エピローグ:そして私たちの冒険は続く……

 〽さぁ いま咲き誇れ 乙女たち

 湖上に桜の 花吹雪

 青春というステージに 駆け上がり

 一片の悔いも残さず さぁ 踊りましょう

 ああ風が吹く 水しぶき頬濡らし

 されど微笑みは 絶やさずに

 ああ麗しき 琵琶の乙女たち

 永久とわの桜を咲かせ 夢を唄おう

 永久とわの桜を咲かせ 夢を唄おう

 

 取り戻した琵琶女の体育館に、私たちの校歌が流れる。

 早いものでダンマスから三カ月の時が過ぎ、今日は三年生の卒業式。

 春は出会いの季節でもあるけれど、その前に必ずお別れがあるのはちょっと残念だ。

 

「この一年間、ボクたちはこの琵琶女で過ごすことが出来なかった」


 在校生代表として彩先輩が送辞を送った後、卒業生代表の友梨佳先輩が壇上に上がった。

 

「だけどこうして今、琵琶女で卒業式が出来たこと、みんなにまた会えたことをボクたち三年生は誰もが幸せに感じている。本当にありがとう!」


 実はあの一連の騒動は私たちの暴走が原因だったことを、ダンマスの後に学校のみんなに打ち明けた。

 学校を取り戻したからと言って許してもらえるものじゃない。きっと怒られると覚悟を決めていた。

 だけど誰もが笑って、こう言ってくれたんだ。

 

「でも、ここに戻ってこれたのは全部あなたたちのおかげだよ」って。


「諦めなければ何だって出来る! ボクたちの未来に不可能はなにもないんだ! そう信じてボクたちは卒業するけれど、残ったみんなも自分たちの可能性に勇気を出して一歩踏み出してほしい。新しい琵琶女の歴史を君たちの手で作り上げるんだ!」


 そう言って答辞を締めくくり、頭を下げる友梨佳先輩に万雷の拍手が降り注ぐ。

 新しい琵琶女の歴史、か……。なんだかダンマスが終わって気が抜けちゃったけれど、そうだよね、まだまだ私たちには続きがあるんだ。

 

 

 

 ダンマスが終わった翌日、18歳の誕生日を迎えた友梨佳先輩は当然のように魔力を失い、私たち琵琶女放課後冒険部は五人になった。

 そして冬休みが終わり、取り戻した琵琶女での三学期が始まった初日に、今度は彩先輩が退部することを打ち明けてきた。

 なんでも彩先輩の誕生日は4月18日。このまま部活を続けても、あとわずか四か月あまりで魔力がなくなってしまう。

 それにそもそも魔力が低いのを我慢してでも放課後冒険部に入ったのは、生徒会長として学園を守りたいという責任感の強さ(あと本人は言わないけれど友梨佳先輩の入部も大きい)だったからだ。

 だから創設一年目にしてダンマス制覇を成し遂げた今、もう抜けても大丈夫だと判断したとのことだった。

 

 それでもまだ文香先輩がいる……と思っていたんだけど、その文香先輩もまた思わぬ形で放課後冒険部を去ることになる。

 なんとダンマスの動画を偶然見たイタリアのオペラ歌手から、こっちに来て歌の勉強をしてみないかと誘われたんだ。

 先輩は相当に迷ったらしい。だけどこんなチャンスは滅多にないじゃん。最後は私たちの方から送り出すことにしたよ。

 

 かくして現在の琵琶女放課後冒険部は私たち一年生の三人だけ。

 一時はちょこちゃんまで抜けるんじゃないかって心配してたけれど、本人曰く「くっくっく。新一年生を鍛え上げるのが今から楽しみなのですよ」と変な野望を抱いて、残留してくれた。

 と、とりあえず残ってくれてよかったです、はい。

 

 

 卒業式はついに終わりを迎え、三年生が在校生の拍手の中、式場である体育館から退場していく。

 私たちも拍手をしながら、こそこそ次の時代の放課後冒険部について話していた。

 

「でも、放課後冒険部に入るには魔力が必要じゃん? そんな都合よく魔力を持ってる子が入学してくれるかなぁ」

「確かに。拙者たち、学校を取り戻すのに必死で来年の一年生をスカウトするなんてことは考えてもいなかったでござるからな」


 タイガーさんが言うには、来年の万女にはアリンコさんを凌ぐほどの大型新人の入部が決定しているとか。

 うう、ズルい。

 

「何言ってるです。ちょこたちはダンマスで優勝したですよ。ちょこたちに憧れて有望な新人がいっぱいやってくるに違いないのです」

「あー、それはあるかも。でも何だか照れくさいね。『千里先輩に憧れてやってきました!』とか言われたら」

「あ、千里はそんな心配は必要ないのです。千里のバカ魔力は憧れるというより、むしろ恐怖なのですから」

「えー、そんなぁ」

「それよりもつむじに憧れてやってくる一年生が多いはずなのです。何と言ってもダンマス初の忍者勇者ですからねー」


 そう、ダンマスが琵琶女の優勝で幕を閉じ、つむじちゃんは見事MVP勇者に選ばれた。

 本人は拙者より千里殿の方が相応しいでござると最後まで言ってたけれど、リヴァイアサンもあの黒い霧のラスボスも仕留めたのはつむじちゃんだ。

 私なんかよりつむじちゃんの方がずっと勇者に相応しいのは誰が見ても明らかだよねっ!

