第4話 再会

「こんな時期ですが、ご両親の都合で転入してきた風間 蘭さんです。今まではイギリスで暮らしていたそうなので、日本の生活は不慣れな方もあると思うので、みなさんフォローしてあげてください。では風間さん、挨拶して」

「風間 蘭です。よろしくお願いします」

ニコニコする蘭は、明るい雰囲気があるのでこんな時期の転校生でも、クラスの雰囲気は奇妙がられている様子はなかった。


「席はそうね、三神くんの隣ね。」

「はい」

俺とはちょうど真反対な窓際の一番後ろの席だ。

「三神くん、お昼休みとかに学校案内してあげてくれる?」

「はい」

蘭の隣の三神は、とっても爽やかなバスケ部のエースで、学年で一番モテるといっても過言ではない男だった。

隣が三神ならある意味ほんとにフォローもしてくれ、クラスにもうまく馴染めそうだな。俺はこの状況に安心し、前に視線を戻せば、目の前に座る4月に転向してきた朝霧と目が合う。


4月から転校してきたこの男は謎が多い男だった。

寡黙な男で特にあまり女子とは話さないが、キリリときた二重の目が印象的で、背も高く堅いが良く、よく裏で女子がカッコいいと騒いでいる男だった。

「あれ、朝霧くん。転校生みたいなのタイプ?」

俺の席の前に座っていても、視線が合うことなんてほとんどなく、そんな男と久々生があい、気まずい状況を変えるため軽口を叩く。

「ああ」

一言そう短く言う。え、っと聞き返す間も無く、朝霧は前を向いてしまった。





「風間さん、イギリスにどれくらいいたの?」

1時間目が終わると、蘭の席の周りはクラスの連中でいっぱいだった。教室の外にも可愛い転校生を見ようと人が集まっている。

なんか変なこと言ったりしなきゃいいけど、なんて思ったいれば、蘭が席を立ち、俺の方向へ歩いていく。

すぐ俺に助けを求めて、やっていけるのかよなんて思いつつ、俺は頼られることには悪い気はしていなかった。


「……紫苑、なんで来たの?」

俺の予想とは違い、まさかの蘭が一直線に向かってきたのは朝霧の席だった。

「お前こそ」

「黒炎の龍を倒しにいくはずでしょ。それが伝統なのに、なんで!」

「ちょいちょいおふたりさん。あの、なんか」

どうやら2人は知り合いという事だけは分かり、しかも緊迫した雰囲気を漂わせる感じに俺は思わず口を挟む。

立ち上がって後ろからそう声をかけた瞬間、体が風に包まれた。


突風の風に思わず目を瞑ってしまい、開けるとそこは普段は入れないようになっている屋上だった。


そこにはもちろん睨み合う蘭と朝霧も一緒だった。ただ朝霧の手には、蘭と同じあの金色のカギを持っていた。

緊迫した状況を破ったのは朝霧の深いため息だった。

「あれがお前のパートナーか?」

「そうよ。わたしが叶えてあげるの」

「ちょっと、お二人さん。俺連れてきたなら状況説明してくれる?」

2人は顔を見合わせる。

「ハル、紫苑はわたしの婚約者なの。だからそう、もちろん魔法使いで……彼も人間の恋を叶える試験でここにいるの。なぜかね」

なぜかねの部分をわざとらしく言うが俺にとっては、そこが問題ではなかった。

「え、朝霧と!?」

「そう、」

ビックリする俺とは裏腹に、少し元気のなさそうな感じの蘭。


「とにかく、あんなチャラした奴の片思いを叶えるなんて無謀だ。分かってるだろ、自分でも。風の魔法だってろくに使えてないようなものなのに。なんでこんな危険なことを……。一歩間違って魔法のことをこの世界に、バラしたらどうなると思ってんだよ!王室付き魔法使いにもなれるんだ。今から魔法界に帰って、俺と一緒に黒炎でも、青霊の龍でもいいから倒しにいくぞ」

まくし立てるように話す朝霧とそんな朝霧をただまっすぐ見ためる蘭。

「危険なんだぞっ蘭」

声をあらあげる朝霧と黙り込む蘭。

2人の視線がぶつかり合う。

「お前のレベルの魔法じゃ、こいつの恋も叶えられず、自分の身も守れない、いても意味ないだろ!」

「あるよ」

ずっと蔑まれる蘭を見てられなかった。

俺は、思わず2人の喧嘩に口を挟む。


「俺はこいつだから、手伝って欲しいと思った。朝霧なんかが来られても、俺の片思いを叶えてもらおうとか、手伝ってもらおうとか迷惑だと思ったと思う。

それだけでも、意味あるでしょ?」

「ハル、」

「たとえ、落ちこぼれ魔法使いでも、俺は蘭がいい。だから、勝手に連れて帰るとか言うな」


「紫苑、私だって充分わかってる。

力不足なんじゃないかってことは、そんなの一番知ってる。でも、見てみたいの、人間が恋を叶える姿を。

魔法の力を他人にバラさない様に気をつけるし、危険なことはしない。

だから、お願い。この試験を受けさせて」

強い想いのこもった切なげな声、愛する人に頼むのにこんな風に願わないといけないのか。


「……ホントになんで、強情なんだよこんな時だけ。

俺がどんなに心配して、ここにきたか分かってんのかよ」

「ごめんね紫苑、ホントにごめん」

「危険な目に巻き込まれない様になんかあったらすぐ俺に言え。それと、もし少しでも危ない状況になれば連れて帰る。

いいか、1人で抱え込んだり、無茶なことはするな」

だんだんと落ち着いてきた朝霧の声、そして蘭の両手をぎゅっと握る様子に少し2人が恋人らしく見え、安心する。


「泉、変なことに蘭を巻き込むなよ。魔法でなんでも解決できると思うな。

それと、こいつの占いに頼りすぎるなよ」

低い声で、彼氏っぽい忠告。

「はいはい、」

何だかんだいっても!ちゃんと恋人なのかもしれない。でも、蘭はきっと朝霧と、このまま結婚するのに何かしらの疑問がある。

でもこんなに熱い男だったんだな、朝霧。

ホントにこいつ、蘭のことを思っているんだ真剣に。

ミステリアスな男の正体が、意外すぎて俺は親近感を少し感じてしまった。

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