短編集
深手藤峯
昔は翼があったらしい
「ここら辺は昔水田だったみたいですね」
「かなり前だけどね」
「今は見る影も無いですね。再開発ってやつですかこれが」
「だね、都市計画様様だよ」
「お陰で自然は無くなりましたけどね」
「そうかな?」
「街路樹は自然ではないですよ」
「まあ確かにそうか」
「今や海もところ構わず埋め立てられ、川はダムにより管理されてる。逆に山なんかは管理する人間がいなくて大変みたいだけど」
「その分便利な世の中になったじゃないか」
「便利なだけでは心満たされませんよ」
「言うねえ」
「私がそうですから」
「何か不満が?」
「不満はありませんけどね、ただ無性に懐かしくなるんですよ。畦道を駆け、虫を追い、木々の下で休んで…」
「今時そんな人間がいるかな」
「…いないでしょうね」
「失ったものの方が綺麗に見えるものだよ」
「それはあります」
「僕は都会っ子だからわからないけどね」
「そうでしたか」
「生まれも育ちもここだからね」
「それはそれは。あれですか、泳ぎにいこうと思ったら渋滞に飲まれつつ海へ?」
「山に行こうと思ったら県外に出ないといけないしね」
「不便ですね」
「まあ、ね」
「それなんですよ、満ち足りないもの」
「つまり?」
「昔は不便さなんて感じませんでしたから。端から見る分にはどうだか知りませんが」
「成る程ね」
「今は高いビルに囲まれて生きてますけど、あの時の方が、木々に囲まれ、地面に近かったあの時の方が高いところから翔べたんです」
「翔べた?」
「ええ。翔べたんですよ、私」
後日、彼女から真っ赤なスイカと写真が送られてきた。
青い、沸き立つような空がそこには写っていた
終
短編集 深手藤峯 @fkdtst
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