第3話 前回のイベント
これは、あの二つ名がクランに付くことに成った例のイベントの話。
数回行われた運営のイベントでそこそこの成績を残した”紅蓮の矢”。
クランの中では、強豪と肩を並べられるかどうかにまで、躍進を続けて来たときに開催が案内されたイベントには、
”イベントの優勝クランには、特別ミッションが与えられます。攻略の暁には数々のアイテムなど豪華なプレゼント満載、是非参加しましょう!!”
等という煽り文句が添えられていた。
もちろん、詳細は後日と不明瞭な点も多々あるが、我がクランの名声を上げるにはもってこいなのも確かだ。
などという深い考えもなく、参加をポチったクラマスでしたが、イベントの内容を吟味するにつれてかなり面倒な事が判ってきた。
イベント自体は大きく分けて2つのステージで成り立っていて、各ステージの上位2位までのクランが最終的に直接対決で優勝を決め、勝者には特別ミッションへの参加権利が与えられる、という流れだ。
各ステージにはタスクが設定されていて、それぞれのタスクの評価には、
”目標値までの最短評価”、
”最高値での評価”、
そして
”連携(同系列のタスクをコンプリート)上乗せ”
が基本で、重みについては、それぞれのタスク毎に設定されている。
例えば、
”ワールド内の特定アイテム集め:隠されているアイテムを100個先に集める(最速)、最大数集める(最高)、類似アイテム集めのタスクもクリアする(連携)”
といった感じで、多種多様なタスクがあり、ステージ途中でも、随時増える様だ。
各クラン同時に手をつけられるタスクは7つまで、また進捗中のタスク情報を公開モードにすると、進捗の上乗せボーナスとして10%増しに成るが、他のクランに選択権を与えることに成るので、諸刃の剣でもある。
サブマス達との協議で、基本戦略としては3ないし4つのタスクは、最速と最高を狙って回し続ける。
残りの枠は、最速を狙って食い散らかす、ということで、相手の連携阻止を軸にすることで決まった。
選択タスクとクラメンのアサインはサブマス達が調整してくれると成ったが、情報公開については意見が別れた。
10%増しは魅力的だが、他のクランに知られると、まだやっていないところを先に押さえられてしまう恐れが大きい、と言う意見と、逆にオープンにした方が、手をつけてるぞと言う宣言になって、抑止力(占有しやすい)に成ると言う意見で対立した。
これについては、サブマスが見つけた、”継続不可能なタスクは保留の上、新規のタスクを実行可能”、と言う一文の解釈で戦術がオープンに決定した。
基本、抑止力として開示するわけで、回し続けるタスクについては、時間を決めて切り換えることで、継続中をうやむやさせるのと、最速を食い散らかす物は、片っ端から終わらして切り替えることで進捗のアピールが出来る、という様に見せられると考えがまとまった。
イベントが始まって公開を選択していたクランはうち以外に3つで、そんなに規模の大きくない所ばかりだった。
そこのは参照することにして、黙々と情報はオープンにしながら進めていった結果、ステージ1の200タスクの内、最速60、最高12、最速での連携7、最高での連携1という結果を得た。
これは参加クランの中で断トツの第1位、ちなみに勝因は、連携の阻止がほぼ完璧に決まった為で、うち以外のクランが取った連携の合計は、最速で1、最高で3に留まっていた。うちの阻止以外は、相互で潰し合ってくれたおかげだし、サブマス達のスケジューリングとクラメンのたゆまぬ努力の結果だ。
ステージ2も同様な手で進めたが、さすがに大手もそれなりに戦術は更新して来ているので、苦戦の結果5位に成った。
ステージ1を押さえているので、決勝進出は出来るが、ステージ2も取れていれば枠を2つ押さえた分有利に成れたが、まあ仕方がない。
同様な戦術を取られても、5位に入れたのは、サブマス達のコントロールのお陰で、うちの規模では実質的に強豪に勝ったと言っても問題ない、とクラメンとサブマス達を誉めておいた。
