まず惹かれたのは、復讐を主題とした物語の多くが理屈、理論を解き、主人公の復讐を「当然のこと」あるいは「仕方のないこと」にしてしまいがちな中、本作はそういった論理武装が排除された物語である事でした。
家族の情、絆をそんなものは知らんとばかりに突っ走る主役、突っ走らせる仇役、それだけでなく登場人物の多くがある種、自分勝手に生きています。
その生き方が、これでもかと生の感情を発露させており、これにはどんな理屈、理論を並べても女々しい言い訳にならざるを得ないと感じさせられます。
さりとて難しい、また暗い話の連続かといえばそうではなく、所々、明るい、または馬鹿馬鹿しいと感じる日常があり、それが登場人物が浮き世離れした存在ではない、現実に生きていると感じさせるアクセントでした。
他の誰かが書けるはずもない、作者ならではと思わされる復讐譚、新しい形のダークファンタジーと思いました。
物語の始まりが凄い。
小説で大事な要素とは早い段階でいかに興味を持ってもらえるか、と自分は考えているのだが、そういう点でこの小説は一文目で私の興味をさらっていった。
登場人物の心理描写が事細かに描かれている。感情移入がしやすい一方、誰に自分を重ねれば良いのか迷ってしまう。選択肢は二人……兄か弟か。それは読む人の自由なのかもしれない。
話の展開が奇抜、でも読みにくいわけではない。時間の流れに沿って物語が進行していく、というのが王道の書き方だと思うが、この小説は違う。ある程度横線を描いたら、また違う方向から線を引いていく。その線が上手い具合に絡み合っていくので、こんな小説の書き方もあるのか、と感心させられた。
ダークファンタジー……色で言えば『黒』。
この独特な世界観に皆さんも迷い込んでみてはいかがでしょうか?