宇宙地獄行き

宇宙地獄流 コズミックブレイザー

第死話

 俺は死んだ。


 交通事故に遭った訳でもなく、殺人事件に巻き込まれたとかそんな物騒な話ではない。劇的な理由、学生が誰かを庇って死んだとか、ブラック企業に当たって新人サラリーマンが過労死したなんてこともない。


 普通に年を取って普通の日本の一般人として年からくる病気で大往生した。


 ただ、それだけ


 そんなわけで、今いる場所は、いわゆる地獄というものだろうか?


 地面は黒い土で、周りに壁は無くどこまでも広い。上を見るとそこに太陽は無く闇が広がっている。その割には地上は少しだけ明るく見える。不思議なことに。

視線を正面上から右斜め前に向けると何やら大行列が並んでいる。その並んでいる人達を観察すると、日本人のような黄色人種だけではなく、白人、黒人、中東人等、地球のあらゆる人種がその列に並んでいるようだ。


 昔、宗教の本にはまって色々調べたことがあるが、この地獄はどの宗教の地獄なのだろうか?


 一応、列の最後尾に並んでみる。


 裁きを受ける前の段階ではまだはっきりとわからないが、時間がかかりそうだから、少し考察してみようか。


 まず、日本人ならポピュラーなのは仏教。ん?日本人なら神道だろうって?

神道には黄泉の国があるが、死後裁かれるという概念がないので除外だろ。


 仏教の地獄は、まず三途の川を渡り、閻魔大王の裁きを受ける。有罪なら地獄、無罪なら極楽行き。地獄の種類は、無間・大焦熱・焦熱・大叫喚・叫喚・衆合・黒縄・等活の八種類。詳細は省くが、どれも人間の時間で1兆年以上の責め苦を与える恐ろしい地獄だ。


 お次に、キリスト教の地獄とはというと実は二種類ある。ハデスとゲヘナだ。違いは罪を犯したかどうかで違う。ハデスは罪を犯していないがキリスト教の神を信仰していないものが辿り着く場所。ここで信仰に目覚めれば神の救いによって抜け出せらしいが、カルト宗教でよくある逃げにくい状況を作って無理矢理信者にする手法はここから発想を得たんじゃないかと個人的に思う。ゲヘナは刑期が無く永遠に苦しむことになるのでこの地獄は勘弁してほしい。


 最後に、イスラム教。この宗教では審判の日が来るまで魂を冥界に放置し、審判の日が来たらアラーが直々に尋問して裁く。イスラム教徒以外はみんな地獄行きが決定している。地獄に階層があってイスラム教徒でありながら罪を犯した人が一番最下層でキリスト教、ユダヤ教、多神教(日本人なら大多数がこの辺)、偽信者の順でましになる模様。


 とか考えているうちに列が進み、今まで見えていなかった川が見える。もしかして三途の川か?まさかの仏教徒が大勝利か?最も仏教なら他の宗教の信者だから地獄行きなんて言ってないので無難ではあるかもしれない。


「橋が架かっている?」


 三途の川説が正しければ、渡し船が来て六文銭を払わなければならないはずだが、文というお金の単位が無くなったので廃止になったとかかな?


 黒い鉄のような金属で出来ているかのように見える大きな橋の上を渡る。行列とは違う前方から何かが速いスピードで通ってくる。


「ヒャッハー!!」


 それは金髪のトサカが頭についているように見える、いわゆるモヒカン男だった。しかもバイクに乗っている。肩パッドにトゲが付いているし、よくわからない奇声を上げながら通り過ぎていく。


「まさか、あれが地獄の鬼って言うんじゃないだろうな?」


 さすがに、地獄にあんな姿をした獄卒がいるなんて描写はない。とすると死者だろうか、てっ、現実にいるわけがないだろう。思わず突っ込んでしまった。


 しばらく進む。小一時間ってところで建物が見える。あれが閻魔大王の裁判場だろうか。

 

 また、前方から人影が近づいて来る。今度は団体だ。まさかモヒカン男の群れ?


「ヒヒーン、ヒヒ?ヒヒヒヒヒッヒーーーン」


 馬だ。人面馬だ。いや上半身裸人間系馬だ。ギリシャ神話で言うと

ケンタウロス。しかも十人?(頭?)くらいの群れだ。


 まさか、獄卒の馬頭鬼?いや、あれは頭が馬のはず。なんか会話しているし何を言ってんだろう?


 パカラッパカラッと歩いて彼らは通り過ぎていく。意味不明だ。


 頭を深く抱えながらうーんと唸りつつ進む。


 やっと、建物の入口だ。


「*%#”¥!Mww!」


 行列とは別の入口から人が出てくる。地球の言語とは思えない発音で喋っている。頭がおかしいのか、あるいは地球でまだ知られていない秘境の民族か?耳がなぜか細長いような?首長族みたいに耳を伸ばすような何かを生まれた時から付けられていたとか?