次は頂上決戦、全力で当たるしかないが開催は次の土日で、内容は水曜に発表との事だ。
それまでの間は一旦休憩モード入り英気をやしなってもらう。
水曜にレギュレーションが発表されてから、クラマスは戦略を立てることにする。
サブマス達の予想は、クラン同士の対人戦で、人数制限有りで、総当たりか、勝ち抜きかと言った辺り。
まあ、大体そんなところだろうとクラマスも考えていた。しかし、運営の発表は予想だにしないものだった。
入賞した各クランには、100枚の特殊なコインが配布される、またそれぞれ入賞出来なかったクランには、イベント用の特殊なアイテムが配られる。
それをコインと交換して最大数集めたクランが優勝となる。ここで大事なのは、配られるアイテムはカテゴリーが別れていて、それぞれで組み合わせがあり、それを集めるとポイントが高く成ると言うもの。(トランプや麻雀の役みたいな)
また、アイテムを持っているクランには、コインと交換が行えて、かつそのコインのクランが優勝すると、コインで交換できるアイテムの量が三倍に成ると言うルールで、交換に関しては、まず土曜日に、アイテムを持っているクランが登録をする。
これは、アイテムの内容を公開しても良いし、伏せておいても良い形で、また交換先を逆指名しておくことも出来きる。
日曜日に入賞クランは、欲しいクランに対して入札を掛ける。
この時、同様に指名と無指名を選択が可能。
指名と逆指名が合って、他に競合がなければ、成立かつ逆指名側のクランはコインを倍入手できる。
そこに、もう1つ他のクランからの指名が入ると、御破算となり両者のコインもアイテムも消滅。
逆指名した相手とは違う所からの指名についても同様に、御破算。
逆指名をしなくて、複数指名されても御破算。
成立するのは、単一同士の組み合わせでかつ逆指名-無指名、逆指名しない-指名、逆指名-指名、の時のみに成る。
という事でこの複雑なルール以前に他のクランとの裏取引が重要なイベントであることは確かだ。
逆指名が無視名枠を越えた場合は、ランダムでマッチングされるので、人気者は枠一杯に集めやすそうだ。
サブマス達は、情報収集と裏ネゴに掛かりきっているので、クラマスは戦術を考えるしかない。
まずは、状況分析から。他の決勝進出クランは、強豪の、斧、車輪、鉄。それぞれの傘下やら同盟やらのクランをそこそこ抱えているので、そことは直接取引をするだろう。
それに役に成るアイテムを集めるのと、集めさせないと言う点も、考慮しないといけない。
また、オープンにされているアイテムについての扱いだが、基本欲しいものが出ていれば指名したいが、競合やフェイクで逆指名入れているかもしれないので、迂闊に手を出すのは危険だ。
考えれば考える程よく運営はこんなルール考えたなーと感心するばかり。
一応、サブマス達と取り決めた基本方針としては、
1.裏ネゴをとっても、基本対価はコインのみで他の融通はしない。
2.中身を教えてくれて、逆指名もしてくれる協力的な所については、役に使えそうであれば、指名するが、そうでない場合は無指名枠は残しておくので、運頼みになる主旨を伝える。
3.クラン規模にかかわらず声をかける。
と言ったところで、公正公平で動くことをアピールしておく。
これって、クラン同士の繋がりが良くなる反面、汚なかったり、アコギな事をすると 、後で総スカン食らう恐ろしいイベントであることも実感した。
現在、アクティブなクランは、約500、コインは全部で400なので、きれいに配分されて80%、多分かち合うのが出るので60%程度のクランで有効に成るくらいか。
ならばうちは80%以上の有効性を先に宣言してしまえば、かなり集まるのでは?でも集まり過ぎたら、抽選に成ってしまう、それで外れたら運営が悪いと言うことで済ませばいい。
と考えたら、気が楽に成った。
サブマス達と相談して、それだったら宣言しちゃいましょう!と言うことで、パブリックボードに
