第655話 続くモノ
食事を終え、酒に移行。
ディーンとクリスは最近唐揚げとビールにはまっている。ご飯の後に良く入るなぁって思うけど、ビールのきりっとしたのが好きみたい。
と、言っても、カヌム周辺のビールがぼけた味なだけで普通なんだけどね。こっちのデフォなビールは穀物そのまま入ってるし、なんというか甘くない甘酒状態というか、カロリー源というか。
ワインのほうが俺の感覚のワインらしいのあるかな。こっちもピンキリで、保存方法があれで古くなるほど、どんどん香辛料マシマシになってくけど。ついでにワインを作る過程で出た、葡萄の搾りかすに水を加えたヤツをワインと呼んでたりするとこもあるんで本当にピンキリすぎる。
それは置いといて。
アッシュと俺、執事にはお茶とシュークリーム。酒は食事の時に飲んだからいいや組――というアッシュのおやつタイム。
ハウロンは甘いものより本日は唐揚げ選択、食べ物のチョイスと食べる姿は男らしい。
「さて、これです」
テーブルにだしたのは、黒い不透明な石に嵌め込まれた、宝石質の青い石。
「お? テンカ氏族の守り石じゃねぇか。懐かしいな」
ディノッソがビール片手に嬉しそうに言う。
「テンカ氏族……?」
これが『青光石』なんですけど。
「北の大地に住む、氏族の一つで、黒山周辺で魔物化した象アザラシを狩って、生計を立ててるやつらだな。全員むちゃくちゃ強くてな」
にこにことディノッソ。
「ああ、クリスドラムの人たちと、北の大地に根付いた人たちって、元は同じだったみたいだし、そっちに残っててもおかしくないか」
ディノッソを眺めて口にする。
エシャの民が青い円環を持っていたように、失われたんじゃなくって、名前を変えて役割も変えて、それでもずっと続く何か。
「何、これが『青光石』なのか?」
驚いた様子のディノッソ。
「うん。中に眠る精霊に確認したし、間違いないと思う」
「へえ……。機会があったら、テンカのやつらに教えてやろう。ルーツが分かったら喜ぶかもしれないし、話の種だ」
『青光石』をじっと見つめるディノッソ。
「一つあげるよ。今のテンカ族の守り石と比べてみて」
俺も後で見に行こう。
「いいのか?」
「うん、みんなにもひとつずつ。『滅びの国』の風見鶏を守った記念に」
机の上に石を並べる。
「あら、この白い記号は随分古い文字ね。方角と精霊と……これは何かしら?」
ハウロンが手に取って、繁々と眺める。
「ここのマークは一つずつ違うみたいだな?」
「こっちは一緒だよ」
レッツェとクリス。
「こちらも一緒のようだ」
見せ合っているディーンとアッシュ、執事。
「どれがどれだ分からないが、願いか目標を刻むっていってたかな? いくつかパターンがあって、簡略化された象徴らしいけど」
ディノッソがジョッキ片手に石を親指で撫でながら言う。
「まさかバルモアに解説されるなんて……っ」
ハウロンが衝撃を受けている。
「ちょ! 俺をなんだと思ってる? 金ランクよ? 伝説の王狼なのよ!?」
ディノッソって、そこでなんでちょっと女性っぽいもの言いになるんだろう?
「バルモアは格好いいです!」
そしてきらきらした目のですます調ディーン。
「盲信はよかねぇぞ?」
呆れた顔のレッツェ。
「憧れは特別なのだよ!」
こちらもきらきらしているクリス。
「うむ」
相槌は打っているけど、新しいシュークリームに集中しているアッシュ。
それを見守りながら、自分もシュークリームを口に運ぶ執事。執事的には唐揚げもシュークリームもちょっと好みの範囲からはずれてるんだろうけど、アッシュが幸せそうなら満足って感じが漂ってる。
「これはキャプテン・ゴートのやつと同じか?」
レッツェが『青光石』を光に透かして見ている。
「うん。太陽が見えない時に空にかざして、太陽の位置を知る道具だね。青い石の中の線が二つ重なったら、そこに太陽がある感じ。中に精霊がいるから、猫船長のやつより正確だと思うよ」
「時間が分からねぇと、方角が分かんねぇな」
「なんか一緒に円盤があったから、時間はそっちかな?」
「『王が曇り空に石を掲げると光が放たれ、隠れたる太陽を探し当てた』だね。猫船長からもらったものより、こっちの方が物語のイメージにぴったりだよ」
嬉しそうなクリス。
「そんな物語があるんだ?」
「『入り江の王』や『北の覇者の物語』だね。内陸のここでは馴染みがないかな?」
クリスが笑顔で首をかしげる。
クリスの故郷はいろんな物語が溢れてそうで、行くのが楽しみだ。
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