第654話 故郷

『こっちってなんだかわかる?』

刻みの入った円盤を持ち上げる。


『太陽が出てる時に使うものよ』

『何度か出して刻むものよ』


『気にしているのは時間かしら?』

『気にしていたのは方角かしら?』


『ありがとう』

こっちはよく分からなかったけど、猫船長の船にも聞かないとなんだかわからない道具はたくさんあったんで、きっとその中のどれかの機能があるんだろう。


 棚に馬具一式とか、セットっぽい装飾品とかを飾ってゆく。飾る順番迷う、北の大地系列や砂漠系列で並べるか、『旅人の石』セットで並べるか。


 今は『旅人の石』を集め始めたのがきっかけなんで、1箇所に集めてあるけど。


 猫船長の持っていた、北の大地の民が太陽を探す『サンストーン』。

 流浪の民エシャの持っていた、『青い円環』のお守り。

 中原の旅人が持つ、旅のお守り『ムーンストーン』。

エスの旅人が身につけていた、『旅人の守護石』。

 エトルの旅人が身につけた、『夜の安全を守る石』。

 クリスドラムの船乗りたちが使った、正しき道を指す『青光石』。


 残るは、放浪の民アトラスが身につける『不透明な水色の石』。


 放浪を始める前は、大昔に海に沈んだ島に住んでいたらしい。その痕跡があるタリア半島の南西の海で聞いてみたけど、それっぽい石はなかった。


 レッツェも知ってたし、すぐ見つかると思ってたんだけど、最後に残ってしまった。とりあえず、迷宮に行って戻ってきてから探そう。


 なんか黒い枝の精霊に追いかけられてるみたいな話も上がってたし、『滅びの島』みたいに色々あったら、落ち着いて迷宮いけなくなってしまう。


 『青光石』はたくさん引き上げてもらったから、みんなに1こずつあげよう。猫船長も欲しいかな? 船乗りの石だしね。


 首飾りとか指輪とかはここのディスプレイでいいか。またなんか王冠あるのはスルーします! 人目につかなければ、引き続きなかったことになるはず。


 北の大地までは行かなかったけど、近いところで海風に吹かれて寒かったんで、星をみながら塔の風呂に浸かる。


 日本にいた時の星座はないけど、こっちの星座は大分覚えた。陸にはもっとわかりやすい目印があるせいか、カヌムで聞く星座や星の種類はとても少ない。


 代わりに海をゆく船乗りたちが多い、この辺りでは星座の種類がぐんと増える。星は夜空に変わらずにあるのに、場所で増えたり減ったりするのは面白いね。


 数日後、また皆んなであった時に、『青光石』を手に入れたことを報告。


「結局『青光石』はどこで見つけたんだい? どんなものだった?」

クリスが聞いてくる。


「イスウェールのそばで拾ってきた。今は北の大地に直接船を乗り入れることも多いみたいだけど、大昔はあそこが唯一の交易できるとだったみたいだから。『青光石』はごはん食べた後に見せるね」

クリスの問いの前半に答える。


 見た方が早いし、今はごはん。


「イスウェール、女海賊の伝説がある国だね!」

 クリスがきらきらした目で見てくる。


「そんなに有名なの?」

「私の国ではみんなが知っている冒険活劇の主人公さ!」

胸片手を当てて、もう片手を伸ばして見せるクリス。


 相変わらず大袈裟なんだけど、慣れた。クリスらしいしね。


「へえ、本になってるなら読んでみたいな」

「私の故郷は本は少なくてね、寝物語や口伝になるかな。ああ、でも他の国では本で出てるよ! ちょっと話が違うところと、最後が大団円になっているところを除けば大筋は一緒さ!」


「え、最後違っちゃ違う話になっちゃわない?」


 人魚姫が泡にならないパターンと一緒? 不条理を学べなくなっちゃうぞ?


「物語としてはその方が盛り上がるからしょうがないんじゃないかな? 私も主人公には幸せになってもらいたかったし。――ちょっとこれじゃない感はあるけどね」

クリスが笑う。


「えー。じゃあ俺、クリスの故郷で話を聞いてから、本で読もうかな。最初に大団円読んで、後で事実近いほうしったらダメージくらいそう」

「その時は村一番の語り手を紹介するよ」

ウィンクしてくるクリス。


「あらいいわね、アタシも聞きたいわ」

「じゃあハウロンも一緒にいこうか」

大賢者が興味津々。


「お前は先に誘う人がいるだろ」

レッツェがそっと言ってくる。


「レッツェも――」


 つつかれました。


 これはあれだ、こうか!


「アッシュ、そのうちクリスの故郷に遊びに行くけど一緒にどう?」

「うむ。たまにはのんびりするのも良い」

了承してくれるアッシュ。


「今度こそピクニックだね。何もない田舎だけれど、草原の広がる丘陵が続いて、気持ちのいいところさ」

草原を思い出しているのか、腕を広げて目を閉じるクリス。


「草原か、ルタ連れてってもいい?」

「もちろんだとも!」

こちらも快諾。


 ……。


 なんかレッツェと執事はため息をついてるし、ディーンとディノッソの視線が痛い。


「私も馬を連れて行っていいだろうか?」

アッシュも馬連れ希望。


「もちろん! あそこで馬を走らせるのは格別だよ。厩にも空きがあるはずだから、遠慮なく使ってくれたまえ」

にこにことクリス。


 故郷に興味を持たれると嬉しいよね。


 アッシュと一緒に遠乗りはよく行くけれど、だいたい同じ場所だし、いつもと違う風景は、ちょっと楽しみ。

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