後編

 覚悟を決めたのは良いものの、結局のところどうしたら良いのかわからなかった。つまり、部活中は睦月に話しかけることなんてできなかったのだ。いや、もちろんちゃんと睦月のことは見ていた。隙あらば目で追っていて、「格好良いなぁ」とか、「クールすぎて私なんかが近寄れないなぁ」とか、いつも通りのことを考えてしまう。

 やっぱりどう考えても、告白するような空気なんてない。もしかしてリグレッ娘はただの幻覚だったのでは? と思う程、何の変哲もない時間が流れていた。

(あ、れぇ……?)

 気付いた時には部活は終わりを迎えてしまい、木乃香は唖然とする。何もなかったどころか、いつも以上に集中できなかっただけだった。

 頭の中のクエスチョンマークが消えない。だからこそ、木乃香はすぐに納得できてしまった。

「今日の片付け係は椎村と八奈見な」

 という顧問の言葉に、木乃香ははっとする。

 そういうことか! と思わず息を呑んだ。きっと過去の自分は物凄くテンションが上がったことだろう。今だって急に鼓動が激しくなってしまった。嬉しい気持ちと、緊張する気持ちと、自分は本当にアホなんだなぁという気持ちが混ざりに混ざる。

 きっと、二人きりになれるチャンスなんてそうそうないのだから舞い上がって告白したのだろう。まともに話したこともない癖に、馬鹿すぎる話だと思う。でも残念なことに、これが椎村木乃香という人間だった。

「えっと……椎村さん、だっけ。よろしく」

「あっ、は、はい。よろしくお願いします。八奈見先輩」

 睦月がこちらに近寄り、片手を上げる仕草をする。……のは、なんとか確認できた。すぐに俯いてしまい、ガチガチに緊張した声しか出せない自分が情けない。

 告白しない。ちゃんと見る。ちゃんと知る。

 木乃香の頭の中は、ただそれだけがぐるぐると回っていた。


「…………」

「…………」

 二人して、無言でバスケットボールを片付ける。何か話さなきゃとは思いつつも、緊張が勝って口すら動かない。「もう後悔はさせない」なんて格好良く言い放った癖に、蓋を開けてみれば自分は自分でしかなかった。早くも冷や汗が流れてくるし、心はすでに焦りつつある。

 どうにかしなきゃと思っていると、

「え……っ?」

 睦月が小さく驚きの声を上げた。

 木乃香も身体をビクリと震わせたが、声は出なかった。というより、出せなかったと言った方が良いだろう。

 背後でガチャンという音がした。つまりは、何者かに体育倉庫の扉を閉められ、更には鍵までかけられてしまったのだろう。

(何で……)

 木乃香は心の中でため息を吐く。

 しっかりと見えてしまった。何者か、なんてとぼけている場合ではない。桃花色の髪に、銀縁眼鏡。あれは確実にリグレッ娘だった。しかもかなり辛そうに顔を歪めていて、こっちまで胸が苦しくなる。

 わざわざ体育倉庫に閉じ込めたということは、逃げるなということだろうか。確かに何も話せていないが、何もそこまでしなくても。木乃香は眉間にしわを寄せ、扉の外にいるであろうリグレッ娘を睨み付ける。

「え、嘘、閉められた……? 椎村さん、今の誰かわかった?」

「へっ? あー、えっと……わ、わかんなかったです。……あ、でも鍵を外に置きっぱなしにしたのは私なので、私の責任です……」

 振り向くと、睦月は当然のように戸惑ったような声を出していた。木乃香は慌てて誤魔化し、焦るあまりに謝罪の言葉まで口にしてしまう。リグレッ娘に閉じ込められてしまった――なんてもちろん言える訳もなく、ただただ視線は沈んでいった。

(どうしよう……何か言わなきゃ……)

