第6話 初恋の君

授業が終わり、みんなが帰る支度を始めら中、すっと立ち上がり、勢いよく一直線に俺は向かってくる蘭。

「蘭、気をつけろよ」

そんな蘭の頭をポンと叩くと、じゃあなと朝霧が帰っていく。蘭もじゃあねと短く答えていた。


クラス中からの視線を感じる。


3年になって転校してきた寡黙なイケメンと、こんな5月に転校してきた美少女と、万年フラフラ女をとっかえてる俺。

クラス中が注目するのも分かるメンバーだ。

「ほら!はやくかえろ!」

「はいはい」

そんな目線など、何一つ気づかないのか、それとも全く興味がないのか、俺の机をドンっと叩く蘭。

行きたくない気持ちが大きすぎて、ゆっくり片付けをするものの、強引な蘭に連れられ、ゆらゆると廊下を歩き出した。



落ち着いた感じのワンピースの紺地の制服を着た女子生徒たちがチラホラと校門をくぐり出てくる。

都内屈指の名門女子高の前に俺と蘭は立っていた。

いつ見てもレンガで作られた趣のある建物や大きな芝生に噴水、外国を感じさせられる雰囲気があるこの学校が、俺は嫌いだ。


「ハル?」

透き通るような蘭とした声。




「花純」

「ふふ、久しぶりね」

優しく花が咲いたような笑みに、俺は一瞬で心を捕まえられる。


会うたびに気づかされてしまう。


俺はこの女が、目の前に立つこの女が、好きだと。



そんな俺の幸せな時間を打ち破る声が、後ろから聞こえた。

「お久しぶりですね、春馬くん。」

スラリと高い身長に、着こなしたスーツ。

「お久しぶりです。椿原さん」

俺は、ゆっくり背筋を伸ばし、丁寧にお辞儀をした。

少しでも、この男に並べる男に写りたかった。


「初めまして。花純さん。ハルの家でいまお世話になっています。ハルの従兄弟の風間 蘭です。」

にこやかな笑みを浮かべて、蘭が手を差し出す。

「へええ、ハルに従兄弟がいたなんて知らなかった。

私、森園 花純と言います。初めまして」

そんな蘭に可愛らしく笑って応じる花純の姿は、なんか変な感じがした。

「せっかくなら、車でお送りしましょうか、お2人とも予定がなければ。その方が、花純さんも嬉しいでしょうし」

「いや「じゃあ、お言葉に甘えて」

俺を遮って、悪魔の時間を増やそうとする蘭。

横目で睨んでも全く気にしてないというか、俺を視界に入れようともしていない。

「いいわね、もっとお話ししたいし。ダメかな?ハル」


「いいよ、べつに」


俺は、お前が楽しそうならいいよて思ってしまう。

ホントは2人で会いたいし、ホントは抱きしめたい。

尽きない欲とそんな事が出来ない現実。

それでも、少しでも一緒に居たいし、花純に笑っていて欲しかった。

「あ、やっぱりやめよう、ハル。

私たち、これからゲームセンターでプリクラ撮るんだもんね?

その約束忘れないでよもお」

急に少し高い声を出し、甘えるように俺の手を掴む蘭。

「え、ああ」

上目遣いで俺を見てくる蘭に調子が狂う。

何事なんだ急に。

「流行りのパフェも行きたいし、また今度にしましょう!

ごめんね、花純さん!行くよ」

急に慌てるように立ち去ろうとする蘭に俺は、謎に手を引かれ、無理やり連れて行かれる。


「ま、また今度な花純」



「何なんだよ、蘭ちゃん急に」

学校から離れた住宅地で、ようやく蘭は足早に歩いていた足を止めて、俺の手を離した。

「花純さん、貴方の事、大切なのね」

クルリと振り返って、俺をジッと見つめる蘭。

「はあ?

大切ていうか、幼馴染だし。それにあんなお嬢様じゃ男友達とかそんなにいないからだろ。」

「違う、彼女、きっと貴方の事好きよ。きっと1人の男として」



「そうじゃなきゃあんな寂しそうな顔しない。貴方が帰ることになって」

「なんだそれ、女の勘てやつ?」

こくんと、うなづく蘭。

「そうだとしても、ほんとにもしそうだとしても俺らは決して結ばれない。


あそこにいた椿原て男が、蘭の許嫁で、蘭の家と深い繋がりのあるヤクザの若旦那てやつ。

花純が10歳の頃から決まってるんだコレは」

出会った頃、俺はそんな事関係なくて、いや知らなくて、純粋に花純が好きで愛おしくてたまらなかった。

でも、だんだんと簡単に伝えちゃいけない想いに変わっていった。


「それぐらいの理由で諦めてたんだ。根性なしね、ハルて」


「はああ? 蘭ちゃん、人間にはね、色んなしがらみがあって、もしも俺らが両思いで、付き合いたくても、お互い色んなもん捨てて逃げて、大切な人傷つけるだけで、そんなん幸せとは違うんだよ」


「守る自信がないだけでしょう。彼女を

彼女を傷つけるすべてから、現実から、弱い男ね」

「じゃあ、俺らが身勝手に駆け落ちでもなんでもしても、世間は助けてくれるのか、違うだろ。違うんだよこの世界は!」

「がむしゃらに生きる選択肢が一応はあったんだ。

彼女の意見も聞いてないで、勝手に現実を見て、独りよがりよそれはただ「蘭」


夕暮れだったはずの世界が、一瞬で暗闇に包まれる。


「ズルイ女だ、ホント」


暗闇の先に光が差し込み、次の瞬間真っ黒なカラスが声ととも飛んできて、真っ白な光に包まれる。

眩しさとともに目を閉じ、ゆっくり目を開ければガタイのいい黒いスーツを着た若い男が立っていた。


「無茶苦茶だな、そして」


「嫌味を言いに来たの、こんなところまで」

「違う違う。まあ見張りついでに来たらさ、お前が俺への不満ぶつけてらみたいだったから。

......会いたかったか?」

「会いたくもないし、こんな無茶な会いにきかたしないで。バカ!」


ゆっくりと近づく2人は、ぎゅっと互いを抱きしめた。


朝霧は、悪いけど、すぐにわかった。

蘭はコイツのために、ここにきたんだと。

そして、俺と同じように、魔法界の常識に縛られる事に我慢している自分たちの恋を見ているようで、俺にその怒りをぶつけたんだろ。

「わかってないでしょ自分の立場、バカ男」

少し涙混じった声。

「可笑しいな、どこが危険なんだよ。好きな女に会いにきたのに。

お前も会いたかったなら、いいんじゃねえの」

そんな蘭の頭をポンポンと優しく叩く姿は、男の俺から見ても包容力のある格好良さがあった。

しばらくすると、蘭を離し、俺をジッと見る。

「蘭のこと頼むな、あんた」


「俺も答えを出す。あんたもちゃんと自分の答えを出せ。男らしくいこーぜ」

にっと豪快に笑い、男が黒い炎に包まれる。

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