君は道標

@kagetu-kisawai

第1話 現実

世界で一番大事な人が居なくなっても日々は続いていく

僕にとって一番大事な人は君だった。


「変なこと考えてないよね?」

その連絡は、まだ寒さの残る春の出来事だった。友人の松下なつきからの突然の連絡に僕は少し戸惑っていた。

「久しぶり、急にどした?」

「やっぱり誰からも連絡きてない?」

なつきのどこか不安そうな言葉尻から、僕の頭の中はフル回転していた。

「もしかして百合になんかあったんか?」

森下百合は僕が3年前に付き合っていた彼女だ。なつきには当時よく百合のことを相談していたのだ。なつきから連絡が来ることはほとんどなく、百合のこと以外考えられなかった。

「うん。落ち着いて聞いてくれる?」

「良いから早く言えよ」

まだなつきの言葉を聞いていないのに、僕はどこか理解していた。そんな事あるはずない、きっと別の話だろう。誰かと結婚するとか、仕事を辞めたとか、せいぜいその程度の話であることを強く願った。

なつきは言葉を選んでいるのか、なかなか話を続けようとしない。

「いいから早く言えよ」

僕は、焦りと不安から強く聞き直した。

「百合ね、昨日亡くなったみたいなの」

こういう時に自分の頭の回転の早さに嫌気がさす。自分が一番望んでいなかった答えがなつきの口から放たれたのだ。一番受け入れたくない、それでいて理解することのでいない事実。

人間というのは不思議だ、ドラマとか映画みたいに自分はこういった時泣き叫ぶかと思っていたが、実際こういう局面になると何も考えられなかった。

そこからのなつきの話は全く聞くことができなかった。

ただ彼女との幸せだった日々と彼女の言葉だけが走馬灯のように僕の頭の中を回っていた。

「よしき君と私はお互いに道標なんだよ。私の半分はあなたでできているから」


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