第13話

 一週間後。

 あたしはドキドキしながら駅前で待っていた。

 あのあとすぐ吉良君から会いたいって連絡があったからだ。

 服を選ぶのに五時間もかかった。ワンピースなんて久しぶりに着る。いつもはTシャツにジーンズだ。

 下を向いているとみんながじろじろと見てくる。

 こんなデカイ女がこんな可愛い服を着ても似合わないんだろう。

 恥ずかしい……。帰りたい……。今からでもいつもの服装に着替えたい。

 本気でそう思い出した時、吉良君が笑顔でやって来た。

 しかも部活のジャージで来やがった。

「よう。やっぱデカイからすぐに分かるな」

「う、うるさい……。デカイって言うな」

「いいじゃんべつに。俺達にとっちゃ褒め言葉だろ。ふうん。私服は可愛いんだな」

 吉良君はじろじろ見たあと、ニカッと笑った。

「可愛い……? ど、どうせ服がでしょ?」

「服も、かな」

 あたしは熱くなった。どうしてこの人はこんなことを平気で言えるんだろうと怒りたくなってくる。

「まあいいや。それより飯食いに行こうぜ。腹減ったよ。なに食いたい?」

「べ、べつになんでも……」

「じゃあ牛丼とか定食屋になるぞ?」

「それはちょっと……。えっと、じゃあ近くに美味しいビュッフェのお店があるからそこにする?」

「……ビュッフェってなに? なに料理?」

 あたしが呆れながら説明すると吉良君は頷いた。

「ああ。バイキングな。うん。そこにしようぜ。どうせ大木もいっぱい食べるだろうし」

 失礼な。否定はしないけど、一言多いぞ。

 店に入ると吉良君はお皿を山盛りにし出した。それも二皿。

 それを見てるとなんだかあたしが恥ずかしくなってくる。

 その代わりと言っちゃなんだけど、いつもはたくさん食べるのに今日はそれほど盛らなかった。

 学校の話なんかで盛り上がりながらお腹いっぱい食べると、吉良君は首を傾げた。

「で?」

「え? なにが?」

 あたしが呆けていると吉良君は照れながら頬を掻く。

「いや、だからさ。返事っていうか……ね?」

 返事? と一瞬思ったあと、先週の映像が蘇る。

 さっきまで楽しかったのに、急に恥ずかしくなった。

 照れながら黙っていると、吉良君は思い出すように笑った。

「中学の合宿で会った時、俺より大きい女を初めて見てさ。それ以来気になってたんだ。なんか負けた気して、俺の方がでかくなった高校までは話しかけられなかったけどさ」

「そう……だったんだ」

 あたしが意識しだした時、彼も同じだと知って嬉しくなった。

「うん。大木ってデカイから、どこにいても見つけられるし」

「あはは。じゃあ、デカくてよかったのかな?」

「俺にとってはな。まあ大変だけどな。頭もよくぶつけるし」

「うんうん。服とか靴とかもサイズないよね」

「そうそう。あってもダサいし」

 あたし達は互いに共感して笑い合った。

 それからまた少し真剣な顔に戻ると吉良君は尋ねる。

「……で、どうっすかね?」

 あたしはドキドキしていた。

 吉良君から視線を切って質問する。

「えっと、吉良君って大学どこ行くの?」

「ん? K大。そこの監督から誘われててさ。推薦で安く行けるらしいから。家から通えるしな。それが?」

 それを聞いてあたしは決心した。

 顔を上げて、吉良君の目を見る。

 あの時約束したみたいにしっかりと。

「じゃ、じゃあ、あたしもそこに行く。そしたら、その時返事も言うね。……ダメ?」

 あたしが不安げに聞くと、吉良君は少し驚いて、それから笑った。

「じゃあ、約束な」

「うん。約束。今度は守るから。絶対に追いつくから。だから待ってて」

「おう。待ってる。ずっと待ってるから早く来いよ。でないと俺はどんどん先に行くぞ」

「うん」

 あたしはしっかりと頷いた。

 それからあたし達は笑い合って、一緒にデザートを取りに行った。

 二人共取り過ぎて店員さんが慌ててたくらいだ。

 楽しかった。嬉しかった。これからも頑張ろうって思えた。

 きっとこんなこと、吉良君とじゃないと思えない。

 だから彼の隣に立ちたいと心の底から思った。

 

 インターハイに出られなかった時、あたしは失恋した。

 だけど、二度目の恋も同じ人を好きになった。

 それがなにより幸せだった。

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約束 古城エフ @yubiwasyokunin

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