第6話 エピローグ
あの日、僕らが駆け落ちした次の日の朝。すみれは彼女に埋め込まれたGPSから位置を割り出し、保護しに来た警察に引き取られて行った。僕は別のパトカーに乗せられて、いくつか質問を受けたけれど結局お咎めなしだった。
すみれの家族からの信頼で成り立っていた僕の「補助係」という役は簡単に剥奪され、国から配属された職員の方が、今はその立場にいる。僕は、卒業を待たずして彼女の中から完全に消え去ることになった。
「俺はさ」
辛気臭い顔をした悠馬が、口を開く。すみれとの時間が減った代わりに、悠馬といる時間が増え、今では二人で通学路を歩くまでになった。
すみれが好きだった桜の木の下で、悠馬が苦しそうに言葉を探している。僕はただ、次の言葉を待っている。
「俺は、お前に幸せになって欲しい」
「なにそれ……プロポーズみたいだよ」
「プロポーズだったら、『幸せにする』だろ」
悠馬が眉を寄せて、反論をよこす。僕は乾いた笑いをこぼした。
「幸せだよ、充分。本来ならすみれの異能が分かった時点で、僕らは離れ離れになるはずだったんだ。それが十三年も先に延ばされたんだよ?これ以上なにを望むんだよ」
悠馬は何かを言いたそうにしていたけれど、結局何も言わないまま石を蹴った。転がった石が側溝に落っこちてポチャンと音が鳴る。
すみれなら、目を輝かせて笑うんだろう。
自然にそんなことを考えてしまう自分が情けなくて、僕も石を蹴った。桜の木に当たった石は、力なくその場に転がった。
僕の長い散歩 甲池 幸 @k__n_ike
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