 木乃香は必死に頭を巡らせる。世間話でも何でも良いから喋らなきゃと思った。睦月のことを知るためには、とにかく動き出すしかない。

「あ、そういえば……」

 考えて考えて、考えまくった。やがて辿り着いた答えは「何で私達が片付け係なんですかね?」という些細な話題だった。片付け係は顧問の独断と偏見で決められているが、同性二人ずつという決まりはある。なのに何で今日は男女二人なのか。

「…………っ」

 その時、木乃香はようやく気付いてしまった。いや、今更と言った方が良いだろう。リグレッ娘の苦しそうな表情がよみがえる。きっと今の木乃香も、同じような表情になってしまっていることだろう。

 透き通った白い肌に、長いまつ毛。身長は高めだけれど、繊細でたおやかな身体つき。そして何よりも、

「椎村さん……?」

 心配そうに顔を覗き込んでくる睦月とバッチリ目が合う。優しくも温かい表情をまじまじと見てしまい、木乃香は心の中で叫び声を上げた。

 自分はなんて馬鹿なのだろう、と。

 確かに遠くから見ているだけだった。話しかけることなんてできなかった。でも、だからといって気付かなくて良い理由にはならない。

 見れば見る程に。知ろうと思えば、思う程に。

 八奈見睦月という一人の先輩は、自分と同じ女性でしかなかった。なのにリグレッ娘だった時の自分は何も考えずに告白したのだという。

 二人きりになって、舞い上がって、告白して、そして。

 睦月を傷付けた。憶測でしかないが、そうとしか思えなかった。苦しくて苦しくてたまらない。思わず自分を責めてしまう。というか、責める気持ちが止まらない。

 それくらい、木乃香はショックを受けている――はずなのに。

「や、八奈見先輩って……美人さん、ですよね」

 自然と溢れ出てしまった言葉は、ただの誤魔化しでしかなかった。今まで男性だと勘違いしていた癖に何を言っているのだと思う。この期に及んで誤魔化すなんて、私は最低だ。そう、木乃香は自分を責め続ける。

「え……? そ、そうかな。そんなの初めて言われたよ」

 睦月は不意を突かれたように瞳を丸々とさせ、頬を赤らめた。

 胸がちくりと痛む。もう、どうしたら良いのかわからなくなってしまった。頭がぐるぐると回って、自分でも驚くくらいにネガティブな気持ちが駆け巡る。

 一つだけわかることといえば、逃げることだけはしちゃ駄目だということだった。

「八奈見先輩、私……。八奈見先輩のこと、もっと知りたいんです」

 馬鹿正直な言葉が零れ落ちる。本当に馬鹿すぎて、乾いた笑いを漏らしたくなるくらいだ。木乃香はずっと自分のことを馬鹿だ馬鹿だと思っている。でもそれは決して自分を卑下して訳ではなく、むしろ自分の長所だと思っていた。明るくて、ポジティブで、馬鹿みたいに我が道を突き進む。それが木乃香のモットーだったはずなのに。

 こんなにも、馬鹿という言葉が嫌いになるのは初めてのことだった。

「……椎村さん」

 なのに睦月はますます嬉しそうな表情になっている。

 心なしか、瞳が潤んでいるような気がした。自分に対してそんな顔しなくて良いのに、なんて思わず木乃香は思ってしまう。

「その言葉に甘えても良いかな……?」

「へっ?」

 あまりにも想定外の言葉が飛び出てくるものだから、木乃香は当然のように素っ頓狂な声を上げてしまった。きっと、アホみたいに口が開いてしまっていることだろう。睦月は弱々しい笑みを漏らし、言葉を続けた。

「私ってこんな見た目だからさ。何て言うか……同性から、一歩引かれた目で見られちゃうんだよね。だから、椎村さんに知りたいって言ってもらえて、嬉しかったんだ」

 嬉しい。その言葉に嘘偽りはないのだろう。最初は弱々しかった睦月の笑顔に温かみが増していくのがわかった。今の木乃香には眩しくて仕方がなくて、嬉しいという言葉を素直に受け取ることができない。

