エピローグ

 十二月になって急に冷えるようになった。家ではストーブを焚いているし、学校ではエアコンがガンガン効いている。

「遠藤さん」

 今日の化学の授業は二学期期末の試験返却だけで終わりそうだ。黒田先生が遠藤を呼ぶ。

「きゃああああ!」

 あんな大声を出したということは、相当酷い点数なのだろう。また赤点補習かな? よく飽きないな…。

「小野寺君」

 自分の番だ。今回の試験は割と難しかった。だがカンニングはせずに、コツコツと勉強し、自分の力で挑んだ。だからどんな点数でも文句はない。

「はい」

 解答用紙を受け取った。八十一点。悪くはない。寧ろいい方だ。

 席に戻ると、隣の席の熊谷が、

「また、点数がいいな。お前、一体どんな手を使ったんだ?」

 まだ懲りずに俺がカンニングしたと思ってやがる。

「俺だって、本気出せばこれくらい。余裕なんだよ!」

「くう。あの卵焼き、また食べたかったのに…」

「そう落ち込むなよ。お前の沈んでる顔は見たくねえ。今日は母さんに頼んで作ってきてもらったんだぜ? それやるよ」

「本当か!」

 立ち直るの早いな…。

 昼休みになり、弁当を開ける。宣言通り卵焼きは熊谷にあげる。その後、翔気は一人で屋上に行った。

 今日が寒いからか、それとも何もないからか、屋上にはやはり誰もいない。

「あれからもう、四か月か…」

 裁判の準備が長引いているせいか、伊藤由吉の判決の話はまだだが、死刑に決まっている。あんな奴、生かしておくのは絶対間違っている。

 空を見上げた。

「今日は曇りか」

 マリコが成仏した時の天気を覚えていない。あの時確かにこうして見上げたのだが、マリコのことしか見ていなかったためか、記憶にない。でも雨は降っていなかったことは覚えている。

 翔気は一人屋上で弁当を食べ、終えると寝転がった。

 学校にいる時はいつもここでマリコと話していた。だからマリコのことを感じられるのはここしかない。いつもここに来ては寝転がり、空を見上げる。あの雲の上には天国があって、そこにマリコがいたりするのかな?

 結局今日も寂しい思いに浸るだけだった。

「さて。戻るか」

 よっこいしょっと起き上がる。すると後ろから、聞き覚えのある声がする。

「待って下さい」

 この声は…マリコ!

 驚いて後ろを振り向くと、そこにはマリコがいた。隣には知らない顔の幽霊もいる。

「どうして…。成仏したんじゃなかったのか?」

 マリコに問いかける。

「それは…したんですが…。ちょっと、まあ」

 戻ってきてくれた! 翔気はそう思った。他のことは何も考えなかった。

「実は、こちらの幽霊は私の高校時代の友人で、キミエといいますが、彼女、私が死んでさまよっている間にひき逃げにあって死んでしまったそうで。三途の川の手前にいたので戻ってくることができたんです。彼女は犯人の顔、見ていないんです」

 マリコが隣の幽霊について説明する。

「んんん? 何が言いたいんだ…?」

「わ、私をひき殺した犯人、捜してください!」

 このパターンってどっかでなかったっけ? デジャヴ?

「キミエの話を聞いたら何だかかわいそうで…。私からもお願いします。捜してやってください!」

「ち、ちょっと待てよ。夏休みはアレで潰れたんだぞ? これから冬休みで、今度こそ遊ぼうって言う時に、かよ?」

「冬休みなんですか? 時間の流れはこっちは早いんですね。でも翔気君ならきっと、すぐ捜せますよ!」

 そういう問題じゃないって!

「あ。言うの忘れてましたが、私が戻ってきてしまったので、翔気君はまた、幽霊が見える状態になってますよ」

 そう言われて、翔気は周りを見回す。屋上によくいる幽霊が一体、いる。

「えっマジで?」

「はい」

 またあの生活に逆戻りかよ…。

「でも見つけてくれればすぐに、キミエと共に成仏しますから」

 今年は俺には、冬休みもないみたいだ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺には見える 杜都醍醐 @moritodaigo1994

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