魔王が死んだので帰ってきたら勇者が凱旋してた

SOY LATTE

第1話


 僕の名前はロイ・サーディン。

 父であるフォイ・ル・サーディン男爵の三男で、三日前にクレメンス・ソル・オルトランド国王。通称クソ陛下から魔王討伐の王命を受けた。

 アルバート・ホル・クールベルト宰相、通称アホク宰相からは伝統だと言ってヒノキの棒と100ゴールドを渡された。

 男爵家三男坊という弱小貴族どころか平民に両足突っ込んで足湯してるレベルの俺に逆らう事は出来ず、旅立つ他に道はなかった。


 ちなみに、100ゴールドは大金である。1ゴールド10万円換算として、約1000万円。

 下はシルバー(1万円)、ブロンズ(1000円)、アイアン(100円)、レッド(1円)と下がっていく。


 とは言え、武器とか旅用品を揃えれば半分以上が飛んでいくだろう金額だ。特に武器が高い。

 もうこのまま雲隠れしようかと考えた時に、旅の仲間(監視役)として三人の騎士が付けられた。

 大剣を操る剛力の騎士。魔術を操る魔法騎士、神速魔剣を操る最速の騎士の三人だ。


 全員が屈強な男性である。伝統では女性の仲間を付けるのでは?とアホク宰相に聞くと、心は女性です。と力強い答えを頂いた。


 魔王率いる魔王軍は三年前、クソ陛下の侵略戦争に対抗し、ウチの国はこれを圧倒的戦力差で撃退される大敗を喫する。

 更なる進軍の為、アホク宰相による増税と反戦派粛清が始まり、貴族と国民を敵に回した挙げ句コレである。クーデターを起こすべき王族二子以降が居ない事が悔やまれる。(名乗り出れば処刑義務なので誰も出ない)


 そういえば、魔王を倒したらキシリア・ル・オルトランド姫、通称キル姫との婚姻を認める(強制)と言われた為にモチベーションはゼロどころかマイナスである。

 あの鬼畜キル姫、貴族至上主義なマンハンターだから。軽犯罪者を含めた集団を庭園に放って弓で射る趣味とか最悪だろ。

 んで、殺した相手の罪で得点計算してるゲス・プリンセスだ。

 なお、軽犯罪の中には貴族の前を歩いたとか、貴族の歩いた道を歩き汚したとか、貴族の事を考えずに生活したとか理不尽な罪の事を言う。ヤベェわこれ。


 適当に死んだ事にして逃げるか。


 そもそも、こんな木の棒じゃ魔王どころかゴブリンすら倒せないだろ。

 棒をブンと縦に降る。ヒュッと軽い音がして情けなさを助長した。


 なお、この日以降で生きたゴブリンを見た者は居ない。





 一方その頃、魔王場では……。

「ぐっはぁ!!」

 魔王タピオカは縦に一刀両断され、息絶えていた。


 そろそろ開催する春の収穫祭を、どのように盛り上げるかと会議をしていた時の、突然の事件だった。

 眼を見開いて固まる幹部達、周囲を警戒する優秀な護衛たち。

 しかし突然の割断死にビビるだけなのは仕方ないだろう。

 魔王は一日に七回蘇る能力を持つ存在。今日全殺しをしても、明日には蘇る。そんな不滅であるべき存在が、死んだとしたもビビる程度の話なのだ。


 だが、一向に甦らない。ピクリともしない。それどころか、段々と魔力に還元されていく様子は、魔力生命体である魔族の死そのものであった。


 この日、タピオカ・ミ・ルクティバクス魔王は死亡し、何の罪もない魔王国の壊滅が運命付けられた。





『あめでとうごさいます!』


 ?


『おめでとうございます!!』


 ふむ、空耳か。


『魔王は討たれ、新たなる魔王を誕生させるには長い年月が必要となるでしょう。これで人類はかの国を支配し、約束の地へと……』


 今度は横に振ってみるか。


『ぐぼっ……な、なにを』


 うーん、斜めが一番かな。


『がぶはっ!?こ、こんな事で、こんな雑魚にこの私が?馬鹿な……おのれ、おのれっ、おのれぇぇぇっ!!』


 あ、突きが一番楽かも。

 ヒュッ。


『ぎゃあああああぁぁぁぁ………………』


 ちょっと楽しくなってきた。


 ピロリロリ♪


《魔王、及び邪神の討伐を確認しました。討伐者には種族の願望に沿った報酬が支払われます。三つの内から一つをお選びください》


・[不老不死]

・[億万長者]

・[酒池肉林]


 三段突き!