 やっぱり、「私なんかにそんなこと言っちゃ駄目です」という気持ちが止まらなかった。でも、その言葉を口にすることはできない。むしろ、してはいけないとまで思ってしまう。どうやら睦月は一気に心を開いてくれたようで、ぽつりぽつりと本音を零してくれていた。木乃香には口を挟むことなどできず、ただ黙って見つめてしまう。

 木乃香にとって睦月は、ずっと遠くから見ていて、ただの憧れの存在だった。

「実は私、恋愛に興味がないんだ」

 ――でも、睦月だって一人の悩める女子高生なのだと思い知る。

 恋愛に興味がないのは少し前の木乃香と同じだ……なんて、簡単に言える訳がなかった。

 睦月には、同性の友達がいないという。友達自体がいない訳ではなく、幼馴染の男子やクラスメイトの男子、そしてバスケ部の男子と仲が良いらしい。一歩引かれた目で見られてしまう女子よりも、男子の方が話しやすいのだと睦月は乾いた笑みを零した。

「……こんな状況で言ったら、勘違いさせるかも知れないんだけど」

 一瞬だけ木乃香の表情を窺ってから、睦月は話を続ける。

「ずっと悩んでいたんだ。私が同性と親密になれないのは、その……。私が、百合なのかも知れない、とか……。そんなことまで考えてしまって」

 力のない笑みとともに放たれた言葉が、木乃香の心にぐさりと突き刺さる。しかし、睦月は何を勘違いしてか優しく微笑んでみせた。

「でも、違ったんだよ。私はただ単に自分から声がかけられなかっただけだった。今、椎村さんに知りたいって言われて、純粋に嬉しい気持ちでいっぱいになったんだ」

 嬉しそうに微笑む睦月の顔を、木乃香はもう見ていられなかった。罪悪感以上に溢れる気持ちは、このままでは駄目だという強い気持ちだった。

 ――この人に嘘は吐きたくない。

 今までずっと後悔ばかりに包まれていた。今も後悔は止まらないが、だからと言ってもう駄目だと投げ出してはいけない。もうこれ以上、後悔を続けたくはないのだ。

「八奈見先輩」

「……あっ、ご、ごめん。私ばっかり喋っちゃって」

「そうじゃないんです。ちょっと待っててください」

 言い放ち、木乃香は閉ざされた扉へ向かう。リグレッ娘が扉の奥にいることを信じて、木乃香はリグレッ娘に声をかけようとした。

 リグレッ娘のことも含めて、全部睦月に打ち明けたかったのだ。

 しかし、

「リグゥ……っ」

 驚きのあまり、変な声を発してしまう。でもこれは仕方ないのだ。

 突然ガチャリと鍵が開く音がしたと思ったら、勢い良く扉が開く。リグレッ娘は今にも感情が爆発しそうになる程、潤んだ瞳をこちらに向けていた。

 目が合った瞬間、木乃香はすべてを察した。リグレッ娘は一度後悔した姿であっても、結局のところはただの木乃香だ。今の睦月の話に聞き耳を立てていたのなら、同じ感情になるのは当たり前のことだ。

 木乃香はリグレッ娘に声をかけなきゃ、と必死だった。勢い余ってリグレッ娘とぶつかった――と思ったのだが、ぶつかったような感覚はない。

「……っ!」

 その代わりに頭を駆け巡るのは、リグレッ娘だった時の記憶だった。


 体育倉庫で睦月と二人きりになり、「今しかない!」と告白する木乃香の姿。

 長い沈黙のあと、睦月に「実は私、女なんだ。だからごめん。ごめん……なさい」と謝られ、ショックを受ける木乃香の姿。

 家に帰ってもショックは治まらず、翌日も髪を結ばずコンタクトも入れずに、元気がないまま登校する木乃香の姿。

 せめてちゃんと謝ろうと心に決めて部活に顔を出すと、別の先輩から「睦月は今日、学校休んでるんだよ」と伝えられてますます傷付く木乃香の姿。

 後悔が止まらず、無意識に走り出して――そして、今の木乃香と遭遇する。その時のリグレッ娘は、ただ睦月を傷付けさえしなければそれで良かった。でも、冷静になって考えると「睦月を傷付けてしまった」という事実を消すのは本当に正しい行動だったのかと思い至ってしまう。木乃香と同じようにリグレッ娘も頭がぐちゃぐちゃになりつつも、足は体育倉庫へ向かっていた。

