第5話 今後の展開
【15】
事態は急変した
「キャー」
「おい、落ち着くんだ松戸」
「うるさい!すべてこの教団の仕業なんだよ。おい女将、すべて話せ。さもなくば命はないぞ。」
ピエロの格好をした松戸は、女将の月泣美心を羽交い締めにし、ナイフをその顎に当てている。
「あのピエロやっぱり!」
ペヤングオオオーン、オオオーン。
南は怒りの眼差しを向けていた。
ところが側にいたペヤングはその緊迫した状況に逆らい、お眠の時間のようだった。ただこのペヤング。こう見えてもやる時はやる犬なのである。
「松戸、お前の要求は…なんだ?」
為末は言葉を選びながら慎重に少しずつ距離を詰めていく。
「要求…?この女が全て話せばそれでいいんだ!及川さんの娘さん、そして俺の恋人のことも!」
「なによ、なんのことよ?」
「おい、松戸。女将さんもわかってないらしいし、もう少し説明してくれないか?」
「わかった…。」
「及川さんの娘、及川花子(おいかわはなこ)さん。そして、俺の恋人、愛甲愛子(あいこうあいこ)は、この教団アラビアンナイトに入っていた。そして行方がわからなくなってる…。俺と及川さんはそれを突き止める為に、この教団に近づいたんだ…。」
松戸の顔は涙でメイクが落ちかかっている。
「そしてその及川さんが殺されたんだ!この教団に殺されたに決まってるだろ。」
興奮した松戸がナイフを振り上げたその時であった。
「ペヤングォー!!!」
ガブリ!
足に噛みつかれた松戸は驚きのあまり、ナイフを落とし、その隙に女将が逃げ出せた。
お手柄である。
倉田得意の噛みつき攻撃が炸裂したのであった。
そしてその頃ペヤングは、南の側で爆睡し、鼻ちょうちんを膨らませていた。
【16】
「まっ、事件は・・・解決かな。」
倉田がまわりを見ながらそう呟くと、どこからともなく事件解決おめでとうと拍手が巻き起こる。握手や後片付けを始める者もいる。
「いやいやいや、事件解決してないでしょ。及川さんは密室で殺されたんですよ。毒針だって、浮いてた仮面だってなんだったかわからな・・・。」
南は興奮して何かを思いついた様に
「あっ!倉田さんこれって、絶対超能力ですよ!それか超常現象!」
ニャア!
南は倉田に襟首を掴まれ持ち上げられた。
「その辺はタメ達が吐かせるでしょ。」
「倉田さん、この事件ホントヤバイかもしれないですよ!」
その頃、特別室すみっこ暮らしでは大門が電話を掛けていた。
「例の黒ずくめの連中・・・、動き始めました。すでにあの旅館で事件を起こしてます、やつらのルールかもしれませんが現場には一人紛れ込ませているらしですなぁ。まぁ、うちの捜査一係が動いてますが解決は無理でしょうね。」
大門はひとつため息をついてから話し始めた。
「まぁ、うちでなんとかするしかないでしょう、その為の特別室ですから。そういえば総監、娘さんお元・・・。」
ツーツーツー
「切れちゃったよ。あ〜あっ、やな役回りだなぁ〜。」
薄暗い部屋で大門は一人呟くのだった。
【17】
事件から2日後、一度所内に帰還した倉田と南は、すみっこ暮らしの部屋にてホワイトボードとにらめっこをしていた。
アラビアンナイト旅館で起きた及川冷郎殺しは、その後特別進展もなく行き詰まりを見せていたのである。
するとそこへ鑑識のヒゲゴリラが書類を片手に現れた。
「おいグラタン!例の鑑定結果出たぞ。」
「ご苦労ひげ!」
「ひげを剃れ!ひげ!」
書類を引っ込め帰ろうとするヒゲゴリラ。
二人はあわてふためいてフォローの言葉を投げかける。
「ごめんなさいひげ!」
「ひげしかカッコいいよ!」
「ひげしかカッコいいってなんだよ!文法おかしいぞ!」
渋々渡された鑑定書には、及川冷郎の死体のそばに埋まっていた骨についての記載があり、その結果を見て倉田は驚きを見せていた。