 

「ううっ。そんな、拙者緊張するでござるよぅ、千里殿ぉ助けてでござる」

「ちょ、つむじちゃん、抱きつくのやめて。ほら、また彩先輩がこちらを怖い顔で睨んでる!」


 そう言えば入学式でもこうやって彩先輩に睨まれたっけ。なんだか懐かしい。

 

「ところで大泉の高千穂のこと、千里たちも聞いたですか?」

「え、高千穂さん? ううん、どうかしたの?」

「あいつ、なんでも遅生まれの2月が誕生日なのだそうですよー」

「てことは?」

「来年こそは自分が勇者になるんだと張り切ってるそうです」


 おおっ、さすがは高千穂さん!

 

「高千穂殿も今回のダンマスで連携の大切さを知ったでござるからな。次の大会の大泉女学園はとんでもない強敵になりそうでござる」

「……そうだね。それに大泉には杏奈先輩もいるし」


 ダンマスの閉会式が終わった後、私たちは杏奈先輩の意識が戻ったと聞いて急ぎ病院へ駆けつけた。

 およそ半年間、モンスターに捕獲されていた割には杏奈先輩は体力が落ちた以外には何の問題もなく、病室に駆け込んできた私たちを笑って出迎えてくれた。

 

「……まぁ、半年間ずっとモンスターの中でゲームばっかりやってましたもんね」

「げ!? な、なんのことかな、千里ちゃん?」

「夢で逢ったじゃないですか。その時、私に対戦やろーってマリカで」

「し、知らないなぁ。てか、夢だったんでしょ。だからそれも夢だよ。あたし、モンスターに捕まってからは何にも覚えてないもん」


 ホントかなぁ?

 

「それより助けてくれて本当にありがと。それにダンマス優勝、おめでとう! みんな、よく頑張ったね。あたしも指導員として鼻が高いって、ちょ、どうしてみんな頭を下げるの!?」


 杏奈先輩の慌てた声が、私たちの頭上から聞こえてくる。


「杏奈君がモンスターに捕まったのはボクたちが君の教えに従わず、勝手をしたからだ。責任は全部、最年長のボクにある」

「お姉さま、それを言うなら生徒会長の私こそ責任を問われるべきです。杏奈、ホントにごめん。あんたの言いつけを守っていれば、こんな大変な目には合わなかったのに」

「杏奈先輩の言いつけを最初に破ろうって言ったのは私です。本当にごめんなさい」

「千里殿を止められなかった拙者も同罪でござる」

「みんな、何を言ってるです? おバカなみんなを止めるのはちょこの仕事に決まってるじゃないですかー。だから悪いのはちょこで」

「うん、そんなちょこちゃんの見積もりの甘さを指摘出来なかった私も悪いよねぇ。ごめんねぇ、杏奈ちゃん」


 結局、みんなで一斉に声を合わせ、今一度ごめんなさいと頭を下げた。

 

「あー、うん、そうだね、放課後以外のダンジョンに潜っちゃいけないと言ってたのに、それを破られたのはショックだったなぁ。よし、丁度みんなも頭を下げてることだし、ここは指導官らしく一発拳骨をお見舞いしてやりますか」


 頭を下げている私の目に、ベッドから降り立とうとする杏奈先輩の足が見えた。

 記憶の中と比べて恐ろしく痩せ細ろえていた。

 

「おっとっと。さすがに立つのはまだ難しいや。てことで、ベッドにもたれ掛ったままで失礼するね。はい、みんな、顔を上げて」


 恐る恐る顔を上げる。

 杏奈先輩の目に一瞬光るものが見えたような気がしたけれど、すぐにいつもの笑顔を浮かべて言った。

 

「だけどさ、あれはあたしがあの日、部活が終わったらすぐに東京へ戻るのをみんなに言わなかったのも悪いよね。だってみんな、あたしのお別れ会をするために、あんな無茶をしたんでしょ。だったら、これでおあいこ。この話はおしまい。それよりもさ、みんなの話をして。どうしてあそこまで強くなれたのか。参考にしたいから教えて欲しいな」

