第5話 笑顔

でも、あんなに簡単に皿洗いとかしてくれたのに、魔法使いではできない方なのかよ。

どんな魔法使いなら優秀なんだ。

「ねえ、紫苑も、この高校の人なの?」


「まあ」

「だれなの?」

「蘭の席の隣にいる男、三神だよ」

「三神?」

俺は聞き慣れた名前に思わず、声を上げてしまった。

まさかあんな好青年な感じのやつが、片思いかよ。世界て理不尽だな。


でも、そうゆう事で言えば、俺、ほんとに蘭でよかったかも。朝霧に四六時中見張られてると思うと、気まずすぎる。

そんなことを考えていれば、思わず朝霧と視線があい、思わず見なかったふりをしてしまう。


「泉こそ、だれに片思いしてるんだ?

お前、いつも色んな女子連れ歩いてるくせに」

そんなことおかまいなしに、ど直球な質問が飛んでくる。

「恋の傷を癒してくれるのは、新しい恋てよくいうでしょうが。それより、君たちのせいで、俺授業サボっちゃったじゃん。

痴話喧嘩なら、魔法の世界でやってから来いよ」

「ごめんごめんハル、次の授業には出られる様にしてあるから。

ね、どんな錯乱魔法をかけたの?紫苑」

俺に指摘されたのが嫌なのか、少し居心地悪そうな顔をする朝霧、意外と優しい男なのかもしれない。いや、真面目すぎるだけか。

「蘭が気持ち悪くなったてことで、俺が保健室に一緒に連れて行って、こいつはいつも通りサボりにしてある」

「いつも通りて。すごい設定だね。まあいいや、蘭、いこ。学校案内してあげるよ」

「そんな事俺が「紫苑、ハルと戦略も立てたいし、2人きりにして。ね?」

蘭が朝霧を見つめながら笑顔でそう言えば、渋々朝霧は、繋いでいた手を名残惜しそうに離した。


「さて、いこっか」

蘭は屋上のドアに向かってスタスタと歩いていくので!俺もそれを慌てて追いかけた。

グイッとドアノブを回せば、ドアはカチッと音がして開く。

屋上の階段をそのままずっと無言のまま降りていき、俺たちは二階の階段そばにある誰も居ない音楽室に入る。


「ごめんね、ハル。ビックリさせたよねいろいろ」

沈黙を破ったのは、蘭だった。

さっきの出来事が疲れたのか、少しいつもより元気のない落ち着いた感じがした。

「いや、それよりあんな事しか言えなくて俺もごめん」


「ううん、気にしないで。

……ねえ、昨日言った事覚えてる?」


「……魔法使いは一度しか恋ができない、だったっけ?」

一番印象的で、俺の脳裏に焼きつくように残ってしむった言葉。

「紫苑は、雷の魔法使いの一族なの。

昔から雷を扱う魔法使いは、優秀な人が多くて。もちろん紫苑も、そう。

魔法学校の首席で、卒業後は魔法界の秩序と権威を守る、特別警備衛兵団の一員になるってもう決まってるの。

私の魔法の力は確かに、紫苑の言うとおりね、ダメダメなんだけど。占いができる魔法使いは限られているの。だから、それだけで重宝されるし、こう見えても魔法界では、とってもモテるの。

だから、私に占いができると分かってからすぐだった。紫苑が許嫁になったて親から言われて会わされたのは。

それから、幼馴染として今までずっと一緒に成長させられて、今でも隣を歩かされてきたのお互いね、」

2人きりの音楽室、グランドピアノの前にある椅子に座った蘭が、淡々と話した。



「すっげえ世界だな」

占いがそれだけ大事なのか、意味わかんねえ世界。

きっと俺たちとはちがう価値観の世界なんだろう。

理解できない状況だけど、俺は蘭に寄り添えるような言葉を選んで答えた。

「うーんでもそゆう事が当たり前だし、私も当たり前だと思ってた。

優秀で、真面目で、私を大切に守ろうとしてくれる紫苑の事、私も同じように、大切にして一緒に生きていきたいって思ってた。

でも、本当に人を愛する気持ちとは違う気がしたの。あるきっかけがあって。

だから、あなた達人間の真剣な思いを見にしたの」

「真剣て言うより、ふつーに忘れたくても忘れられない、とらわれた観念みたいなものな気がするけどな」

そんな綺麗な思いじゃない。


「さてと、私のことは置いといて。 とりあえずハル、会いに行こう」

「はあ?」

「だって、花純ちゃんがどんな風にハルを思ってるのか、見ないとわからないし」

「嫌だね、一人で行きなよ」

「ダメよ。2人がどう思ってるのか2人を見ないとわからないもん。

だから今日は麻美ちゃんとも他の女とも遊ぶの禁止ね」

怒られて罵倒されて元気がなかったはずの蘭は、すっかり元気になっていた。

この方が蘭らしくて、いいなあなんて思いつつ俺は渋々うなづいた。

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