「紅蓮の矢は、来る決勝戦で80個以上のコインを無指名で登録します!」
と書いておいた。
ネゴがとれて有望なアイテムを持ったいくつかのクランに対しては、指名枠で入札、残りは相手の邪魔の為に、重複入札をかける。
これで、日曜を待つばかり。
巷の評判は、すこぶる良く、
”潔い”とか”宝くじと思って逆指名します”
とか色々な反響が有った。
以外だったのは、逆指名してくれた上に、アイテムの内容を結構なクランが教えてくれた事だ。
倒せ強豪の一言なんだろう。
おかげで、幾つかの役については目処が付いた。
後は相手の邪魔がどれくらい出来るかが決め手だ。
日曜日、指名予定のクランに対しては、入札を終え残りはどう邪魔するか、ここが勝敗を決めるわけで思案のしどころだ。
特にオープンされている20枚の扱いが問題だ。指名に使う分があるのでここで使えるのは最大9個まで、場にはうちが欲しいのと、相手に取らせたく無いのが合計5枚。
これには入札しかない。
あとは、残りをどうするかだ。
相手の同盟クランに入れて邪魔をする、が基本路線だがコインは無駄に成るし、必ずしも同盟クランが良いアイテムを持っているとは限らないので、邪魔に成らない可能性も有るわけで、うーん悩み所だ。
サブマス達の意見も別れたが、基本妨害に入れておこう、が主流だった。
ここで、クラマスは考えを180度変えて、潰すより増やす方に掛けよう、と提案することにした。
効果の判らない指名よりも、逆指名してくれたクランへの恩返しも兼ねた方がより建設的な感じがするし、うちのクランらしくないか?
と投げ掛けると、みんなの同意が得られたので、残り4コインは無視名枠に入れることにして、設定を確定した。
後は、結果を待つばかり。パブリックボードに、
”枠拡大ありがとう”、
とか、
”応援してます”
など好意的な書き込みが流れているのは嬉しいが、なんで枠の事を知っているのか疑問に思ったら、サブマスがうちが最初に確定したので、数が出ているんです、と教えてくれた。
”紅蓮の矢、指名:16、無視名:84”
これを見てくれてたのか、いつの間にかステータスボードが建っており、そこに決勝進出クランの状況がアプデされ始めていた。
サブマスと、登録の最速は貰ったなどと冗談を言っていると、他のクランも登場し始めた。
ほとんどクランは指名が半分を越えていて、一番多いところで92個も指名になっているところも有った。戦略の差とは言え、極端すぎるね、とサブマスと苦笑いしている間に、開票がスタートした。
運営は気合いの入れ所が違うのか、結果発表もかなりの手の入れようだ。
始まりに花火が上がるのは愛嬌として、開票が動画的に表現されるとは思わなかった。
まず、ステータスボードが一面真っ暗になって、小さな星の様な輝きが、500個位現れた。
これは各クランだろう、そしてそれより少し大きな別々の色の付いた星が4つ、むろん決勝参加クランでうちは深紅だ。
次に、各クランから白い線が伸びて、参加クランに繋がった。
ほー、逆指名を現しているのか、出ている線のほぼ半分がうちに繋がっている、大人気なのは良いが、無視名枠はそこまで無いところが心苦しい所だ。
でも応援してくれていると実感できる演出だ。
次に、参加クランの方から赤い線が延び始めた。
指名の意味だろう、成立したものは青い線で繋がり、ダメに成ったものは切れて消えていった。
気が付けば、ボードがもう1つ現れて、参加クランを横軸に、成立したアイテムが並び始めた。
重なっているので何がいくつかまでは解らないようにしたにくい演出だ。
うちの指名はオーブンアイテムの妨害で出した2つ以外は全部成立している。
この時点でのアイテム数は、紅蓮が14、車輪が52、斧が54、一番指名していた鉄が66と成っている。
不成立分は、相手同士で牽制した分に違いない。次に無指名分の引き当ては、それぞれの白い線が緑色に変わって行くことで表現され、全部の線が塗られたときに、残ったら白い線は切れて消えていった。
