 本文:どう終わらせるか楽しみにしてますね^^」


 とまあ、悲喜交々となるだろう。書いてて「喜」の感情が気持ち少ない気もするが、☆はあるのだからトントンだ。

 せっかく世界も広がってきたのに……と名残惜しさもあるだろうが、ここで約束を破ってはならない。打ち切りは打ち切りだ。言葉が嫌なら某ユニットのように「卒業」と読み替えてみよう。


 ちなみに近況ノートにはこう書けば良い。

(タイトル)

 祝☆15個突破!

(本文)

 というわけで拙作「すき焼き、きらい焼き」はご好評・・・につき、打ち切りとさせていただきます!

 これまでのご愛顧、誠にありがとうございました!

 残り少ない期間ではありますが、これまでと変わらないご支援、どうかよろしくお願いいたします!


 もう一つは「いつ打ち切りとなってもいいように一話一話を考えるようになる」こと。

 この制約の上では、あなたの小説はあなただけのものではなくなる。今までならば、あなたの都合で幾らでも世界観を広げることが出来た。エピソードを作り、キャラクターを創り、心理を束ね、真理を築くことが出来た。あなたは神だった。

 この制限はあなたを人にするようなものだ。あるいは西遊記の孫悟空に付けられた戒めの輪と見てもよい。要するに考えなしに突っ込むと、当初の段取りや貴重なアイデアやらがパアになる。伏線回収やら物語の始末などで痛い目も見るだろう。

 だからこそ、考えるようになる。残された期間で最高の輝きを出すにはどう動くべきか。どんな「予想外」が待ち構えているのか。こんなに苦しいのなら一話完結にしよう……


4.

 さて、困惑するのは読む側である。

 その人の作品を読みたい方は☆を入れてはならない。しかし、そうなると自然とランキングには入らなくなり、発見される機会が失われることになる。これも支援者としては本望ではないはず――良く分からないジレンマである。

 逆に気に食わない方は☆を入れることで速やかに終わらせられる。ただしランキングには浮上するので結果的に作者に貢献することになる。

 おわかりだろうか? ファンとアンチの対応が逆転していることに。

 結果として「こんなに面白い作品がなんで埋没してるの!?」が自然と発生する。その逆もしかり。


 ちなみに打ち切りラインに満たないまま完結するケースもあるが、その場合は予定通りの連載が行われただけの話である。

 好意による☆なしの可能性もあるので、そう悲観することはないだろう。(PV数とか見れば分かるとか言わない)

 まあやろうと思えば、☆を入れておいて打ち切り宣言させた後に、評価を取り消すという悪質な行為も出来るが、そこまで構ってくれる方は立派な読者の一員である。


 如何だっただろうか。

 正直なところ、まともな連載経験が皆無である為、この方法がどれだけ現実的なのかは分からない。

 意見の大体が「誰得?」という台詞に集約されるのだろう。

 しかし、悔いはない。何故ならこの作品には続きはなく、私はこれ以上、頭を悩ませる必要がないからだ――


打ち切りを前提に書く読む -完-

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