第7話 心と心


一瞬の怒涛の出来事。夢の中にいたみたいな感覚だった。

「俺は、なんか利用された感じなんですかね、蘭ちゃん」


「おーい蘭ちゃん」

真っ白な世界から普通の住宅地に戻ってきた俺ら。

さっきとはうってかわって、ポーッと佇む蘭が、ゆっくりと歩き始めた。俺はそれを慌てて、追いかけ並んで歩く。


「バカ男、行っちゃった。」

そんな俺に気付いたのか、俺には聞こえる声で呟く様に蘭が言った。

 その横顔は、遠くを見ていて、少し切なさそうに見えた。

「はは、うん、蘭ちゃん、かわいいね」

「え、」

「女って感じかする。ほんとにさっきの人に本気で惚れてるんだね」

「わ、私のことはどうでもいいの!

そんな事より、ちゃんと向き合って2人で。花純さんも、私と同じで待ってるはずだから」

 慌てて話す蘭は、今までで一番可愛く見えた。


「ちゃんと話して。周りの事とかそんな状況とかに、とらわれて自分の思いを見失っちゃダメ」

「でも、相手はヤクザて。、知らないか。人間の悪い奴らの塊で、そいつらと結ばれないと花純の親や周りにも迷惑かけるんだ。それなのに、」

俺たちにそんな選択肢があるのだろうか。


「魔法使いの恋愛と一緒ね。私たち、似たもの同士かも」

クスクスと蘭が笑い出し、そして、ずっといきなり真剣な顔になる。

「でも、人間は自分の価値を自分で見出せる生き物だって。知ってた?」

「どゆことそれ?」

「魔法使いは血筋によって、自分の魔法の属性があって、そして、生まれ持った能力の魔法の力以上は使えない。自分の価値や能力もあらかじめ決まってるの。

 たとえば、私は風の魔法使いの一族の出身だから風の魔法を得意としてる。そして、生まれながらそんなに強い魔法が使える優秀さない。でも、そんな風の魔法使いとしては落ちこぼれでも、未来を見える能力かあるの。


一方で、紫苑は雷の一族出身だから、雷の属性の魔法が得意なんだけど。魔法使いの属性の中でも雷の力を持つ者は昔から優秀な人が多くて、彼もそう。強い魔法だって、なーんでも使えちゃうて事が生まれながら決まってるし、それが生まれながらにしてわかってるの」

生まれながら、決まった能力と属性を知ってる。たしかに、それは人間とは少し違う。

「でも、人間はこれができる、あれができない、それを一つ一つ学習して生きていく生き物で聞いたわ。

 だから、考えるべきだよもっと、可能性や自由をもってるんだから」

淡々と話しているが、その内容は少し酷な感じじゃないか。

「生まれながら自分のできる事が決まってて、好きな人も1人だけ。どーなんだそれて」

「それが魔法使う代償なのかも。魔法は、時に人を支配してしまう。だから、そんな魔法を使えるが故に、私達は生きる枷を背負ってるの。」 

 同じ容姿をしているのに、魔法使いと人間は生き方が全く違う。

 たしかに、朝から目にしてきた数々の魔法は、使えたら便利なんだろうし、羨ましかった。

 でもそれの、魔法のせいで、多くの傷があり、傷つけあって生きている魔法使いより人間の方が楽しい生き物なのかもしれない。


「蘭ちゃん、俺にできることがあったら言ってよ。

 正直、どんな男かも知らないし、朝霧を裏切る代償がどんなもんかも分かんない。蘭ちゃんの世界のことも、蘭ちゃんのことも知らないこたばっかだよ。

 でも、出会ってまだ1日だけど、俺ほんとにさ、あんたの悲しい顔見たくないくらいには情ができちゃったんだよ。

 だからさ、俺に協力してくれる分も、俺も協力したい」

蘭はきょとんとしたあと、俺を見てお腹を抱えて笑い出した。


「おい?」

なかなか真剣に話したつもりなのに、なんなんだよ。少し苛立つ。

「だって、わたし、こんな顔させれるくらいハルと信頼関係築けると思ってなくて。びっくりして、そしたらなんかおもしろくなっちゃったの、ごめんごめん」



「ありがとう、わたし、ここに、ハルの元にこれてほんとによかった」

 笑いすぎて、涙や目尻に浮かべながら、蘭は花が咲いた様な綺麗な笑みで俺に笑いかけた。

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