復讐の遺言


 公園で子どもが駆け回っている。

 転がるボールを追いかけ、投げ、弾むのを見て笑っている。

 あの子は、誰?






 「ウチの子をDNA鑑定して下さい!この手紙!あの子の父!」

 手紙を見て気絶した後、起きて直ぐに様子を見に来た警官に掴みかかった。

 「落ち着いて、落ち着いて下さい。

 一体何が有ったのですか?」

 困惑する警官にアイツの手紙を見せた。見る見るうちに顔が苦悩に満ちていく。

 「これは……………」

 「あの子は!あの子    は!はやく!調 査    !調 tえ。」

 喉が未だ空気を拒否する。喉が詰り、吐くものも無いのに吐き気がする。

 「…………………出来ません。」

 死刑を宣告する様に、苦痛と苦悶と共に、静かに言葉を置いた。

 「ど ぅし、 て、」

 「貴女の殺した最初の被害者とその友人は皆崖から突き落とされています。

 そして、死体は見つかっておらず、DNAの類は見付けられていません。

 貴女の旦那様もです。

 特に、彼は証拠の類を徹底的に貴女が処分した事も有り、証拠が無く、迷宮入りも噂されていたのですから………………」




 血の気が引き、灰色の世界が目の前に広がる。

 自分が行って来た事が全て、悪夢をより深く、より暗いものへと変えていた。

 証拠となるDNAは全て消してしまった。

 死体が何処にあるかは、もう私には解らない。

 何が間違いだったの?

 どうすれば良いの?


 嬌声が聞こえる。

 無邪気な声。それは私に向けられている。

 その言葉に純粋に喜べない。

 自分が生んだ子ども。

 間違い無く自分の愛しい子ども。




 でも、あなたは、一体誰の子どもなの?

 その問いには誰も答えられない。

 自分の血肉を分けた子どもの陰に、私は得体の知れないものを感じてしまう。

 私は、この子に本当に愛情を注げるの?

 この子を恐れずに居られるの?


 こうして、復讐の遺言は女が死ぬまで続く。

 本当に?

 女は子どもに愛情を注げるのか?

 子どもは親の不信に気付いてしまったら?

 復讐の遺言は何時までも、続くかもしれない。




 もし、女が殺人を犯そうとしなければ、

 もし、男が友人と縁を切り、逃げ出していれば、

 もし、男が勇気を出して殺人を止めていれば、

 もし、夫が男を殺さなければ、

 自称友人が一抹の優しさを持っていれば、

 もし、女が男を殺さなければ、

 もし、女が夫の言葉に耳を傾けていれば、

 もし、誰か一人が優しさを持っていれば、

 こんな惨劇は起こらなかったのに。


 悪因悪果。悪意が悪意を呼び、悪意は大きくなる。

 しかし、一つの善意で人は、世界は変われる。

 大事なのはたった一つの善なのだ。

 善意を持つ勇気なのだ。

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復讐の遺言 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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