「参考?」

「うん! あたし、誕生日が10月だから多分次のダンマスにも出れると思うんだよね。いや、そりゃあ身の程はわきまえてるよ? みんなレベル80超えてるんでしょ? そこに元勇者とはいえ、半年のブランクがあって、体力も落ちまくって、レベルが低い私ではきついってさ。だけど」


 杏奈先輩が自分の胸をぱんぱんと叩く。

 

「モンスターに囚われながら、みんなの姿を見てたらね、あたしもやりたい、あたしもみんなみたいに強くなりたいって胸が熱くなったんだ」

「あ、だったら」

「でも、ごめん。同時にね、悔しいって思ったの。確かに千里ちゃんの魔力は凄まじいし、つむじちゃんの格闘センス、友梨佳先輩と彩先輩の連携、ちょこちゃんの的確な指示に、みんなをパワーアップしてしまう文香の歌声、ホントに琵琶女は強いと思う。だけどね、大泉だってホントは負けちゃいないんだよ?」

「杏奈先輩……」

「あたしも、あたしたちも強くなりたい。そして勝ちたい。千里ちゃんたちと一緒に冒険したいのはやまやまだけどさ、でもそれと同じぐらい、ワクワクしない? 一校しか辿り着けない頂に向かって、今この時も切磋琢磨しているライバルがいるって。そういう関係って素敵だなって!」

「…………はい、私もそう思います」

「千里ちゃん……」

「半年前、杏奈先輩が私たちと一緒に冒険出来ないって聞いた時は凄くショックでした。だけど、分かったんです、私。たとえ違うパーティで、どれだけ遠く離れていても、同じ放課後冒険部員である以上、私たちは繋がっているんだって。私たちはライバルであると同時に仲間なんだって」

「……うん、そうだね」

「だから大泉に戻る杏奈先輩を引き止めません。むしろ強くなってまた会えるのを楽しみにしてます」

「あはは、半年前とは立場が逆になっちゃった。でも、そう言ってくれると嬉しい。ありがと、千里ちゃん」


 結局その日、私たちは病院の人たちに怒られて追い出されるまで、杏奈先輩と色々な話をした。

 そしてリハビリを終えた杏奈先輩が大泉へと戻っていったのは、ほんの一週間ほど前のこと。すっかり体力を取り戻した上に、琴子さんが魔力測定をしたら何故かとんでもなく上がっていて、杏奈先輩自身も驚いていた。

 どうやらモンスターに魔力を毎日限界まで吸い上げ続けられた中で、どんどんレベルが上がっていったらしい。

 サ〇ヤ人かな?

 

「……とりあえず新一年生が入ってくるまで、私たちもなんか特訓でもする?」

「とは言っても今更琵琶女ダンジョンに潜っても、手ごたえの無い敵ばっかりなのですよー」

「万女も『お前らはもうライバルやから、うちらのダンジョンには潜らせへんぞ』って言っていたでござるからな」

「となると、あとは禁断の部員ガチバトルでダンジョンを拡張させるしかないですよー?」


 むぅ、アレかぁ。

 

「ちなみにちょこは遠慮しとくのです。戦術なら負ける気はしないのですが、サシならすっぽんぽんにさせられるのは目に見えてるですから」


 やるならふたりでどうぞとちょこちゃん。

 

「んー、つむじちゃんが例の暗殺術を使わないのなら、やってみてもいいかなぁ」

「え、本当でござるか!?」

「あれ、つむじちゃん、もしかしてやる気満々?」

「実を申すと拙者、もう一度千里殿とお手合わせ願いたいと思っていたでござる」

「それってやっぱり勇者の称号を譲られたとかそういう感情から? それなら前にも言ったように私は全然そんな」

「いや、そうではござらん。単純に千里殿をすっぽんぽんにしてみたいだけでござるよ」

「え”!?」

「前回はお互いに同時すっぽんぽんだったでござるからな、ここは今度こそ完全に千里殿だけをすっぽんぽんにしてみたいでござる!」

「いや、あの、つむじちゃん? 私、そういう趣味は……」

「というか、ひそかに千里殿をすっぽんぽんにしてみたいと思っている輩は多いでござるよ。タイガー殿や高千穂殿はもちろん、アリンコ殿や、きっと杏奈先輩だって」

「え、なにそれ怖い! いつの間にみんな友梨佳先輩みたいになっちゃったの!?」


 燃え上がるつむじちゃん。戸惑う私。そしてどうでもいいとばかりに懐からスマホを取り出してゲームに興ずるちょこちゃん。

 こんなことで新生琵琶女放課後冒険部は本当に大丈夫なんだろうか? それは誰にも分からない。ただひとつ言えることは、魔力が枯渇したらすっぽんぽんになっちゃうそんなエロゲみたいなダンジョンで、私たちはこれからも青春を精一杯謳歌するんだろうなって事だけだった。

 

 おわり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すっぽんぽんダンジョン タカテン @takaten

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