2. そんな始まりで

家に帰り着く頃、未登録の人からLINEが来た。



レン [よろしくね!]



えっとレン…。あぁイツキのあの人か。はー早速イツキ私のLINEを勝手に教えたな。ナニシテクレテンノ?



とりあえず返すだけ返すか。



マリエ[よろしく]



レン[今から会おうぜ!今マリエちゃん家の前の公園にイツキといるから待ってる]



まってまってまって。急に?イツキのやつ。連れてきたな。家を知ってるのはリナとイツキだけ。ありえないと思いつつも暇だし、公園に顔を出した。



「マリエちゃんーちょっと飲もうよー」



レンが缶チューハイを差し出してくる。2人ともお酒臭くて相当酔っ払ってる。サークルの帰りみたい。イツキはリナに電話でだる絡みしてる。レンがくれた缶チューハイを2口飲んで聞いた。




「なんでこんなとこいんの?」



「なんでってマリエちゃんに会いたかったから」



「私が来なかったらどーしてんのよ」



「え、それは来てくれるまで待つけど?」



なにそれ、こんなほぼ初対面の状態でよくそんな台詞をスラスラと吐けるもんだ。



「マリエちゃんさ、本気で人好きになったことないでしょ。なんかそんな気がした。気が強いフリして自分守ってるよね。」



「なんでそんなこと言われなきゃいけないわけ。」



「ごめん。怒らせようとしていったわけじゃなくて、そんな気がしたから。なんか、寂しいじゃん?愛知らないとか。そんな美人なのに。」



「愛ぐらい知ってるから。余計な心配はいりません。」



「そっか。ならいいんだけど。じゃあさ最後にレンって呼んでよ。今日はそれで帰るから」



なんだこいつ。強がったけど、かなり図星なこと言ってきて呼び捨てで呼んでほしいって。言われたことが当たりすぎて悔しい。もうさっさと帰ってほしい。



「レン。早く帰って。」



「おっ!呼んでくれたね〜相変わらず冷たいけど。またな。」



レンは私の頭を撫でて私の飲み干した缶チューハイの空き缶を持ってイツキと帰っていった。なんだあいつ。なんだあいつ。なんだあいつ。ムカつく。




ベッドに寝っ転がると今日言われたことが頭を回る。思い出しても言われたことは間違ってなくて。それが悔しい。会ったばかりの人にあんなこと言われるなんて。でもそろそろこの歳で恋愛わからないとかさすがにやばいよな。あと、最近ちょっとリナ達が羨ましくも見えてきた。いい機会だしそろそろ逃げないで向き合ってみよっかな。とか思ってみたりしてね。



—————




今日私はとても急いでいる。朝から全然ついてなくて、寝坊して慌てて準備した挙句、外に出た瞬間トラックが道路の水たまりを跳ねあげて着替える羽目に。電車も事故で止まってる。なぜこんなに急いでるかというと、ゼミのプレゼンの日だから。これが卒業にばっちり影響してくるから絶対に飛ばせない。にも関わらず駅で足止め。もうタクシー呼ぼうと振り返った瞬間ぶつかって尻もちをついた。



「ごめんなさい。大丈夫ですか?」



スーツを来た男の人が手を差し伸べる。身長は高くすらっとしている。メガネをかけていて、ワックスで固めた髪はいかにも出来そうな社会人。



「あ、大丈夫ですから気にせず行ってください。」



「ああー!待ってください!カバンが破れてます!」



尻もちをついた時に擦ってしまったのかカバンが破れてプリントが顔を出してる。



「あ、これはいいです。ちょうど今度買い直そうと思ってたので。」



「いや、さすがに置いていけません。手も怪我しちゃってるし。ほんとごめんなさい。」


「ほんとに大丈夫ですので。私急いで行かないといけなくて、こっちこそぶつかってしまいごめんなさい。では、失礼します。」


「もしかして、そのマップ、晴陽大学ですか?だったら僕も同じ方向なので相乗りしていきませんか?」



初対面の人、しかもぶつかったばかりの人と相乗りは気が乗らないけど電車の事故のせいでタクシーはなかなか捕まらないし、何より遅刻はできない。相乗りして行く他なさそうだ。



「あ、だったらお願いします。」



そう言って同じタクシーに乗り込んだ。送ってくれた出来そうな社会人にお礼を言い、私は無事ゼミにも間に合ってなんとか卒業にこじつけそう。今度お詫びさせて下さいと車内で何回も言われたけれど、お断りして結局連絡先も教えなかった。とんだ1日だったなあと振り返りながらリナと校門をくぐった時、前方から声がした。



——あ!会えてよかったです!



「ん?!」



よく見るとそこに今朝の出来そうな社会人がいた。

リナが何事かというような目で私を見てくる。



「どうしたんですか?こんなところで。」



「実は今日偶然仕事を早く切り上げれたので、忘れられないうちにお詫びしようと思って待ち伏せしてたんです。急に押しかけてしまってごめんなさい。驚きましたよね。」



「お詫びなんてほんとに大丈夫だったのに。」



「今日ってこれから少しだけ時間もらえませんか?」



リナが嬉しそうにこっちをニタニタした笑顔で見てる。リナの心の中は読める【社会人が車止めて迎えに来るなんてドラマみたいだね!】。今日はバイトも休みだし、遊びの予定もない。



「予定は特にないです。」



「んじゃあ決まり!表に車止めてるから行こう!お友達、急にごめんね。ちょっと借りるね。」



「あ、どうぞどうぞお構いなく〜」



リナがウインクで合図してくる。全く。そんな関係じゃないのに。ましてや今日初対面なんだよ。まだ名前も知らないのに。でもなぜか嫌じゃない。ちょっと興味すら湧いていた。まだ見たことない社会人という世界に背伸びして飛び込んだこの感じ。校門側の駐車場から車で移動する。車道に出るときリナの方を見るとレンがいた。リナとレンが話して、レンがこちらを見る。ちょっと目があった気がした。車は容赦なく走り去る。



「あの、ごめんなさい。名前聞いてもいいですか?僕、ユウトって言います。」



「私、マリエです。」



「マリエちゃんか〜。名前が見た目そのまんま可愛いね。」



「ありがとうございます。あの、これってどこに向かってるんですか?」



「これね、今からカバンを買いに行きます。」



「いやいいですいいです。ほんとに大丈夫ですよ。」



「だーめ。こっちは社会人なんだからこれくらいお詫びさせて。ほんとに。」



「なんか、すいません。私がぶつかったのに。」



「あとね、なんか、あーもう1回だけでも会えたらいいなあって思っちゃったんだよね。社会人になって容量掴むまでがむしゃらに仕事してきてこんなこと思うこと滅多になくなってたからなんかの縁かなと思って一方的に押しかけちゃってさ。だからしっかりお詫びします。」



そう言ってユウトさんは照れ笑いしながら運転席の窓を開けた。車は少しタバコの匂いがしたけど、綺麗に片付けられていた。ダッシュボードが開きかけていてそこから香水が見える。ああ、さっきから香るこの匂いはあの香水か。好きなフレッシュな香り。




それから、デパートに着いて同じサイズのカバンを買いに行った。何回も断ったけどお詫びしないと気が済まないからと貰うことになってしまった。男の人からプレゼントされるなんていつぶりだろ。一緒に買いに行ったのにわざわざプレゼント用に包まれたカバンを開けるのはなんだかもったいない。でも不思議と打ち解ける感じがして、一緒にいてとても楽だった。



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永遠なんて今はきっといらない Teaile @raa

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