『一夜のキリトリセン』の意味は……。同題異話はこの話のためにあったのではないか。切ないストーリー!
八月の終わり。婚約者と実家に帰省した主人公はたったひとり、廃線になった駅の草を刈っている。いったいなぜ……? 照りつける太陽。セミの鳴き声。主人公の過去。寄り添う婚約者。夏の終わりの情景と、それぞれの想いが切なくもやさしい物語です。 たった一夜にだけあらわれる『キリトリセン』に、重なる心がとてもあたたかい。清らかな風に包まれるような余韻も素敵でした。
遊佐未森氏の『夏草の線路』を聞きたくなる傑作。 黙々と作業をこなす主人公につられて汗が吹き出そうでもあり、兄思いな妹にひとときの安息を感じたところでもあり。 作者は鉄道愛の持ち主なのだろうか。枕木くらいは知っていても、その下に敷く砂利をバラストと呼ぶのは初めて知った。 ひたむきで誠実な主人公にそっと寄り添いつつ、要所をきっちりしめる婚約者も良い。 詳細本作。
切なく幻想的で、美しいストーリーです。あまり書くとネタバレになっちゃいますけど、宮沢賢治の作品を読んだ後のような清々しさが胸に残りました。幻想的な作品を支えているのは、確かなリアリズム。夏の空気感。確立された世界観が、キリトリセンの幻想を支えています。最終話の『仕掛け』にもやられました(検索してしまったw)プロ作家のアンソロジーの中に入っていても、見劣りしないのでは?
切なくて温かいお話を探しているそこのあなた。このお話こそ、あなたが探していたお話では?そう思わずにはいられない、本当に素敵なお話です。たった一夜だけに現れるというその「キリトリセン」。あなたも追いかけて見ませんか?
キリトリセン、空を走るわけでもないのでファンタジーじゃないですよ。だけどそれは一夜限りの幻のキリトリセン。幻だけど誰もそれをバカにしない。今年もくる、だから彼は草を刈る。草は生き生きとどんどん伸びます。ある年の一夜と毎年恒例の草刈り。寒かったあの日が嘘のように、そこにあったいろんなモノがなかったかのように草で覆われてしまう。あのときああすればよかったなんて何度も呟いた。個人的な思い出にも浸りながら読みました。