第656話 蓄えと備えと

 『滅びの国』から帰って、次はみんなと魔の森か迷宮に出かけ、クリスの故郷にお邪魔する。遊びの約束が詰まってる!


 準備しなくちゃね。


 予定のない朝。


 とりあえず家のこと。粉挽きはこの間やったし、瓶詰めも作ったし。掃除は【収納】ですぐ終わるし、洗濯――ちょうど明日が回収日だ。よし、ひっぺがそう。


 『家』のベッドからシーツ類を引き剥がし、洗濯籠から袋へ服やタオル類を移す。台所のタオルも回収。リシュが後ろからついて回る。袋の口を締める紐に時々あぐあぐとお口で戯れる。


 洗濯物の依頼は週2でやってるので、改めてってわけじゃない。もうちょっとマメにしたいんだけど、こっちの世界って週1でも洗濯頻度はかなり多い部類になる。


 綺麗な水の確保が難しい――カヌムは魔の森から流れる川のおかげで確保はできるけど、硬水だから布が傷みまくるんだよね。洗うと洗濯物も髪もびっくりするほどゴアゴア! 


 これも精霊持ちの洗濯屋さんに頼んでるから、今は日本基準の『普通』で済んでるんだけど。週2の依頼でも目立ってるのでこれ以上はちょっと。


 自分でやれって? 面倒なんですよ!!! 


 あーでも、山の中の水路というか小川というか、この流れで洗濯機できないかな? カヌムと違って平地じゃないから場所によっては流れの勢いはいい。


 今はとってきたものを網に入れて漬けておくとかしてるけど。拾って来たクルミとか荒く扱っても傷まないやつね。漬けとくだけで水に洗われて綺麗になるよ!


 小川の途中に渦を作って、かつ、洗濯物が流れていかないようにすればいいのかな。うちの水、軟水だし。精霊にふんわり仕上げで頼もう。


 とりあえず良さそうな流れの場所に、板を差し込み流れを――ああ、板と板の間に隙間があれば水は入ってくるね。すり鉢状に組めばぶつかってこの中で回るか。


 板の幅や角度を調整しつつ、水流を見る。となりでリシュも真似して覗き込む。リシュの後頭部可愛い、全部可愛いけど。


『ふははははは』

『ぐるんぐるん!』

『ひゃー!』

『たのしぃー』

『たんのしぃー』


 一部精霊にも好評な模様。ウォータースライダーかな? 


 バスタオルを落として、再び渦の調整。バスタオル捻れちゃうんだけど、もっと浅くしたほうがいいのかな? 深すぎ? 


 そういうわけで洗濯機一号の完成です。構造の都合により外置きなんで、近くに物干場も設置。紐を渡しただけだけどね!


 荒い洗濯だけど、週2の洗濯ももちろんそのまま頼むつもりでいるんで、これで十分ってことで。


 お昼はソーセージ、唐揚げ、卵焼き、おにぎり。野菜はスープでよしとする。


 贅沢品ですよ、特におにぎりが。この世界で食べられないって意味で。


 リシュには骨。ごはんは朝晩2食なんで、おやつだ。


 おやつというか、歯ごたえがたまらない嗜好品なんだろうけど。粉砕した後は食べずにそのままだからね。


 わんわんの方は食べるんだけど。粉砕された骨は鶏の餌か、畑にまくかだ。


 ドラゴンの骨は食べてたみたいだから、骨にも味があるらしい。好き嫌いかな? 


 嗜好品なんだから好きなものでいいよね。ドラゴンの骨は積極的に集めよう。


 今までのは地の民に大部分をあげちゃったからね。あっちはあっちで大喜びだったな。


 床でガジガジしているリシュを足で挟んで、もぐもぐしながら本を読む。


 パウロルおじいちゃんの本を読み直している。『滅びの国』で見たこと感じたことの答え合わせのようなもの。


 【魔法の才能】【鑑定】のおかげで、一度読めば知識は取り出せるんだけど、『何を』『どんな目的で』って、取捨選択する知識というか賢明さはただ溜め込むだけじゃだめだ。


 何かと何かを結びつけて『考える』部分を鍛えたい。どうやって鍛えるか謎だけど。


 知識量なら断然ハウロンなんだろうけど、俺が目指したいのはレッツェの方なんだよね。


 昼に長めにだらだらして、午後は保存食作り。家用じゃなくて、冒険用の。


 軽いし手軽に食べられるジャーキーを作り、ハードタイプのチーズを扱いやすいよう切り分けてさらに乾燥、ドライフルーツ、ドライ野菜、調味料や粉類の小分け。


 装備一式改めて手入れをして、鞄に詰める。ちなみに非常用の持ち出し袋も兼ねてるんで、定期的にやってます。先に詰まってた保存食は食べてしまう方向。


 同じものがカヌムにもあるので、そっちも整理。ついでに借家に洗濯物の袋を置きにゆく。


 集荷はディーンたちの分に便乗してるんでね。夕食用にパンも置いてきたよ!


 日々の蓄えと備え。


 日本にいた時はいざとなったら買えばいいやだったけど、時間も手間もかかるけど、堅実に生活してる!って感じで嫌いじゃない。


 精霊の手伝いがたくさんあって、余裕があるからだけどね!





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