第653話 青光石
『青の精霊島』で大分精神が向上したんで、『旅人の石』を探しに。
シュルムと滅びの国に挟まれた海の上にある島国イスウェール――の、南の島。昔から北の大地と他の国との交易をしてた場所。
イスウェールは、『王の枝』があるんじゃないかってことでも名前が上がる、北の大地の民の国。
北の大地の民は、今は多少マシになったけど閉鎖的で、昔はその島より北に上がってきた船は物資を奪ってことごとく沈没させてたみたい。交易、兼、海の防衛のための寄港地の一つ。
時代が降って、定住した人たちの国になっちゃったみたいだけど。強い女性リーダーの伝説とかも聞いた気がする。
の、さらに西にある無人島に来てます。
夜に来るの嫌だったし、人がいるところでは目立つしでここだ。島の海岸、寄せては返す波にカラコロガラガラと小石が踊って音を立てている。
『お邪魔してます。この周辺の海の、沈没船の持ち物で青い石の類があったら欲しいんだけど、お願いできる?』
海水に手を突っ込んで、弱い魔力を送りながら頼む。
波に攫われ、小石に引き込まれるように広がる魔力。ひとところに溜まらないよう、ゆっくり細く。
『なあに〜?』
『青い石〜』
『お船〜』
『沈没したやつ〜?』
『あるところ深いよ〜?』
『僕、潜れない〜』
『いっぱい何か溜まってる〜』
『貝がいっぱい張り付いてる〜』
『砂もいっぱいだよ〜』
『埋まってるのもあるよ〜』
『大波に洗ってもらえば〜』
『小波に洗ってもらえば〜』
『海流さんに動かしてもらうのが先〜』
『青いのわかる〜?』
『みんな真っ黒だよ〜』
『青って何〜』
『光がないと分からない奴〜』
浅いところにいる精霊たちには無理っぽそうだけど、どうやら伝言ゲーム形式で頼んでくれるみたい。
ちょっと暗い海の中に行く気にはならず、絶対距離あるのが分かっていて頼んでいる。
『滅びの国』が北の民たちと別れた後、交易してたならこの辺りを通ってたはずなんで。略奪しに内海にも行ってたようだけど、あっちは他にも色々沈んでそうなんで、ここの方が早いかなって。
古い文化を追ってると、ドラゴンの飛ぶ大陸からだんだん北上してってるみたいだからね。
『周りになんかついてたら一緒に持ってきてくれると嬉しい。……俺に抱えられる範囲でだけど』
船ごと持ってこられたら困るので、一応付け加える。
『はーい』
『聞いてみるね』
『尋ねてみるね』
白波の精霊たちが海中に戻ってゆく。泡の精霊は弾けて大気の精霊に混じるモノ、境界をなくして海の精霊に混じるモノ、消えないまま小さくなって、また海岸に押し寄せた時に大きくなるモノ。
何か動いている場所の精霊は、姿が目まぐるしく変わるモノ、いなくなるサイクルと生まれるサイクルが早いモノが多い。同じ精霊でありながら新しい精霊って感じ。記憶も半分くらい持ってるみたいだし。
カラカラコロコロと石の洗われる音を聴き、精霊たちと話しながら待つ。
『これはどう〜?』
濃い青い石の嵌った金の指輪。
『違う』
『これはどう〜?』
青い石の嵌った金の……馬具かなこれ? 鞍と鎧と馬の顔当てとか。
『違う』
『これはどう〜?』
明るい青い石のついた鳥の形のブローチ。
『違う』
『これはどう〜?』
青い石のついた腕輪が数個。
『違う』
『これはどう〜?』
青い大きな石がたくさんついた首飾り。サファイア? スピネル?
『違う』
しばらくそんなやりとりが続き、積み上がってゆく財宝。そうね、行先を指し示す『旅人の石』は船に一つか、予備を入れても二つ。積んだ財宝はたくさんだね!!
『これはどう〜?』
よく分からない持ち手のついた円盤。盤面には子供が描く太陽の周りにあるようなギザギザと青い石、真ん中に立つ針と時計の針みたいな回る針。
お? 日時計みたいだし、これか? ついてる青い石が小さいし、ただの装飾にみえるけど。
『これはどう〜?』
眺めてたら次が来た。
黒っぽい丸い石の真ん中、反対側が透かせるように青い石が嵌っている。青い石を囲むように、黒い石には白い模様が刻まれている。
……。
どっち!? どっちが正しき道を指す『青光石(せいこうせき)』!?
精霊たちにお礼と魔力を分けて、財宝を抱えて島の塔に。
迷った挙句、円盤のと、黒い石に嵌め込まれたのと、同じものをいくつか引き上げてもらった。
コレクションルームの作業台に集めたものを出す。まずは観察して、種類ごとに分ける。
財宝は海に浸かってたんで、海の精霊の影響をたっぷり受けてる。青い石と相性が良かったらしく、中には精霊が入り込んでいるものも。
汚れていたり、ひしゃげていたりすると機嫌が悪くて起きなかったりするんで、まずはお手入れ。錆が浮いてるものは錆を落として綺麗にする。
精霊金も精霊銀も用意済み。ただ、円盤のやつは木製もあって、これはどうしようかな? これはこれで朽ちたままの方が格好いいような気がするし、このまま飾っておこうか。
不透明な黒い石の真ん中に嵌った青い石にも精霊がいた。光に透かすと、一段濃い青色のドレスを、魚のヒレのようになびかせている精霊が見える。
『こんにちは』
『何かしら?』
『誰かに覗かれるのは久しぶり』
声をかけたら2つに別れた。まったく同じ精霊が二人。
『君たちはどんな精霊?』
『私たち?』
『知りたいの?』
『うん』
『太陽は嫌いなの』
『太陽が好きなの』
『そうなの?』
海の精霊じゃないっぽい?
『太陽に向けられるともう一人に隠れるの』
『太陽に向けられるともう一人を隠すの』
『曇っていても太陽を見つけるわ』
『曇っていても光を向けるわ』
『君たちは『青光石』って呼ばれてる?』
『そう呼ばれるわ』
『呼ばれるわね?』
よっし!!! こっちが『青光石』!!!! すっきりした!!!!!
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