第9話
図書館。
工事は終わっていた。
扉は跡形もなく無くなっていた。
大杉は五体満足に戻っている。
表情も柔らかげだ。
あれは不思議な夢だったのか?
あてどもなく館内を彷徨う。
いつもと変わりなき人々。
いつもと変わりなき風景。
いつもと変わりなき日常。
ふと。
一冊の本が目にとまる。
『ヒュペルボレイオスとヒュペルボレオス、異形、異能と障がい者たち〜対立、共生、融合の可能性〜』
そうか。
彼ら彼女らが救われたのかどうかはわからない。
それでも。
向こうには悪が入り、こちらには姿かたちが入った。
お互いに差し出したもの。
お互いに受け取ったもの。
やるせない、捉えがたい感情がこみ上げてきた。
心の中に、ひとつの灯火が灯っているのに気づいた。
これからも、いつまでもどこまでも消えてゆかないだろう。
愛が、消えないように。
不滅であるのだから。
怒りも昇華され、滅却されたのか。
こころは穏やかでそよそよとしている。
窓の外から、あの世界の、風が吹いてきているような気がしてならなかった。
風に乗って、声が聞こえてくるのだ。
さざめきが。
優しい笑い声のさんざめきが。
そのなかに、聞き覚えのあるあの声が。
ヒュペルボレイオス 水;雨 @Zyxt
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