5✩初! 魔物バスター!?
──ビュオオオオッ!
「きゃあああ!?」
「うっ!」
凍てつくような猛吹雪が、あたしたちを襲う。
地面からは先端が
まるであたしたちがいるこの空間だけが、冷凍庫の中のようだ。
「今、夏だよね!? なんか急にめっちゃ寒いんですけど!? ねえりっかあ!」
「ばっ、名前! 呼ぶな!」
「へ?」
──キイタカ? コイツガりっか
──ジャア、アノムスメハ、らな
「魔物にお知らせしたようなもんなんだよ! このアホらなァ!」
「なによ! そんなの知らないもんっ! バカりっかめ!」
どこからか、聴こえてくる、気味の悪い重低音。
これが魔物の声?
──オレタチノシンゾウハ、ドッチガモッテイル?
──トウヤノ、マゴダ。らなノホウダ!
ってええええ!? あたしが、魔物の心臓を持ってるって!? 知らないよそんなの! だってあの石は、普段は夜になると、じゅーおじいちゃんが大事なものばかりを入れている棚の奥深くに、用心深くしまってあるんだから!
「知らない知らないっ! 石なんてあたしは持ってないったら!」
人の形で
いやあああ! あたしはとっさに、両目をきつくつむって両腕を前でクロスし、受け身の姿勢をとった。
すると──
──ガッ!
「っ!?」
白いモヤの攻撃を、止めることが出来た。両腕はシビれて痛かったけれど。
そこであたしは、はっと気づいた。何体もの人の姿をした白いモヤ。あたしたちの周りを取り囲むようにしてじりじりと迫って来るそいつらには、殺気も何も感じない。だから、怖くない。背格好は人の姿をしているってだけで、これは、ただのケンカと! なんら変わらない!
そう思うと、ふっと肩の力が抜けた。魔物っていうものがなんだかわからなかったあの得体の知れないものに怯えていたあたしは、もういない。
「……どうしたのよ? あたしがケンカが強いってこと、今まで知らなかったの? 魔物って言ったのに、ただのケンカ相手と、なんにも変わらないんだねッ!」
そこからは、高校生を追い払った時と同じ。完全にあたしのターンだ。
「とおっ!」
足を払いあげて転倒させると、すうっと溶けるようにして一体が消えた。
消える瞬間、じゅーおじいちゃんの今朝の言葉を思い出した。魔物を退治するときに、必ず唱えなければならない呪文。
あたしはすうっと息を吸い込み、ツインテールの右に結んでいた水色のリボンをしゅるりと解くと、それで星の形を宙に描き、目をつむって唱えた。
「レベル1の悪しき魔物をこれより永久に封印する。全ての邪気よ直ちに消え失せろ。らなとりっかの名を
直後に、
なっ、なにコレ? 少女漫画でたまに見かける魔法陣?
りっかが、あたしが魔物と闘う姿を見ている。
何よ、見てないで応戦しなさいよ!
闘うのに必死なあたしは、心の声を無意識の内に瞳に込めていたみたい。目が合ったりっかの表情は、驚きに満ちていた。
キーンコーンカーンコーン……と、下校を告げるチャイムが鳴った。
チャイムなんてこの際気にしてられない。早く帰らなきゃなのにまだ校内に残っているわけだから、幸本先生や他の先生には怒られると思うけど、仕方ないよっ。
段々と疲れてきた。気づけば、一体の魔物に足で頭を地面に押し付けられ、もう一体にとどめを刺されようとしている、あたし。
心臓のある左胸の辺りに、ぽうっと赤い光が、急に灯る。多分、これから、寿命を奪うのだろう。
──シンゾウヲ、ワタセ
容赦ない、無機質な声が頭上から降ってくる。じゅーおじいちゃん! らなは負けません!
「……ッだから、持ってないって、言ってるでしょお!?」
最後の強がり。本当のこと。もうだめ!
「バーーーカ! 魔物の心臓は、オレが持ってんだよ! この透明人間共が、追いかけて来い!」
その時、りっかが、まぎれもない魔物の心臓を高くかかげて魔物たちに見せつけると、何故かグラウンドに転がっていたサッカーボールをひとつ抱えて、プールの方に向かって走り出した。
突然の出来事に、あたしも魔物も、一瞬あっけにとられる。
「…………」
──…………
いやいやいや、あんたが持ってたんかい!
最初から名乗り出なさいよ! あたしが闘った意味はああっ!
色々とつっこみどころはあるけれど、一番の疑問はこれしかない。
じゅーおじいちゃんったら、なんでりっかに魔物の心臓を預けてるのよ! いつの間に!?
「っ痛ったあ……もーっ! 意味わかんない!」
あたしを取り囲んでいた魔物たちも、気づけばりっかの方へと飛んでいった。
どうやら魔物は、空を飛べるみたい。
あたしは擦りむいた両腕とヒザ小僧を気にしつつも、なんとか立ち上がると、りっかが走っていったプールの方へと急いだ。
息を切らして、プールにたどり着くと──
「らあっ!」
プールでは、りっかが魔物と闘っていた。
それも、サッカーボールで。
りっかが勢い良く蹴ったボールは、時には回転して、時にはストレートで。
狙った通りの魔物にぶつかり、跳ね返ったボールをまた別の魔物に当てる。数回連続で、次々と魔物を消していく。
すごい……!
いつの間にか、全部で20体ほどいた魔物は全て消えていた。
りっかもじゅーおじいちゃんの言葉を思い出してるんだろう。腕に巻き付けた青いリボンを解くと、宙に星を描き、あたしとは少し違う呪文を唱えた。
「レベル1からレベル2の悪しき魔物をこれより永遠に封印する。全ての邪気よ直ちに
現れる魔法陣。しばらくすると消えた。
今日のところは、なんとか助かった……?
ホッと息をつく。
でもでも、あたしが驚いたのはね。
「本当に、サッカーが、上手いんだね!」
「まあな。ってこれはサッカーじゃねーけど」
足には自信があるって、さっき言ってたもんね……
感心するあたしに、りっかが、はあっ、と息をついた。多少はケガをして、髪も乱れたあたしを見て──それでも、安心するかのように。
「どうしたの?」
「…………十夜さんは、オレたちの寿命が狙われるって言ってたけど、本当は少し違うんだ」
へ?
りっかの声が、曇天が晴れて、いつの間にかオレンジ色のプリズムが綺麗な、夕焼けになった空に響いた。
「狙われてるのは、らな。お前なんだ」
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