つい汚物を消毒したくなる系男子の私刑サイト

ちびまるフォイ

あのね、わるいことしたら、ばつをうけるんだよ

『お客様は神様だっつってんだろ!? おぉ?』

『そこに座れよ!! 土下座しろや!! おら!!』

『ろくな教育もうけねぇクソがよぉ! 死ねやコラ!!!』


テレビでは閉店時間に断られた客が店の前で騒いでいる映像が映っていた。

店員はぶるぶると震えながら「すみません」と縮こまりながら地面に土下座している。

その様子を友人なのかが撮影していた。映像には笑い声も入っている。


「ひどい……」


店員さんが気の毒でならなかった。

テレビを見た直後に友達からメッセージが届いた。


< ニュース見た?


  見た >

  あのクソ男? >


< そそ

< 一緒に私刑にしてやろうよ

< https://www._______



友達から送られたアドレスは『私刑サイト』につながった。



【 ひとをのろわばあなふたつ 】


 利用には登録が必要です 



情報を入力してサイトに入ると、今しがたテレビでやっていた男が表示された。

顔画像の下にはたくさんのコメントと1つのボタンがついている。


「いいね」かと思ったが字数が少ない。


【 しね 】


親指のアイコンとその文字が書かれていた。

友達に言われるがままに「しね」ボタンを押した。


『おめでとうございます。1000しねが達成されました』

『対象者のプロフィールが公開されます』


コメントにはキリ番しねを送った俺に絶賛のコメントが流れる。

と、同時に男の名前、生年月日、職歴、家族構成、学歴などなどがサイトに掲載された。


『教育とかのたまってたくせに中退じゃねぇかwwwwwwwww』

『手術歴見てみろ。薄毛治療してるってよ』

『こんな男でも結婚できるのか。女もたいがいだな』


掲載された男の素性にコメントはお祭り騒ぎ。

友達からも大いに感謝された。


『お前がしねしてくれたおかげでコイツを追い詰めることができたよ』


「いや俺はボタン押しただけだし」


『こうやってみんなが少しづつしねを貯めていくことが大切なんだよ。

 みんなで力を合わせて悪いやつをやっつけようぜ』


プライベート情報が公開されたからなのかはわからないが、数日後男は逮捕された。

けれど私刑サイトには残り続けて「しね」も以前増え続けた。


『あんな軽い罪で許されるわけ無いだろう』

『ああいうやつは反省もせずにまた再犯する』

『きつくお灸をすえとかないと。教育(笑)だな』


『おめでとうございます。10000しね達成されました』

『対象者の周囲の人間の情報が公開されます』


今度のキリ番は俺以外の人だったのは残念だったが、男の関係者が公開される。

家族はもちろん、友達や飼っているペットまで。


『友人みんな薄毛治療してるな。類友?』

『こいつの元カノの学校俺と同じだ』


男の逮捕劇で収まるどころかますますエスカレート。


『おめでとうございます。100000しね達成されました』

『対象者の住所が公開されます』


『おめでとうございます。1000000しね達成されました』

『対象者の現在の行動が公開されます』


サイトにはマップが掲載されて男の姿が衛星写真で確認できる。

それを見た利用者は追っかけのように男に接近してはちょっかいをかけた。


後ろから石を投げられて逆ギレする男の動画が公開されたり

男の玄関に張り紙をしたり、男の会社のサーバーが落とされたりした。


「あはははは。ざまあみろって」


いつしかすっかり俺も私刑サイトのとりこになってしまい、ログインしない日がなかった。

ネットのおもちゃになっていた男だったがある日を堺に掲載されなくなった。


「あれ? 今日はどんなリアクションが見れるか楽しみだったのに……」


サイトの私刑対象者ランキングにも乗っていない。

連日1位だったはずなのに。


答えはテレビを見て知った。


『先日、飲食店のオーナーを土下座させた男の自殺が発見されました』


驚きよりも残念な気持ちが大きかった。


「なんだ、死んじゃったのか」


震えながら土下座をした店員さんの気持ちを十分に理解する前に

死ぬことでさっさと逃げようとしたのは納得できなかった。

とはいえ、死んでしまえばもう掲載されない。


私刑サイトのランキング上位のクズに「しね」をつけながら巡回するだけの日々を続けていた。


そんなある日、駅に降りるとケータイをかざした人だかりに遭遇した。


「逃げないでよ! この痴漢!!」

「ちがっ……何言ってるんだ!」


女性と騒いでいた男は駅員が呼ばれるなり猛ダッシュ。

俺にぶつかって逃走してしまった。


私刑サイトの反映は早かった。


『痴漢して逃げるクソ野郎を処罰しましょう』

『ああいう女性の敵が一番むかつく死ねばいい』

『同性としても恥ずかしい。同族の恥さらしめ』


『おめでとうございます。10000しね達成されました』

『対象者の周囲の人間の情報が公開されます』



このビッグウェーブに乗り遅れるわけにはいかない。

俺はすぐに「しね」を送ってやった。


この世界から悪いやつはみんな消えてしまえばいい。



『対象者の家に死骸が届けられました』

『対象者の職場のサーバーが落とされました』

『対象者の子供の幼稚園で入園拒否されました』



「あははは。ざまあみろ! いやぁよかったよかった」


すっかりいい気分でお酒をあおっていると速報が流れた。

内容もよく読まずともタイトルでお酒を吹き出した。


【 速報:痴漢事件は冤罪 】


「え、まじかよ。うわぁ、ちょっと恥ずかしいなぁ」


サイト内で雰囲気に流されて批判コメントをした手前、

まったく的外れだったなんて顔から火が出るほど恥ずかしい。


コメントを削除できないものかとサイトを訪れると、

すでに冤罪だった人のページは削除され、真犯人のページが開設されていた。


その横で。


「な、なんだよこれ……なんで俺が掲載されているんだよ!?」


なんの犯罪も起こしていないのに自分が掲載されていた。

あわてて運営に連絡を取ると回答は冷たく冷静だった。


『サイトの名前と利用規約を御覧ください』


「利用規約……?」


よく読まずに押した「同意」ボタンの長い説明の中には、

見落としてはいけない1文がまぎれこませてあった。


========================


"誤報に「しね」を送った悪い人間は、私刑対象として掲載されます。"


 ―ひとをのろわばあなふたつ 運営


========================



サイトでは俺と同様に「しね」を送った人間がバカとして掲載されている。

増えるしねカウンタに足が震え始めた。


「俺は……俺はただ、みんなに合わせただけじゃないか……。

 それが、それがなんの罪になるっていうんだよ!!」








『おめでとうございます。100000しね達成されました』

『対象者の住所が公開されます』




カーテンの隙間からは、何十人もの人の目が部屋を覗いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つい汚物を消毒したくなる系男子の私刑サイト ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