もどれ
アスキ
もどれ
それはある夏の夕暮れだった。林間学校に来ていた生徒達は、ある場所へ向かうため、歩いていた。
林間学校も翌日で最終日であるためか、生徒はイベントを企画していたのである。主催者は野球部の涼太であった。
その内容は、クラスみんなで旧野球場へ行き、密かに花火をやろう、というものだった。森の中にあるそこへは、危ないから行ってはいけないと言われていた。しかし、中学生の彼らに聞く耳はなかった。
クラス一行は森を抜け、マウンドに近づいた。マウンドには雑草が生え、汚れたボールが散乱していた。直後、生徒の一人が寒気を感じ、周囲を見渡した。すると、あるはずの無い影が、マウンドに立っていた。その影はゆっくりと歩きだし、一行に近づいていった。不気味に思った生徒が踵を返したその時、影は1人を飲み込んだ。次いで近くの生徒の背後に立ち、また1人、飲み込んだ。一行は騒然とし、影から逃げ回った。
涼太も恐怖のあまりに走り出していたが、あることに気付いた。影が野球ボールを持っていることに。その姿はさながらボール遊びをしている子供だった。それならボールを遠くにやれば、それに気がいくのではないか。そう考えた涼太は、ボールを出来るだけ遠くへ、投げた。
すると、影の動きが変わった。以前よりも早く、動き始めたのである。涼太の推測は間違っていた。影は守備であり、生徒はランナーだった。それに気付いた直後、涼太は渾身の力で叫んだ。
「戻れ!!」
涼太の声に反応した一部の生徒は、塁に向かって一目散に走った。涼太は塁を踏み、息切れを落ち着かせようと努めた。その時間も、涼太にはとても長く感じた。涼太は少し落ち着き、周りを見渡すと、影は消え去り、5人ほどの生徒が疲れ果てた顔で塁を踏んでいるだけだった。
陽は既に落ち、辺りは闇に包まれていた。
帰りのバス。そこでは、少し残った生徒達が抜け殻のようになり、呆然と虚空を見つめているだけだった。
もどれ アスキ @13106
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