 ヒュカッ!!


《多重次元屈折現象を確認しました。三つのギフトが同時に選択されました。パネェ》


 さて、部屋に戻るか。あんまり長いと、腹を壊したって言い訳も通じないしな。


 それにしても、ヒノキの棒で戦えとか何を考えているんだろうか。クソ陛下とアホク宰相め。もし魔王を討伐したら、お前らを魔王城観光に連れていってやろうか。


 ブンブン。





「な、何だ、ここは何処じゃ!?」

「陛下、何が起こっているのですか!!」


 二人の老人は、着の身着のまま魔王城、その謁見の間に立ち尽くしていた。

 現在は魔王死亡により、混乱している最中である。人族が紛れ込んでも特に気にされる事はなかった。

 そもそも魔族率いる魔王国、等と言っているが彼らは半精霊であり魔力生命体なのだ。

 基本的に人間に近い姿の彼らである。みすぼらしい格好(王国最高の衣装)の老人が立っていようと気にするものではなかった。


 しかし、謁見の間に残った彼らは終いには衛兵に見つかり精神病棟に入院させられた。訳の分からない事を宣うボケ老人として。




 そして三日後、旅先の街で号外を読んで吃驚。なんか魔王が死んだらしい。

 自然死だったらしく、新たなる魔王を探して暫くは空位が続くとか。

 あと、クソ陛下とアホク宰相が行方不明で、捜索隊を組織しているらしい。


 いやぁ、不思議なことがあるもんだ。


 とりあえず、仕事が終わったことに代わりはないから王都に帰って報告しよう。

 地元に畑でも貰えれば万々歳だ。


 数日後、急遽王都へ引き返してみたら勇者が凱旋してた。なんか魔王を倒したらしい。


 国民は皆、頭の上に?を浮かべながらも、この国の王太子だからと祝福していた。よくわからんけど祝っとこう的なノリで。


 そう言えば、春先にお供の美女数人を引き連れて子作り旅に出てたっけ。

 王族毎世代で行う子作り旅で、被害者は100人に及ぶとされている。

 要するに王国全土を後宮化して好き勝手したいという、始祖王バルグル・カルヴァン・オルトランド、通称"初バカ王"の悪政として今もなお受け継がれている愚行である。


 その子孫は血縁上は王族としての権利を持つかもしれないが、この国の法律で正妃との子供以外は王位継承権を得られない決まりとなっている。

 正妃は高位貴族に決まっているので、事実上は貴族同士の血縁しか子として認められないのだ。


 まあ、そんな事はどうでもいいか。


 件の子作り旅を改竄して、魔王討伐の隠れ蓑として扱うらしい。無理がないかそれ。

 そして魔王討伐の功績で若くして王位を継承、英雄王として君臨するのだ、とか言ってるらしい。足震えてんぞ。


 まあ、誰も魔王倒してないし。

 国内プロパガンダとしてなら通用するんじゃね?他国は無理だろうけど。

 取り合えず、衛兵詰め所に任務終了報告をして帰ろう。倒すべき魔王が居ないなら、どうしようもないしなー。


 こうしてロイ・サーディンはお土産として貰ったヒノキの棒と、旅資金の残額を手に故郷へと帰って行った。

 そして領主の親父に畑を貰い、耕して過ごす余生を得る。


 彼が不老不死である事に気付くのは、まだ先の話。


 数年後には耕した畑が奇跡の花"エリクシス・フルール"を大量に咲かせたり、世話した果樹から水に沈めると酒に成る不思議な桃が取れたり、と高額取引されるようになった。


 そんな彼に魅力を感じ、数日間を共に旅した乙女心なマッチョ達が嫁入り志願したり。


 彼の人生はまだまだ続く。

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魔王が死んだので帰ってきたら勇者が凱旋してた SOY LATTE @cotan

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