 やっぱりすべてを言わなきゃ駄目だ。

 リグレッ娘は決意して体育倉庫の中に入ろうとした。でも、睦月に嫌われたらどうしようという気持ちが湧き出てしまい、逃げるように扉を閉め、鍵までかけてしまう。

 結局、後悔しようが何だろうがリグレッ娘はただの木乃香で、肝心なところで動けない自分が心の底から馬鹿だと思った。

 でも、そんなリグレッ娘も睦月の本音を知ってしまったのだ。扉の奥から聞こえてくる睦月の声に、リグレッ娘の心はぐわんぐわんに揺さぶられた。

 だからもう、後悔はしない。

 嫌われたって構わないから、隠しごとだけはしたくないと思った。

「い、今……椎村さんが二人、いた……ような」

 睦月はただただ目の前の光景に驚いていた。そりゃあそうだろう。髪型と眼鏡の有無以外はまったく容姿が一緒の人物が現れたと思ったら、木乃香に触れると一体化するように消えてしまったのだから。自分でもどこからが夢でどこまでが現実なのかよくわかっていない。きっと、考えれば考える程に摩訶不思議な体験をしてしまったのだと実感するのだろう。

 でも、今はそんなことどうでも良かった。

「八奈見先輩。そのことも含めて、お話ししたいことがあるんです。聞いてくれますか?」

 自分でも驚くくらいに冷静な声が零れる。

 もう迷うことなんてできない。睦月に嘘を吐き続ける日々に比べたら、睦月に嫌われる未来の方が数倍マシだと思った。

「……うん、わかったよ」

 木乃香の表情を見て何かを察したのか、睦月は真面目な顔で頷く。

 小さく息を吸い、木乃香はじっと睦月を見つめる。早くも「ごめんなさい」という言葉が漏れそうになったが、何とか心の中だけで留めた。

 やがて、すべての覚悟を決めた木乃香は静かに口を開く――。


 リグレッ娘の時に睦月に告白してしまったこと。睦月を傷付け、翌日の学校を休ませてしまったこと。そんな自分にショックを受けて、やり直したいと願って、本当にやり直してしまったこと。今、睦月の本音を聞いてやり直しちゃいけなかったと気付いたこと。リグレッ娘の説明から一月の君と密かに呼んでいたことまで、一つ残らず全部話した。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 どれだけ謝っても気持ちが収まらない。気持ちが沈むとともに、いつの間にか視線までもが沈んでいた。睦月から逃げないと心に決めていたのに、結局俯いてしまっていたなんて。最後まで自分は馬鹿なんだな、と心の中で自嘲する。

