第5話 エピローグ

 気がつくと、携帯電話が鳴っていた。

「佐山、無断欠勤するつもりか!」

 ぼんやりしながら出ると、野間の怒号が完全に現実へと引き戻してくれた。

 麻痺したように動かない口で必死に説明すると、野間の声が真剣になってきた。

「とりあえず、お前は今日休め。後はなんとかなるから、病院に行って検査してもらってこい」

 野間の言葉に甘えて、佐山は会社の健康診断で行った病院に向かった。

 長時間〈リアルワールド〉に接続していたことを医師に説明し、影響がないか検査してもらうと、軽い衰弱以外は異常なしだった。点滴で少し元気になったところで会社に再度連絡をいれると、野間は不在だった。

「秋山課長が亡くなったんだよ。それを発見したのが野間チーフで」

 電話に出た同僚の説明によると、ここ数日秋山が欠勤していることを知り、秋山の自宅マンションを訪問した野間が、管理人とともに彼の遺体を発見したそうだ。

「秋山さん、不正に〈リアルワールド〉にアクセスしてたらしくってさ。警察来てるし、もう大変なんだよ」

 興奮したような同僚の声が、なぜか遠くに聞こえた。

 結局、不正アクセス、データ偽造の罪で、秋山課長は被疑者死亡のまま書類送検された。

 佐山はといえば、事情聴取や始末書の他にも多少の咎めはあった。迷惑をかけたことは確かなので、会社を辞めるべきか迷ったが、野間の助言で仕事も続けることにした。

 今は仕事以外で〈リアルワールド〉にアクセスすることもなくなり、以前の生活に戻った。

 だが、時折――あの死者の家で見かけたユーザーたちのような顔をした人間を見かけることがある。現実でも〈リアルワールド〉の中でも。

「現実を見据えて生きない人間は、既に死んでいるのと同じなんだよ」

 秋山の言葉がよみがえる。

 そのたびに、佐山は自分に問いかける。

 俺は本当に生きているのだろうかと。

 しかし、それを問い続ける限り、自分は生きているのだとも思うのだ。



〈了〉

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リアルライフ 黒木露火 @mintel

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