「やっぱり及川さんの奥さんか松戸の恋人の骨なのかしら?」
南はそばにいてペヤングと一緒に、倉田の肩口から覗きこむようにその書類を見た。
ペヤングォーン
「解析できず…ってなんだよ使えねーなーヒゲゴリラ!」
「うるせー、南!しょうがないだろ、かなり原形留まってないんだから。」
「まあまあ、南ちゃんしょうがないよ、ヒゲゴリラだもの」
と、いつものドタバタ劇が始まり出した。
「失礼するよ。」
そこへ課長の大門が現れた。
「また、もめてるのかい?喧嘩するほど仲が良いっていうけど、仲が良ければ、そうそう喧嘩しないよなって思うのは私だけですかねー。まっ、それより倉田くん、君に手紙だ。差出人不明だが。」
「手紙ですか…まさか犯人から」
「情報提供の線もあるぞ。グラタン開けてみろよ。」
行き詰まる事件の進展を願い、倉田はその手紙を開封した。
(いつもお世話になっております。ドックフードを100均で済ますのは良くないと思います。コストコ△できれば無印でお願いします。いつもお世話になっております。ペヤング)
「ペヤングすごいわね、手紙書いたのねー。」
「ペヤングってこの犬?」
「いや、まさか。」
倉田はペヤングに顔を向けてみる。
するとペヤングは心なしか胸のつかえが取れたような、晴れやかな表情を見せていたのであった。
そして行き詰まっていた事件は、いわゆる現状維持、行き詰まったままであった。
【18】
倉田は呆れて読んでいた週刊誌を顔に乗せて上を向いて寝ている。
「しゃ〜ないなぁ、あれやるかなぁ。」
考えが煮詰まっていた南は、カバンの中からトランプぐらいのカード束を取り出した。裏は白紙になっており、書き込めるになっている。
「さて、やるか!ペヤングおいで。」
南は気怠そうに座っていたペヤングを頭の上に乗せ思いつくままカードに文字を書き始めるのだった。
毒針
密室
正体不明の骨
ピエロの仮面
アラビアンナイト
豆の木
紫いもタルト
ババア
月泣美心・・・以下省略
事件のワードや名前など一通り書き殴った南はカードを集めトランプのように切った。静かに黙ったままそれを並べていく。そして一呼吸おいて、呪文か念仏かわからない言葉を発しながら神経衰弱の様にランダムに開いていった。
ペヤングは南の頭にしがみつきながらも眠たそうにしている。
「ん〜、なんかピコらないなぁ。ペアにならないし、情報が足りないのかなぁ〜。」
南はブツブツいいながら机に突っ伏してしまった。
部屋には蛍光灯のジジジッと音が聞こえるくらい静まり返っている。
「まぁ〜、今日はこの辺でお開きということで・・・。」
沈黙を破ったのは大門であった。
「南ちゃんもさぁ、最近お家帰ってないでしょ。またピコーンってなったら教えてね。倉田君もさぁ、帰りなさいよ。」
「課長は帰って良いですよ、俺まだいますんで。」
「気が向いたら帰りまぁ〜す。」
倉田は起きて週刊誌を読みながら答える。南は突っ伏しながら右手だけ上げた。
「そう?お言葉に甘えて帰ろうかなぁ。じゃあ、帰るときは電気消して戸締りしてね。」
大門はカバンを取ろうと手を伸ばした時にデスクの電話が鳴った。
「はい、特別室〜。は〜、そうですか・・・。」
「課長事件ですか?」
南は顔を上げ大門に問いかけた。
「ん〜、まあね。まあまあ、あれだよあれ。」
そう言うと大門はカバンを取り、右手を軽く上げて部屋を出て行ってしまった。
「何ですかあれ?」
「どうせ、飲み屋のお姉さんだろ。」
「そうですかね?」
南は首を傾げ怪訝な顔をするのだった。
グラタン刑事の難事件ファイル 事件ファイル№1 【アラビアンナイト伝説女将殺人事件】 ごま忍 @SUPER3mg
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