虚栄心のその先

みなづきあまね

虚栄心のその先

自分でも思う。そんなに言葉数は多くなく、愛想も良いとは言えない。内実を言えば人見知りではある。特に共通の話題が見つからなかったり、同年代の女子とは積極的には関わらない。


変に話しかけて話題に困るのは嫌だし、人に気を遣うこと自体に生産性を感じないため、不必要なことに労力は割きたくない。時々気になる話題に口を挟み、我ながら大人気なく、興奮する時はあるが。スポーツの話とか。


つまり、なるべく職場では冷静を貫きたいと思っている。余分な感情は仕事の妨げにもなりかねない。


そんな俺でも、理性を保てない時はある。いや、オフタイムは自由を満喫したいから、趣味であるフットサルやジョギングで汗を流すし、週末はゲームもする。時間があれば、人並みに疾しいことも考える。


そういうものではなく、仕事中、俺を揺さぶる人がいる。3歳年下の女性。黒く、波打つ髪は毎日きっちり束ね、スポーツを全くしてないというだけあり、線は細いが丸みがある。表情は切れ長の目元のせいで少しキツめに見えるが、年齢にしては大分若く見え、小柄さも相俟って、所謂「綺麗系」よりも「可愛い系」に属すのだろう。


普段接点が多いわけではなく、話す機会は少ない。むしろ、俺と同じチームの男子は彼女よりさらに1歳年下だが、昨年度まで彼と数年間一緒に動いていたようで、彼と軽口を叩いたりする姿をよっぽど多く見かける。


あいつには悪いが、男の俺から見てもあいつは女慣れしているのがすぐ分かる。飲み会の時に話している感じからしても、多分女遊びも存分してきた匂いしかしない。


もしあいつがそういうことを見越して彼女と交流をしているのであれば・・・


思わず書き損じの紙を握り潰した。


ちょうどその時、斜向かいであいつと彼女が話している声が聞こえた。


「髪型変えました?」


「お、さすが!イケメン度が増したと思いません?笑」


「んー、どこにイケメンが・・・」


「酷っ!前の方が良かったですか?」


「個人的には新しい方に1票!大人っぽく見えますよ!」


彼女はわずかに首を傾げて笑った。ちょっと水を差してやる。


「水上、ちょっと。」


俺は大した仕事もないのに、男を呼んだ。彼女は俺を見ると、顔を困ったように曇らせて、自席に戻っていった。


俺には挨拶もなしか。


きみが誰かと笑うたびに (溢れ続ける嫉妬心)

お題配布元:確かに恋だった


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