7☆解けたナゾ
──魔物達の真の目的は、桜門羅菜の魂だ!
さっき、夕焼けの河川敷で、りっかがあたしに突きつけるように言ったセリフ。
一体どういうこと?
あたしは、お風呂に浸かりながら考える。
あの後、あたしとりっかはお互い何も話さず、気まずい空気のまま同じ家へと帰宅した。
りっかは食事中も何も話さず、じゅーおじいちゃんは少し不思議そうな
「りっかの考えてること、ほんとよくわかんない。そもそもなんで、この家に来たの……?」
尋ねたいけれど、どう聞いたらいいかがわからない。じゅーおじいちゃんは、一体何を考えてるんだろう?
「おーい。らなちゃん、そろそろあがりなさい。りっかくんも次に入るからのぅ」
お風呂場の扉の向こうから、じゅーおじいちゃんの声。
「はあ〜い。今出る〜」
あたしは気の抜けた返事を返した。
まったく、ゆっくりお風呂にも入っていられない!
じゅーおじいちゃんとつつましい二人暮しをしていた頃が懐かしい。
着替えだってめちゃくちゃ気を使わなきゃいけないし、これもみんな、りっかがこの家に来たせいだからね!
「では、寝るとするかの」
10時。就寝。
あたしの部屋とりっかの部屋は隣どうし。
少ししてから、ふすまの向こうからりっかの健康的な息づかいが聞こえてきた。
「りっか、起きてる?」
試しに声をかけてみたけれど、しーん。
寝ちゃったか……。
あたしも寝ようっと。
布団をかぶって目を閉じ、うとうとしてたところで、りっかがあたしを呼んだ。
「らな、起きろ。
「ほぇ?」
あたしは落ちてくる重いまぶたをこじ開ける。
って、起きてたんかい! さっきなんで一回無視したの?
あたしは枕もとに置いてあった、昼間じゅーおじいちゃんにもらったリボンを手に取る。
「魔物が、なんで家まで知ってんの……とにかく、じゅーおじいちゃんを起こさなきゃ」
「いや、十夜さんに危険が及ぶのはよくない。オレたちで片づけよう」
あたしは台所にあったお玉を両手で握りしめて。りっかはサッカーボール片手に廊下を歩く。
「らな、お玉なんか持ってどうするんだよ。第一、お前は怪力だろっ?」
「うるさいわね……ないよりマシでしょ」
言い合いながら、庭にたどり着くと、確かに昼間と同じ魔物の気配を感じる。
暗闇の中に、うごめくいくつもの影。
あたしはぎょっとした。
昼間とはケタ違いだ。
なに、コレ! 100体はいそうだよっ……!
白いモヤ……魔物が、あたしたち二人をその燃え盛るアメジストの瞳でねめつけた。
──らな、りっか。ミィツケタ。
ビクッ。
気味の悪い重低音。
思わず怯みそうになる。
──らな。らな、ホシイ。ホシイ。魔物の心臓ト、ソノ魂、リョウホウヨコセ。
100体もの魔物が、一斉にあたしに向かって飛びかかってくる!
「きゃああ!」
「らな!」
りっかが、あたしを呼ぶ声!
ガッ!
あたしは目をきつくつむって頭を庇い、しばらく動かないでいた。
……あれ。どこも痛くない。なんで……
あたしは、ハッとした。
目の前に、じゅーおじいちゃんが倒れている。
あたしにかけよろうとしたりっかよりも早く、じゅーおじいちゃんがあたしの前に立ちふさがったのだ。
「じゅーおじいちゃん!」
「十夜さん!」
あたしとりっかの声が重なる。
「っ、この!」
よくも、じゅーおじいちゃんを!
あたしは怒りを込めた炎の瞳で、魔物たちをにらみつける。
──効くかはわからない。でも。
あたしは魔物に対し、リボンをかかげると、その昔、じゅーおじいちゃんから教わった呪文を全身全霊で叫んだ。
「レベル5の悪しき魔物をこれより永久に封印する。全ての邪気よ直ちに消え失せろ。桜門十夜と、その孫羅菜の名を
まばゆいばかりの閃光が立ち上がり、全ての魔物は叫び声を上げながら消えた。
「おじいちゃん、しっかりして!」
泣きながらじゅーおじいちゃんの手を握るあたしに、じゅーおじいちゃんは途切れ途切れに話してくれる。
「らな……ちゃん。りっか、くんは、一度こうして、わしを守ってくれたことがあるんじゃよ。両親が亡くなり、どこへも帰れなくなったりっかくんを……わしは、放っておけるハズがなかった」
両親が亡くなった……!?
知らない。そんなのあたし、聞いてない。
りっかって、お父さんとお母さん、もういなかったんだ……。
「魔物たちが……、らなちゃんの命を、狙うのは、おじいちゃんの孫だからじゃ。その昔、わしは、りっかくんのお父さんと一緒に、魔物を封じる仕事をしていた」
「わしの魔力の気配がするんじゃろうな」と、じゅーおじいちゃんはあたしが気になっていたことを話してくれる。
「わかったよ。おじいちゃん、とりあえずもうしゃべらないで、和室に行こう」
あたしとりっかが力を合わせてじゅーおじいちゃんを担ぐと、悲鳴をあげた。
「あたたたたっ! わしの持病の、腰痛がっ……!」
って、腰痛!? 魔物たちのあの攻撃を受けて、腰痛ってどういうことよ?
「わしはしばらく家事は出来ないかも知れん……れにを呼ぶのじゃ」
おじいちゃんが「そこの引き出しの中じゃ」と言って、パリにいるれにおばあちゃんの連絡先を見てなんとか電話してくれる。
れにおばあちゃんが来る!
あたしはこんな時だけれど、少し、心がウキウキと弾んでいた。
バスターなんかしないもん! 桜未美亜 @ronronkuron
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