たんぽぽの恋情

みなづきあまね

たんぽぽの恋情

『たんぽぽの恋情』


研修の帰り、僕と同僚は一緒にビルを出た。まだ夕焼けさえ出ていない日曜の午後。午前から続いた座学に強張った体を伸ばしながら歩いた。


歩く度、彼女の結われた髪が左右に跳ねる。僕より勤務年数はだいぶ上だが、2歳年下の彼女は、頼りになる反面、見た目に子供らしさが残っている。


「疲れましたね、明日も仕事ですか?」


月曜定休の彼女が問うてきた。


「はい。まあ、毎週のことなんで、別に研修がなくても、大抵日曜は外出してますし。」


ずり落ちてきた眼鏡の位置を直しながら答えた。


「良かったら、ちょっと寄り道しません?毎日この近くを電車で通るのに、景色を見るだけで、歩いたことないんです。」


そう言って有無を聞かず僕を先導する彼女は、駅の高架下をすり抜け、地図を見ながら数分歩くと、土手に出た。


「毎日電車から川を眺めるんです。季節だけじゃなくて、天気や時間によっても景色が違うから楽しみで。」


遠くの水面の煌めきを見ながら歩く彼女は、身軽で、細い。僕も大概「ひょろい」とか「軟弱」とか言われるが、それとは少し違う。


ある程度綺麗な場所を見つけると、彼女はハンカチを敷き、座った。


「いいですね。時間の流れが緩やかな感じがします。」


隣に座った僕もそう口にして、思わず微笑した。それと同時に右肩に重みを感じた。重み、と言っても、軽いもの。揺れる髪から香りがたつ。


「・・・どうか、しましたか?」


「ちょっと。お願い、しばらくこのままでいさせて」


風に吹かれ、目の前に咲いている2輪のたんぽぽが、僕等と同じ格好をした。


「あ、はい。」


僕のか弱い返事は風に消えた。


(しばらく、ってどれくらいなんだ?彼女は何を思って僕の肩に。)



★お願い、暫くこのままでいさせて

お題配布元

「確かに恋だった」

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