第657話 家族サービス
本日は、久しぶりにカードゲーム。
悪い集まりの始まりだ。顔ぶれは、ディノッソ、執事、レッツェ。ハウロンは今回忙しくておやすみ。
ゲームを始める前に執事が入れてくれたコーヒーと、俺が出した茶請けを少し摘んで会話。
「悪ぃ、迷宮の話だが時期ずらしていいか?」
ディノッソが言う。
「いいけど、何かあったのか?」
「また迷宮に入れるようになって、今は超混み! 下層に行けばばらけるし、空いてるだろうが……」
情景を思い浮かべているのか、上のほうへ視線をやって言葉をとぎらせるディノッソ。
「下に降りる道に人が連なってるのか」
レッツェがナッツに伸ばした手を止めて聞き返す。
ああ、あの鉄の楔打ってあるとことかか。一人しか通れないような場所で、しかも危なくってゆっくり進むとこって、確かに後が詰まりそう。エベレスト山頂付近の尾根みたいな何か。
「うちの奥さんと子供たちが様子見に行って、諦めてそのまま帰って来たとこよ」
ため息をつくディノッソ。
本当はシヴァたちが出かけている間のゲーム大会だった本日。お父さん、あんまり遊んでると肩身せまいよね、帰りにお菓子の籠を進呈しよう。シヴァと子供達のご機嫌取りに使ってください。
「しばらく暗くて湿って、閉塞感があるとこは避けたいし」
ディノッソ。
『滅びの国』がそんな感じだったもんね。湿っていて暗くて、ほぼ外で活動してたはずなのに、なんかどこか閉塞感を感じる場所だった。
迷宮は暗くてしっとりしてて、物理的に狭いとこが多い。似てるっていえば似てる場所だ。
「魔の森は来月あたり、ちょっといい薬草が生えるんだっけ? 美味しい! ってことはないけど、その時期だけ採れる実と」
たしかレッツェがそんなこと言ってた。
「そうだな。ただその薬草は使用頻度が高い薬の素材ってわけじゃねぇ。薬の在庫はあるだろうし、パスしてもいい」
ナッツを齧りながらレッツェ。
「季節の実は大事です」
食ったことないものは食いたい。
「その薬草は、子供たち連れて採りに行きたいな」
ディノッソ。
実も大事ですよ!!!
冒険者は薬草をはじめ素材採取系の依頼が多くて割と地味。依頼がなくても採取してきてみんなギルドに売るし。
魔物素材の依頼もあるけど、それはだいたい浅いところで弱いけど数がいる魔物のもの。
たぶん研究開発できるほど、強い魔物の素材が集まらないから、よく使うような薬のレシピはないオチ。強い魔物の素材って、難病とか呪いとか、珍しくて不治とかの病で、慌てて精霊に治す方法を聞いて出来た珍しい薬に使うものなんだよね。
コスパを考えた結果かもしれないけど。
「クリス様も、自分の故郷へは一番美しい季節に連れていきたいようですしね」
口元に寄せたコーヒーの香りを楽しみつつ執事。
クリスの故郷は『滅びの国』の近く、その影響なのかなんなのか、季節によっては曇りの日が多くなるらしい。こっちも来月あたりに梅雨明けならぬ曇り明けになるそうで、行くなら来月以降と話している。
「残念……」
みんな来月か。
「来月両方行けるよう、仕事の調整だな。ディーンとクリスにも伝えとく」
「俺も今月は家族サービスするわ」
あちこちに仕事上の義理があるレッツェと、家族持ちのディノッソ。
俺が連れ回してるからな。
「シヴァと子供たちも誘ったら?」
「クリスに聞いて誘うつもりだ。さっきも言ったが、魔の森は参加ね。どこか連れてくのと、普段の生活のサービスは別物よ?」
ウィンクをしてくるディノッソ。
これあれだ、時々言葉が怪しくなるのとウィンクしてくるのって、絶対ハウロンの癖がうつってるだろ。
「俺も家族サービスに勤めて、ドラゴンの骨とってこようかな」
家族や仕事の付き合いを、しがらみと考えるか信頼できる繋がりと考えるか。ディノッソとレッツェの話を聞いていると断然後者だ。レッツェの方はドライだけどね。
「ちょっと! ドラゴンの骨が普通っぽく言わないで!?」
ディノッソが大袈裟に身を引く。
「普通、家族サービスにドラゴンという単語は出てまいりません」
沈痛な面持ちで首を振る執事。
「なんでこの流れでドラゴン。いや、まあだいたい分かるけどよ。今の話は『普通』の日常の流れだからな? お前の『普段』は隠しとけ」
げんなりした顔でレッツェ。
「リシュが好きみたいなんで」
「どんな甘やかし方してるの!?」
ドラゴンは落ちてたり挟まってたり、けっこう拾えることがわかったんです。ドラゴンと魔物化したドラゴンの戦いがあるみたいだから、漁夫の利をですね……?
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転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 じゃがバター @takikotarou
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