 彼らは通り過ぎていく。一体、どこへ向かうのだろうか?


 建物の中に入る。建物の中は広いが行列が向かって左側にある巨大な扉で途切れていることがわかる。


 あの扉の先に閻魔大王がいるのだろうか?


 ふと周りを見回すと、この行列以外にも複数の行列があった。その行列に並ぶのは人ではない。動物、魚、昆虫等、地球の生物だ。当たり前だろうがすでに滅びた古生物は見当たらない。


 地獄は人間だけが裁かれるために来るところなのかと思ったが、他の生き物も地獄に行くのか。


 そうぼんやり思っていると、行列が並んでいるのとは別の巨大な扉が開く。その扉から出てきたものは。


 「ガララ!グルルルル!ゴォロロッロ!ジャッシュシュシュ!」


 四っつの首がある巨体だ。一つは竜、一つは鬼、一つは獅子、一つは鋼鉄の亀を思わせる顔をしている。簡単に言えば怪獣と一言で表現できる。


「逃げなっ!」驚きすぎてちょっと噛んだ。


 すると幼女のような舌ったらずな声でアナウンスが流れる。


「たいへんしつれいなぎゃらおおぎゃらなおきゃくちゃまがおとおりににゃるので、でぐちまでのみちをおあけくだちゃい」


 建物内の行列は取り合えず端により、入口というか出口前の行列はいったん出口から離れる。怪獣はズシンッ・・・ズシンッと進み出口の前に立つと出口がガムの様に伸びて広がり怪獣を通す。


 一体、何なのか?今考えてみると現実にはいないような存在ばかりが通って行っているようにも見える。


 この地獄はもしかして、俺が死ぬまでに見ている夢なのではないだろうか?そんな疑問が湧いてくる。正直ありえなさすぎる。荒唐無稽だ。


 そんなことを考えているうちに扉の前に来ていた。ここで待っているものとは果たして何なのか?


 ギーーーーバタンと、扉が開く。


 そこに待ち受けていたのは、


「切符を見せて貰ってもよろしいでしょうか」


 駅員さんだ。メガネを掛けた普通の駅員さんに見える。しかも自動改札ではなく切符を切る切符はさみを持つオールドスタイルの駅員さんだ。


「・・切符ってなんのことですか?」


「その手に持っているじゃないですか」


 いつの間にか手に持っていた。その切符には宇宙地獄行きと書かれていた。


「駅員さん。少し質問してもよろしいでしょうか」


「いいですよ。この空間は時間の影響を受けませんので」


「では、まずここは地獄でしょうか?」


「いいえ違います。ここは魂が地獄に行くための駅です」


 つまり、まだ地獄では無かったのか。


「この切符には宇宙地獄と書かれていますが、いつ裁かれたのでしょうか?私は生前、地獄に落ちるような悪いことをしたつもりは無いのですが」


「罪ならありますよ」


「え?」


「貴方は生き物を殺したり食い物にしたじゃありませんか」


「えっ・・と・・仏教の地獄にあったいたづらに生き物を殺す罪ですか?もしかしたら子供の頃に虫を殺したこともありましたが、それが原因ですか?」


 このレベルで地獄に落ちることになるとは・・


「いえ、そうではありません。あなたは毎日のように命を食べていたでしょう?」


「普通の食事ですが」


「ええ、その普通の食事です」


「その理屈だと生き物は生きている限り常に罪を犯しているようなものじゃないですか?」


「その通りですよ」


 まじかよ・・

 

「じゃあ、生まれてからすぐ死んだ命だけが天国行きですかね」


「いえ、違います」


「はあっ!?」


「生まれてすぐにに死ぬのはノーカンです。生まれたことになりません」


 じゃあ、どうしたら天国に?


「そもそも天国はありません」


「」


「生き物は常に地獄に行って前世の罪を償い、生きていくことで罪を重ねるのです」


 つまり、生まれて罪を重ね、死んで地獄に、そして、また生まれ罪を重ねる無間地獄か。


「最後に聞きますが宇宙地獄ってどんなとこですか」


「以前に行ったことがある人の感想ですが、人間として生まれればとても素晴らしいところだそうですよ」


 地上の楽園みたいなフレーズだな。実際は地獄だから地獄なんでしょう?


 ん?人間として生まれたら?


「人間じゃない場合もあるんですか?というか地獄なのに生まれる?」


「行ってみたらわかりますよ」


 ??????


 切符が切られる。するといつの間にか駅の改札内だ。


「いや、どういうことだよ」


 アナウンスが流れる。


「まもなく、電車が到着いたします。このあと、この電車は折り返し、宇宙地獄行きとなります。途中、世紀末地獄、幻想地獄、異世界地獄に停まります」


 どんな地獄だよ。わけがわからないよ!


「電車が到着しました。現在到着しました駅は地球地獄です。地球地獄ぅー」


 え?え?え?え?え?


 どうやら、地球は地獄だったらしい






 


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