第3話 旅館にて・・・
【9】
女将兼教祖の月泣美心は、毎月1度は瞑想部屋と呼ばれる部屋に一日中籠る。
その際、部屋を覗かないようにと何かの恩返しのような事を言っているらしく、部屋を出た後には、毎回何かしらの予言を語るという。
過去の予言は騒ぐほどの内容ではなかったのだが、今回「人が死ぬ」といった物騒な予言であった為、警察沙汰となったのである。
その話を聞いた倉田達は、右近の案内の元、まずはその瞑想部屋へ向かっていたのであった。
「右近さん、そういえばさっき怪しいピエロ見かけませんでしたか?」
「私たち吊り橋の所でピエロに会ったんです。」
「怪しいピエロ?及川さんのことですかね?ちょっと待ってくださいね。」
月泣右近はそういうと、ズボンのポケットから携帯を取り出し電話をかけだした。
「もしもし、及川さん。今どこにいる?はいはい…沖縄?はぁーそうですか。それではまた。」
右近はそういうと電話を切った。
「及川さんではないようですねぇ。沖縄にいるっていうんで。」
「何故その及川さんをピエロだと?なにか関係あるんですか?」
と、南が右近に詰め寄っていった。
「えぇ、及川さんはハンバーガーが大好きなんですよ。なのでピエロだと。」
「なるほどぉ。」
「ちょっ、ちょっ南ちゃん、ハンバーガー好きだからピエロってなんか安易じゃない?」
倉田が疑問を呈し、
「ハンバーガーなら僕も好きだしね。」
と続いたのが間違いであった。
「えっ、ハンバーガーが好きということは、倉田さんが怪しいピエロの正体だっていうことですか!」
ガブルルルー、ペャングォー、ペャングォ
南は戦慄の表情を浮かべ倉田との距離を取り出したのであった。南の頭に乗っていたペヤングも頭から飛び降り、戦闘体制に入っていた。
「いやいやお嬢さん、ハンバーガー好きだからってピエロと決めつけるのは安易ですよ。」
と、言い出しっぺの右近が南をなだめ始めたのだが、
「ハンバーガーが好きということは、ピエロかもしれませんし、及川さんなのかもしれませんよ!」
と続き、さらに訳のわからない感じになっていった。
幸い、倉田が1番好きなのはグラタンコロッケバーガーであることを打ち明けると、それはハンバーガー好きとは言えないし邪道だと今度は別角度から攻められるのであったが、なんとか二人の誤解は溶けたのである。そして倉田は二度とハンバーガーの話は口にしないと心に決めたのであった。
【10】
倉田達が寄り道したせいもあり日も暮れ、旅館内は薄暗いロウソクの光くらいのランプが灯っていった。
「こちらが瞑想部屋になります。只今はお祈りの時間となります。」
瞑想部屋と言われる広間は長方形の様になっていて、上座にはおそらく美心が瞑想するであろう場所が一段高くなっていてカーテンの様な物で仕切られていた。
その中にはアラビアンナイトに出てきそうな魔人に似せた仏像らしき物が飾ってある。
下座には障子が開かれており、部屋の光で真っ暗な庭園がぼんやりと見えた。
像の前には美心が、その後ろには中央を開けて信者数名が祈りを捧げている。部屋は太鼓の音がうるさいくらいだ。
倉田達は右近に託されて邪魔にならない様に座った。
「倉田さん、この唱えてるのなんか意味あるんですかね。」
「さっぱり、意味がわからん」
二人が小声でしゃべっていると、庭の奥にピエロがうかんでいる様に見えた。美心のお経が一段と大きくなる。
「倉田さん、あれ!」
「あいつ、現れやがったな!」
倉田達が立ち上がろうとしたが、右近が静止た。
「悪霊め!この場所から退散しなさい!」
美心は振り向き魔貫光殺砲のポーズをして、ピエロへ指差した。
キェー!
浮かんでいたピエロと思われるピエロの首だけが落ちた。
「なんだ!首が!」
「倉田さん!」
ピャングォ!
カラン・・・
暗闇に響いたのはピエロの仮面が落ちた音だった。
「仮面?南ちょっと見て来いよ。」
「倉田さん行って下さいよ。」
「なんだよ、まったく・・・」
倉田が立ち上がり庭へ視線を向けた時
「ギャー、だっ誰か来て下さい!誰かー!」
旅館の地下の階から悲鳴が聞こえた。一同は先程の状況を気にかけることも出来ずに声の響いた方へ向かった。
そこには信者の一人が腰を抜かし部屋を指差して震えていた。倉田が部屋を覗き込むとそこには男が額を針で刺され倒れていた。
「及川さん!」
右近が男を見るなり叫んだ。
「あっ、事件始まっちゃったなぁ・・・。」
「ですね・・・」
ペヤグォン・・・
こうして事件は少しずつ進んでいくのであった。
【11】
被害者は及川冷郎(おいかわひえろう)
66歳。額に毒矢が刺さり死亡。
及川は昨年まで送迎の運転手を努めていたが、経営状態の悪化に伴い解雇されていた。
「及川さん、あんた、沖縄行ってたんじゃなかったのかぃ。おい、返事しろよ、及川さん!」
右近は及川を抱き抱え声をかけていた。
「右近さん、彼はもう死んでいます。」
倉田は脈を採り死亡を確認した。
「南ちゃん、連絡を!」
「わかりました!」
南は携帯を取り出したが、地下室により電波が無いことに気づいた。
「倉田さん、ここ電波悪いので上行きます。」
そういうと急いで階段をかけ上がっていった。
「ん、なんか匂うぞ。」
「クンクン」
倉田は及川のズボンのポケットから、食べかけの紫いもタルトを発見した。食べかけといってもその原型はほとんどなく、通常は見ただけではわからない。だが倉田は普通の人間の1000倍以上、犬並みの嗅覚を持ち合わせており、それが紫いもタルトであるとわかったのである。
ペヤングは黙って立ち尽くしている。
「これは沖縄土産だよな?」
さらに倉田は及川の足元の床が不自然にめくれていることに気づいた。そこから穴が見えている。
ザクッザッザッ
穴を掘り進む。
かなり硬い。
普通なら掘ることが困難な土であった。しかし倉田の爪は、通常の人間以上、犬並みの強度を誇り、多少の硬い土や岩などを掘り進めるのである。
ザクッザッザッ
ペヤングはただ、ぼっーと見ている。
倉田はさらに掘り進める。
ペヤングはまごまごしている。
「骨だ…」
なんと岩盤の下からは人骨のようなものが見つかった。そして、事態は次から次へと収まることを知らず、不穏に重なりあっていくのであった。
「大変です刑事さん!」
地上から信者の女性のひとり、表梨栗栖(おもてなし くりす)が慌てて降りてきた。
「大変です!女性の刑事さんが何者かに襲われました!」
地下室に声が響いた。
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