6☆夕焼けの河川敷
夕焼け空の下、帰り道の河川敷。早歩きでどんどん先に行ってしまうりっかを、あたしは戸惑いながら走って追いかける。
──魔物が全ていなくなったあの後のこと。りっかはなぜか終始無言で、不思議に思いながらも二人で教室に戻った時には、もうクラスの皆は下校していて、かわりにあたしの机の中には
『らなちゃん、ずるい! りっかくんと二人で一体どこ行ったの!? まりも特製いちごケーキ、もう作ってあげないからね!』
と、親友からの不吉な手紙。実家が電器屋さんのあたしに対して、まりもちゃんの家は可愛いケーキ屋さん。
まりもちゃんからいつもめちゃめちゃいい匂いがするのは、多分ケーキの香りだ。
ちなみに、まりも特製いちごケーキとは、あたしが一番好きなケーキなのである。
「り、りっかのせいで……」
わなわなと震える両手で便せんを握りしめるあたし。
ふと、すみっこの小さな文字に気づいた。
『P・S ウソだよ。たとえ恋のライバルになったって、あたしたちずっと親友だからね! らなまりは永遠♡』
「よ、良かったああ〜」
1年生の頃からの親友を、あんな、りっかとかいうワケのわからない同居人のせいで失わずにすんだ!
「バンザイ! って、あ、あれ?」
そのりっかが──あたしが教科書を全部ランドセルに入れ終えて背中に背負った頃には、教室からこつぜんと姿を消していた。
もしかして、先に帰った? 別に一緒に帰ろうって約束してたわけじゃないけど……
──狙われてるのは、らな。お前なんだ。
靴箱のところで、りっかを見つけて呼びかけてみたけど、りっかはあたしの声を完全に無視。その後も振り返ることなく歩いて、今に至る。
「ま、待ってよ! なんでそんなに先々行っちゃうの!? ねえ! りっか……」
初めのうちこそ、人が呼んでるのに無視するなんて失礼じゃないの!? なんて思っていたけれど、こうやって背中を向けられ続けると、なんだか段々、切なくなってきた。
だから、あたしは息を吸い込んで、耳がキーンとなるくらいの声量で思い切り叫んだ。
「りっかあ!! このっ……無視するなああっ! 魔物に狙われてるのがあたしだけって、一体どういうこと!?」
ピタ、と先を歩く足が止まった。河川敷で遊んでいた低学年くらいの子供たちが、びっくりした顔であたしたちの方を見た。りっかは、くるりと振り返り、同じように叫んだ。
「っるせーなああ! 言葉通りの意味だよ! オレよりお前の方が寿命に宿る魔力が強いから、オレはオマケみたいなもんなのッ! 魔物達の真の目的は、桜門羅菜の魂だ!」
ビシッと突きつけるように言われ、あたしはもう意味がわからない。
「何!? じゃあ、魔物たちは桜門家と泉家が、今こうして一緒に護ってる魔物の心臓を狙ってるだけじゃなくて、その上あたしの魂をも、狙っているの?」
多分、尋ね方はこれで合ってると思う。
「ケンカだー。ケンカだ。」「何? 夫婦喧嘩?」周りの低学年の子たちの冷やかしのようなからかいに、「夫婦じゃねええー!!」と一喝してから、ひとしきり追いかけ回したあとで、りっかはあたしに向き直る。低学年の子たちは、笑いながら帰っていった。
「……だからそう言ってんだろ。オレは、十夜さんに恩がある。だから、魔物の心臓を常に持ち歩いて、常にお前と行動を共にして、魔物たちの注意がお前にいかないようにって、頼まれてんの」
りっかの説明で、ようやくこれまでの事に合点がいった。じゅーおじいちゃんと、りっかの謎のやり取り。謎の空気感。あれらは全て、あたしを守る為。……とても、温かい気持ちになれた。
「あとお前、らな。必殺技とかもあるらしいから。帰ったら十夜さんに聞いてみ」
必殺技あ? またまたぁ。──じゅーおじいちゃん、よく今まで普通の電器屋さんのフリしてたね……。温かい気持ちに包まれながら呆れ返るあたしに対して、さっきからずっと、何故かイライラしているりっか。
あたしが狙われていることはわかったけど、なんであんたが怒るのよ?
りっかのことがよくわからない。本当はあたしのことを心の中でどう思っているんだろう。りっかのことを初めて男の子として意識したのは、このときだった。
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