「椎村さん」

 睦月に名前を呼ばれ、木乃香はようやくはっとした。

 声が震えている。一瞬怒っているのかと思った。でも違う。違うと願ってしまった。この期に及んで、どうして……なんて、誤魔化している場合ではなかった。

「や、八奈見先輩っ? あ、あの……本当にごめんなさいっ、私……」

 顔を上げると、睦月の両目は赤く腫れていて、音もなく雫が頬を伝っていた。まさか泣かれてしまうとは思っていなくて、木乃香は想像以上に取り乱してしまう。

 激怒されて、嫌われる。その覚悟はできていたはずなのに。泣かれてしまったら自分の感情はどこへ持っていけば良いのかがわからなくなる。

 とにかく謝ろう、謝りまくろうと思って口を動かそうとする。しかし、睦月に首を横に振られてしまった。

「違うんだよ、椎村さん。私は……嬉しいんだ」

「……え?」

 意味がわからなくて、木乃香は唖然としてしまう。そんな木乃香を見て、睦月は笑った。目元を拭いながら、優しく微笑みかける。

「だって、そんなにも悩んで、迷って、苦しんで……私のことを考えてくれていたってことでしょ?」

「それは……私が、八奈見先輩のことを傷付けちゃって……だから……っ」

「それでも」

 混乱する木乃香の言葉を遮るように、睦月は言う。言い放ってくれる。戸惑う木乃香も、睦月の瞳に釘付けだった。

 きっと、この時点で覚悟なんて崩れ落ちてしまっていたのかも知れない。

「椎村さんは私を助けようとしてくれた! 誰かにそんな風に思われるのは初めてだから……凄く、嬉しいんだよ。だからありがとう。椎村さん」

 ――この時、木乃香はようやく気付いた。

 リグレッ娘になった時からずっと、木乃香は睦月を傷付けないことに必死だった。今だって自分が傷付こうが嫌われようがどうでも良いと思っていた。

 眩しい笑顔を見つめる度に、木乃香の心は崩れていく。

 本当は辛かった。睦月を傷付けてしまったことにショックを受けて、悩んだり苦しんだり、自分を責めたりもして、ずっと睦月を助けることだけを考えていた。

 だから気付かなかったのだ。自分の心がこんなにも疲れて、ボロボロになっているということに。全然、まったく、気付けなかった。

「……わかったよ、椎村さん」

 睦月は笑っている。まるで「やれやれ」とでも言いたいような笑みを浮かべながら、木乃香の頭に手を乗せた。思っていたよりも小さな手なのに、大きな温かさに包まれる。

「私、椎村さんに怒ってるよ」

「……はい、わかってます」

「ホント、許せないよ。リグレッ娘は可愛い響きなのに、私は一月の君なんて」

「ふぇ……?」

 予想外すぎる睦月の言葉に、木乃香は呆気に取られてしまう。でも睦月は本気のようで、愛らしく頬を膨らませていた。

「完全に距離感のある呼び方だし、結局はただの憧れだったんだなーって」

「い、いやっ、そんなことはなくて! 八奈見先輩は私にとって眩しい存在だったんです! でも、今は違くてっ」

 睦月にジト目で見つめられてしまい、木乃香は両手をバタバタさせて全力で否定する。

 本当に、今の気持ちは違うのだ。リグレッ娘の時に勢いで告白したのが信じられないくらい、上っ面な気持ちなんてどこかにいってしまった。

「ごめんごめん、冗談だよ。椎村さんがあまりにも苦しそうな顔をしていたから、つい……ね」

 自分を受け入れてくれただけでなく、優しく包み込んでくれる。冗談を言っておどける姿もまた、木乃香にとっては救いだった。

「八奈見先輩、私……」

 小首を傾げしてみせる睦月を、木乃香はまじまじと見つめる。

 もっと、この人のことを知りたいと思った。知らないといけないじゃなくて、知りたいのだ。純粋な興味が木乃香の心を動かす。その言葉は、自然と口にすることができた。

「八奈見先輩のことが好きです! だから、こんな私ですが……友達になってください!」

 ただ単に友達になりたいだけなのに、頭を下げるなんておかしなことかも知れない。

 でも、睦月は馬鹿にすることなく受け入れてくれると信じられた。

「椎村さん、顔を上げて?」

 少しの沈黙のあと、睦月に声をかけられる。

「わかっているとは思うけど、私は決して強い人間じゃないよ。椎村さんを困らせてしまう程、弱い人間なんだ」

 ネガティブなことを言っているはずなのに、顔は綻んでいる。まるで、それでも木乃香が受け入れてくれるとわかっているような顔だった。

 そう思い合えることが,嬉しくてたまらない。

「……駄目ですか? 友達」

「ううん、なりたい。……よろしくお願いします、椎村さん」

 照れたように睦月が笑った。もしかしたら、木乃香も睦月と同じような表情をしているのだろう。それくらい、木乃香の心は嬉しい気持ちに溢れていた。



                                     了

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明日の私はリグレッ娘 傘木咲華 @kasakki_

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