第641話 休憩

「大地の揺れは、大抵強大な精霊同士の争いで起こるの。もっと大きな破壊の波紋が精霊界で起きていて、それがこっちにも影響を与えている。その波紋は魔法や呪いにもヒビを入れるの」


 ハウロンが教えてくれる。


「ヒビ?」

「ヒビと呼ばれたり、破損と呼んだり。とにかく不具合がでるのよね、結構メンテが大変よ」

ため息をつくハウロン。


「大地の精霊は動くことはあまりない、安定した性質の精霊でね。だから長きに渡る魔法を望む場合は、魔法のためのアイテムを埋める場合が多いのよ」


 なるほど『朝焼けの法』もハウロンの『転移の秘法』も、何か埋まってるね。『転移の秘法』はお墓参りを強制的に兼ねるみたいなこう……。


「なんかこう、対策は?」

「なるべく長く損なわれずに置く対策が、石に刻んだり埋めることなのよ」


 確かに対策の対策は面倒くさそうだ。


「『大地の精霊は他の精霊と争うことも少なく、相性はあるものの受け入れる性質』だっけ? 度量が広いなぁ」

本をめくりながらディノッソ。


「大地の精霊への信頼が厚い」

よく揺れる印象があるのはどうやら俺だけのようだ。


 ん?


 そういえば俺はパルのこと、みんなに言ったことあったっけ? 可愛さ一番選手権、パル参加はどうだったんだろうか……。


 まさか参加で揺れてないよね、大地?


「ま、今回はとりあえず魔法石の場所の確認だろ」

レッツェが確認していた本をパタンと閉じながら言う。


「そうよね。目の前のことから片付けましょう」

ハウロンが資料の山に手を伸ばす。


「ご先祖さん、埋めた場所にもっと分かりやすい目印でも立てておいてくれたらよかったのに」

「埋めるだけでも『滅びの国』の不変の呪いに逆らってるのよ、大目に見てあげて」


 コーヒーを飲みながら、それぞれが資料のチェックをしている。色々難しいことも書いてあるけど、とりあえず魔法石関連のことが書かれたものを抜き出し、意味のわかるハウロンに投げる感じ。


 書いてあることが難解なのもあるけど、ハウロンのご先祖様の暗号文みたいな資料もあるんでなかなか大変。


「一族の暗号、ジーンは普通に読むのね……」

「まあ、うん」

ハウロンがなんともいえない顔で俺を見てくる。


 だって、普通に日本語が浮かんでるしな。特定のルールで書かれたものは、【言語】さんが言語判定してるっぽくて、暗号でもなんでもない文章が浮かんでるんですよ!


 ……視線が痛いんで、休憩を兼ねて飯を出そう。


「ご飯食べよう、ご飯。汚すから資料――どけるより、俺たちが移動した方が早いな?」

テーブルに広がった資料を見て言い直す。


 該当箇所が開いて置いてあったりするので、これを動かすとわからなくなる可能性がある。


「ちょっと俺の家に移動しようか」

「おっしゃ! 肉をリクエストするぜ!」

急にイキイキとし始めたディーン。


「この貴重な叡智の山は私には難解すぎて、ちょうど休憩したかったところだよ!」

クリスがいい笑顔を見せる。


「滅多にない機会とはいえ、いささか目が疲れましたな」

「うむ、適度な休憩は効率をあげる」

黙々と資料に目を通していたアッシュと執事も賛成。


 本を置いて、伸びをしたりあくびをしたりしながら俺の家にみんなで移動。


 ディーンから肉のリクエストを受けたので、今日はシンプルにステーキ。肩ロースとサーロンの間のリブロースを焼いた、トマホークと呼ばれる骨つきステーキ。


 火加減は気を使ったけど、塩胡椒、ローズマリーを塗りたくって、酒を振ってニンニクと焼いただけ。ディーンはちょっと歯応えのあるガッツリした肉が好きだ。つい色々手をかけたくなるけど、我慢。


 肉! って感じ、俺も嫌いじゃないし。顔よりでかいぞ!


「おー! いい匂い!」

ご機嫌なディーン。


 ディーンほどじゃないけど、みんなよく食べてくれるので、提供しがいがある。執事はちょっと少食だけど、代わりに美味しいものを求める感じなので、こっちはこっちで料理のしがいがある。


 あっさりしたコンソメスープ。焼き野菜、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、アスパラ、ミニトマト。パンと味のしっかりした少し重い赤ワイン。


 肉と焼き野菜はまな板っぽい木の皿でどんっ! 食事用のナイフというには、だいぶゴツいナイフを添える。


「肉なのに野菜の彩りが鮮やかだよ」

クリス。


 肉の付け合わせは、こっちでも焼き野菜がメイン。だけど、玉ねぎだけとか、蕪だけとか、ちょっと寂しい感じ。


「美味しそうですが、私は半分――いえ、三分の一でお願いできますかな?」

「ノートは俺と分けようか。俺、丼にするし」

「丼、でございますか? 私もそちらでお願いしても?」

丼ものも時々出すので、執事も知っている。


 というわけで、せっかくのトマホークステーキだけど、そぎ切りにしてご飯の上に並べ、タレをかける。余った三分の一の肉は、俺が骨についたまま齧るよ!


「うわ、それも美味そう」

自分の肉と、出来上がった丼を交互に見るディーン。


「ディーンも食う? 両方いけるだろ?」

ディーンはこの中で一番大きな胃袋を持つ男だ。


「おう!」

嬉しそうに返事をするディーン。


「私も半分、丼にしてもらってよいだろうか?」

「私も希望するよ!」


 半分ステーキ、半分丼の希望が続出。トマホークステーキはおおきいのがロマンだけど、胃袋と相談したらそうなるよね。


 ディーンは軽々クリアだけど、ロマンと現実の両立は難しい! 

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転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 じゃがバター @takikotarou

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