第30話 日常とカオス
次の日の昼休みのことだった。千沙が昨日描いていた魔法陣が実は何かすでにヤバい事態を
引き起こす可能性があるのではという話になり真也と部長は魔法陣を消すために部室棟の屋上まで来ていた。
「ふぅ……まぁなんとか消せたね……」
「そうですね」
何とか魔法陣の除去を終えた二人は一息つくため手すりに肘をつき、遠くの街を見つめた。
「すみません……。イレーザーでも何でもない千沙を日常部に入れてしまうなんて。これで下手に部室でカオスのことなんて話せなくなりましたね」
「いやいや、日常部の本来の目的は日常を送ること。部活でカオスの話をなんてするのは本来望まれないことだ。それにまた変に強力なカオスでもまた召喚されてはこちらとしてもたまったもんじゃないしね」
「そうですか……」
とりあえず千沙にイレイザーのことを教えないということを日常部では決めている。
「ま、あいつにはこの日常を何も考えることなく送ってもらいたいですね。そういう奴がいないと、この日常をカオスから守っているって実感もないですし」
「そうだね」
二人がそんな話をしていると、いきなり屋上にある階段室の扉がすごい勢いで開かれた。
「ち、千沙……?」
振り向いてみると、そこには千沙の姿があった。息を荒げ随分と慌てている様子だった。
「し、真也ぁ! な、なんかでっかいの現れたよぉ!」
「え……?」
千沙は二人の元へとやってくると手にした携帯の画面を二人見せてきた。画面には大きなワームのようなものが映し出されて街を食い荒らしていっているようだった。
「あれだな……」
部長が遠くを見つめて言う。確かに、遠方で黒い煙が上がっているようだった。
「行くぞ桐嶋ぁッ!!」
「はい」
部長はメガネを外し、踵を返して階段室へと向かって足早に歩きだした。
「え……」
いきなり豹変しだした部長の様子に千沙は混乱している様子だった。
「い、行くってどこに……?」
真也は軽く千沙の肩をポンと叩いて部長の姿を追った。
「あの巨大ミミズを倒しに行くんだよ」
「え……えぇぇ!?」
◆ ◆ ◆ ◆
バイクで現場へと到着するとその時既に街はかなりの被害を受けているようだった。
太さは直径2mほど、長さ不明のワームがビルや地面をすごいスピードで食い破り貫通していっている。
そしてその数もなかなかだ。目算でも数十匹は暴れているだろうか。
部長がヘルメットを脱ぎ銃をバイクから取り外した。
「お前たちはあっちのカオスを倒せ」
「分かりました」
また二手に別れるようで、エイルと真也、杏里と部長は互いに背を向けた。
「行くぞ!! 消えろクソカオスがぁッ!」
そして早々に部長と杏里は攻撃を仕掛けに跳んで行ってしまった。
奥に見えるビルが損傷率が高すぎたのか大きな煙を上げながら倒壊していく。
真也はスフィアをハンドガンへと装填する。
「やれやれ、まったくなんでこんなカオスなことが定期的に起こるんだろうな」
「カオスなこと……か」
真也の何気ない一言にエイルは何やら含みのありそうな言葉を返した。
「……どうかしたか?」
「いや……私にとってはあの魔物もこの街も大して変わらない。イレイザーが守ろうとしているこの日常は十分すぎるほどカオスなのだがな」
「そうかぁ?」
「そうだとも」
「……」
その時真也はふと普段当たり前すぎて目にも入らないような部分に目を向けてみた。
張り巡らされた道路にせわしなく行きかう大量の車、そして人々。彼らは様々な恰好をし、様々な考えを持ち、多くの便利な機能が搭載された端末を一人一つずつ所持して歩いている。
その周りを囲むのは高さ数十m、数百mにも及ぶマンションやタワーそして高架道路。その上を見上げれば、ヘリコプター、そして航空機が一本の雲を作りながら空を飛んでいた。その更に上に目を向けるなら、人工衛星、完全に自動で動く惑星探査機、原子力電池によって情報を地球に送りながら三十年以上かけて太陽系の先を目指すボイジャーなんてものも存在する。
自分たちは一体何を基準にして日常とカオスを区別しているのだろう。
そんな疑問がふと浮かんだが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「……変なこと言ってないでさっさと行くぞ」
「了解したマスター」
真也は日常と呼ばれるものから目を背け、カオスと呼ばれるものに銃の標準を向けた。
終わり
イレイザーズ 良月一成 @1sei44zuki
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