第8話

扉の前にいる。

大杉が倒れているのを見つけた異形が生きてくれていて良かった。

これも愛の力ってやつか。

それとも怒りの煽りか。

やることはわかっている。

問題は、取り返しのつかなくなるかもしれないってこと。

そのことについてはここに来るまでに何度も考えに考えた。

望まないかもしれない。

あとあとどのような影響があるのだろうか。

得たからって倒せるのか。

怒りは何もかもに対してその猛りを噴き出していた。

堪え切れないほどだ。

だがしかし。

やるしかない。

だから。

やった。

やってやった。

怒りの力で。

扉のノブを。

おもいっきり。

引っ張ろうとして。

世にも美しき美女神のかんばせが側面からなぎ現れ、大杉の肩ごと食いちぎっていく。

飛び散る肉片、血飛沫、思い。

こころに大きな穴が穿たれる。

思わず仰け反ってしまう。

意識が切れかける。

光だ。

闇だ。

落ちそうになるのを堪え。

扉に思わず、体当たりした。

思った、より、ないな。

とって返すかんばせ。

美女神、迫る。

もういちど。

扉に身体ごとぶつかる。

こなクソヤロォォウウウウウ!

痛みが全身を駆け上る。

意外にもあっさり扉は外れ、そのまま落ちて虚空に消える。

わだかまっていた空気が、一挙に動いた。

すう。

ごうっ。

なだれ込んでくる。

向こうの、ものが。

真っ先に。

悪が。

ほとばしり。

世界に、容赦なく浸透して広がってゆく。

異形に、入り込んでゆく。

翼持つ異形を見やる。

大杉の目から涙が。

とめどもなく落ちていた。

「ごめん…、本当に…、こうするしか、無かった…」

異形は目を閉じ、なにも言わなかった。

とても静かに。

とても自然に。

とても親しい者に語りかけるように。

「…これでよかった。君に非はない。みんなを代表して君に最大限の、最高の感謝を」

その瞬間、世界が燃え上がった。

業火に包まれる。

飲み込まれ、意識が朦朧とする。

許して…

最後に。

光が残った。

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