中二病を調査する理由 1


 白い遮光カーテンの隙間から、真夏の青い空が見えた。締め切られた教室に、クーラーの冷風が静かに流れていた。

「ミン、ミン、ミン」と窓ガラスを突き抜けて、アブラゼミの鳴き声が聞こえてくる。きっと全身で、恋の唄を歌っているのだろう。


「今日の授業は、憲法9条改正の賛否を、中東紛争に絡ませて議論してもらう! 戦争勃発が近いかもしれんぞ!」野太い声で、田村先生が言った。


 四限目の授業は現代社会だった。田村先生の声は、僕の右耳から左耳へと通過し、消えてゆくだけだった。


「――僕は未熟な人間だと思う」


 遠い国の戦争なんかよりも、僕の目の前には、もっと大切なことがある、そう思ってしまうのだ。僕の意識は黒板の複雑な文字列ではなく、一人の女子生徒に、強く反応していた。



「――僕は彼女に、恋をしていた」




つづく






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