第5話『Dora』


 ベルンハルト・シュレーゲルは、帰らなかった。

 曇天の中で騎士のように駆け抜けた彼は、どこで、どのように撃墜されたのか、誰も分からなかった。

 シュレーゲルの友人であり、相棒でもあったギュンター・アイクは、這う這うの体でベルギーからドイツへと逃げ延びたが、友軍の機関砲に迎撃されて死んだ。


 勇敢で実直なものほど、戦争ではよく死んでいくものだ。

 ベルンハルト・シュレーゲルも、その一人だったということなのだろう。

 緒戦から生き延びてきた古参の兎も、まるで他の新米と変わらないかのように死んでいく。


 私は彼と共に朽ちていく。

 私は彼らと共に忘れ去られていく。

 私たちのしたことは、きっと野蛮な行為と罵られる。


 けれど、それでも彼らはいたのだと、覚えておいて欲しい。

 私たち、あらゆる飛行機たちと共に戦い、そして死んでいった者たちのことを。

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曇天の騎士 狛犬えるす @Komainu1911

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