終わりよければすべてよし! ってそういうことなの、これ

「リジー、遊びに来たよ~」


 ゼートランドの王宮の一角。

 バラ園を望む区画の一階にわたしの住まう部屋がある。レイルと双子たっての希望で厨房まで備え付けられたその部屋には。


「もう、フェイルもファーナもちょっとは遠慮ってものを知りなさい」


 毎日のように黄金竜の双子がやってくる。送り迎えはレイアとミゼルだから親公認の王宮訪問だ。

 お付きのドルムントは「すみません、リジー様」と毎回申し訳なさそうに頭を下げる。


「まあ仕方ないわね。でも、このまえみたいに王宮で花火の魔法の練習はしないのよ?」


 レイルに触発をされた双子は最近花火魔法の練習に余念がない。

 その成果をこの間見せてくれたはいいけれど……。王宮の上空でど派手に爆発が起こって大変だった。さすがのレイルも若干頬が引きつっていた。あのときのドルムントの顔面蒼白もすごかった。


「わかっているよぉ~」


 てへって顔をする双子。

 だからその顔が恐ろしんだって。もっとちゃんとまともに花火の形になってから見せてね。いや、ほんとマジに。


「あ、今日もいい香り。今日は何を作っているの?」

「話そらしたわね」


 ファーナが人型になって鼻をすんすんさせる。

 思えばこの二人、変化へんげの魔法がずいぶんとうまくなったわね。


「今日はクッキーよ。さあ、お茶にしましょう。ファーナ、淹れるの手伝ってくれる?」


 口ではなんだかんだ言いつつも、わたしだって双子のことは大好きで。

 結局毎日お菓子を作って待っていたりもする。


「もちろんよ。今日はね、森の精霊からハーブを預かってきているのよ」

「僕も! マンドラゴラじゃないよ。ちゃんと美味しいお茶になる葉っぱを預かってきているよ」


 二人は相変わらずわたしに懐いてくれていて。

 いまではすっかりリーゼロッテは竜の乙女だとこの国の人に認知されている。


「ありがとう」

「えへへ」


 はにかんだファーナの頭を撫でて、わたしたちはハーブ茶を入れる準備を始めた。

 ちょうどお茶が入ったところでレイルが顔をのぞかせた。


「お。いいタイミングだったな」

「あ、レイルおかえり~」

「ファーナもフェイルも今日も元気いっぱいだな」

 レイルは双子の頭をがしがし撫でた。


「クッキーはもうちょっと冷ましてから、あなたたちのお土産ね。今日のおやつはミルフィーユよ。温室特製のイチゴ美味しいわよ」


「わぁぁ!」


 きつね色のパイ生地に真っ白なクリーム。それから赤く色づいたイチゴのコントラストが美しい。クリームと苺をパイで挟んだお菓子に双子が歓声を上げた。


「相変わらずリジーの作るお菓子はうまそうだな」

「今日のは自信作なの。結構頑張って試行錯誤を重ねたんだから」

「それは楽しみだな。それよりリジー、王宮女官の登用試験受けたいとか言ったんだって? 駄目だろう。お妃は女官試験は受けられないぞ」


 ちっ。もうレイルに話が回ったか。

 話を聞きに行った女官長、あきらかに目が泳いでたし。


「わたしは、お妃になんてならないわよ。地に足のついた生活を送ることが当面の目標なんだから」

「俺の嫁は地に足付きまくっているから!」

「あーもう。うるさい。ミルフィーユあげないわよ」

 わたしは奥の手を繰り出した。


「あー、リジーとレイル痴話げんかしてる~」

「相変わらず仲いいね!」

「ちょっ、二人とも! どこでそういう言葉を覚えてくるのよ!」


「えええ~、お母様が教えてくれたよ。ねーフェイル」

「ねー、ファーナ」

「もうっ! みんなしてぇぇぇ!」


 今日も、わたしの周りはにぎやかで平和。

 まあ、これはこれで悪くはない結末なのかな。

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