この時点で、紅蓮が98、車輪が82、斧が78、鉄が74となって数は取れての首位たが、問題は役の方だ。
息を呑んで見るボード上には、入手したアイテムが山積みで表示されているので、何を持っているのかはまだ判らない。
ファンファーレが鳴り響き、ロールの後に花火のようなドンという音に合わせて、ひとつづつアイテムが山から出てきて、整列し始めた。
最低でも同じ形で5つ集まれば役になり、更に数が増えるか同じ色で数が揃えば、アドバンテージとなる。
後は、ある形で全色をフルコンプとか、同色で全部の形を揃えるとか、なかなか狙って取れるものでは無い特殊な役もある。
ボード上は3割がた山が崩され、整列したアイテムのなかには役が出来そうな物も見えてきた。
後半に入り、鉄、車輪と役が出来るなか、うちは最低役のリーチにまで達していない。
鉄がいくつかの役にアドバンテージをつけたところで、山が無くなった。うちは、最低の役がまだ2つしかで来ていない。
斧の山が無くなったが、役的には鉄には及ばない。
そして車輪が終わった所で鉄と車輪の順位が入れ替わった。
玉入れ競争ならここでうちの勝ちだが、今回は後16個次第だ。
着実に山が崩れて行くなか、クラメン達がザワザワとし始めて、”色パー!”そんな掛け声が聞こえた。
良くみると、うちのアイテムは赤に偏って集まっているようだ。
これなら全種同色が達成出来るかも知れない。
1つ、また1つとボードに並んでいくのに合わせて、掛け声が大きくなっていく、そして、違うものが出たときの落胆の声も大きくなっていく。
後は”赤い月”のアイテムだけ、掛け声もいつの間にか”あと1つ!”に変わったところで残りは3つ。
でも一番上に見えているのは、”青い星”なので実質はあと2つ。
盛大なコールの中出てきたのは、月は月でも”青い月”、落胆の声と共に静寂が訪れた。
その静寂の中、実質最後に出たアイテムは”黄色の星”、クラマスは色パーフェクトの夢破れて落胆していると、廻りはまだざわついている。
サブマスがポロっと”全色パでは?星の”と呟いたときに、最後の山が崩れてボードに並んで役の評価が付いた。
”星の全色パーフェクト”が最後に輝いて、開票は終わり。
勿体ぶって集計が始まる。
ボード上の役をスキャンするような光の線が流れながら、点数が加算されていく。
役の合計では、”全色パ”を取っていも、一位の車輪とは10点の差がある第二位。
それにアイテムの数の点数が加わり、10点の差を挽回して、堂々の第一位を獲得した。
この時ばかりは、運営の演出に感涙しそうに成った程のクラマスだったが、応援してくれたクランに何て答えたら良いかも考えないと、と悩んでいるとサブマスが、”クラマス、勝利宣言を”と言うので思わず、パブリックボードに、
「クランへの応援ありがとうございました。紅蓮の矢は皆さんのおかげで特別ミッションにチャレンジできます。この運営の難関も果敢に挑戦しますので、引き続き応援よろしくお願いします!」
と締めた。書いてしまってから、他に言いようが有ったかな?といった疑問も少しでたが、まあ良いだろう。
よし次は特別ミッションだ!と気合いをいれるクラマスであった。
後で判明したのだが、集計イベントがやけに派手だったのは、運営が後で宣伝に使うためで、そのビデオにボードを見て感涙しそうになるクラマスが映っていることを、まだクラマスは知らない。
※このイベントに参加するクランのメンバーについては、イベント期間における運営の撮影及び今後の宣伝活動への利用についての承諾を行ったと扱います。
大事なことなので、小さく書いてありました。
これも大事なことなので小さく書いてありますが、それからもう1つ、特別ミッション編は次でお楽しみください。
クラマスの憂鬱 @ROTA77Z
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