192.第30話 2部目
メイさんから少し離れた後ろの方を歩いて僕は付いていく。
道中、メイさんが僕の方へ振り向いて言った。
「テオはアルベロの何処まで歩いた事があるの?」
どれくらいアルベロの地理を知っているかの確認か。
「えっと……最初来た時は、西口関所から西側の商店街まで行って……そこからは貴族街にある神代邸までの道を歩いたくらいです」
レオンくんとエヴァンと一緒にアルベロへ来た時の事を思い返しながら、
何処に立ち寄ったかを脳内のアルベロの地図を辿った。
実際には皇城から西に位置する軍基地にも足を運んだが、そこまで正直に答える必要もない。
むしろ伏せておかなければ、軍基地に侵入した事がバレる恐れもある。
「そう。じゃあ、街の中心や東の方へは行った事ないのね?」
「はい。街の北西の辺りしか歩いた事ないです」
メイさんの授業が始まる前に、首都アルベロを中心としたアロウティ神国の地図は頭に入れていた。
その記憶からすると、首都アルベロは円を描いている太い川に沿うように、丸く石壁で囲われている。
街の出入り口は西東南の三箇所に分かれており、それぞれに関所が設置されている。
街の中央北側に皇城がそびえ建っているためか、北側の出入り口は無い。
尤も、首都アルベロの最寄りの街や村は、西東南の方向にあるため、それほどの不便はないらしい。
そして、太い川を利用した船での移動がこの街にはある。
太い川から人工的に伸ばした移動用の用水路が、街の主要部分に繋がるように張り巡らされており、
遠い場所への移動には馬車よりも移動船の利用の方が多いようだ。
尤も、僕達が最初にアルベロへ来た時は、船を利用するなどと言った考えは全く出なかった。
それもそのはず。移動した区間が、街の西や北西と言った限られた場所だったため、馬車で事足りたからである。
何より馬車を乗せて船で移動する事は流石に叶わないため、必然的にそうならざるを得なかったのだ。
僕の返事を聞いたメイさんは、にっこりと笑った。
「それじゃあ、この街の名物を見に行かないとね?」
「名物。ですか?」
「えぇ。とりあえず、移動船に乗って中心街に行きましょ」
そう言われ、僕はメイさんの後をついていった。
貴族街の近くに設けられた船乗り場に到着し、僕たちは船で街の中心へ向かう。
移動用水路の流れは実に緩やかで、上り下りの船が行き交えるほどの川幅がある。
移動船は貴族も平民も関係なく利用するため、基本的には船の良し悪しは変わらないらしい。
だが、僕達が貴族街の船乗り場で乗ったからか、何度かすれ違ったどの船とは少し船の様相が違って見える。
やはり、こういう所にも多少の優劣は生まれているのだろうな。
まぁ、その代わり高い乗船代を払っているなら、その意味はあるだろう。
「――……船に乗るのは初めて?」
船からの街の景色をぼんやり眺めながら、そんな事を考えていたらメイさんに問われた。
「はい。水の上で、涼しく気持ちが良いです」
船に日除けの屋根が設置されている上、水の真上を進んでいるお陰でかなり涼しい。
こうも涼しいと、夏の移動は馬車よりも船の方が盛んなのだろうなぁ。
「船酔いはしてないみたいで良かった。移動に便利だから慣れておいて損はないと思うの」
そう言いながらメイさんは、柔らかい風になびいた髪を耳にかけながら微笑んだ。
実に絵になる姿を見て、僕は妙に感心してしまった。
やはり育ちが良いと、ちょっとした仕草でも気品が現れるものだなぁ。
「そうですね。お気遣いありがとうございます」
笑って応えると、メイさんはホッとしたように微笑んだ。
そうして船で移動して10分ほどが経った頃だろうか。
人の声が行き交うのが頭上の土地から聞こえてきた。
中心街に到着したようだ。
船着場に到着し、僕が先に船から降りてメイさんの方へ手を差し出す。
僕の方が年下と言えど、これくらいはせねば。
すると、メイさんは僕の手と僕の顔を交互に見て意外そうな顔をする。
少しして、メイさんは僕の手に自分の手を置いた。
「ありがとう」
控えめに笑いながら言うメイさんの手を支えながら、僕はメイさんの足元を注視して降りるのを待った。
無事に船着場から出た僕達は、いよいよ中心街に足を踏み入れた。
多くの人々が行き交っており、周りは商店で溢れかえっており、
目と鼻の先にかなりの巨木が立っているのが見える。
「商店を見て回るのも良いけれど、まずはこの先の噴水広場へ行きましょ」
そう言われ僕たちは巨木が見えた方向へ足を運んだ。
噴水広場というだけあって、巨木を取り囲むようにして大きい噴水がいくつか設置されていた。
見事に水を噴き上げており、この場所もかなり涼しく感じられる。
噴水の周りには、移動式の商店がいくつも並んでおり、ちょっとしたお祭り状態になっていた。
この場所は商売人達の間で競争率が高そうだな。
「テオ!こっちよ!」
雑踏に負けないくらいの声でメイさんが僕を呼ぶ。
メイさんの方へ急いで向かうと、僕を影が覆った。
それもそのはずだ。
目の前に悠然とそびえ立った巨木があるのだから。
「この御神木こそ、アルベロ名物よ。とても立派でしょう?」
自慢げなメイさんに紹介された木を見上げると、何処までも高くて思わず口が空いてしまった。
ここまで巨木になるにはかなりの年月を刻んでいるはずだ。
樹齢も相当なもののはず。これは確かに名物たり得るな。
「これだけの巨木はアロウティ中を探しても無いはず!
女神ティアナ様が、特にこの地に祝福を与え続けて下さっている証拠よ!」
そう語るメイさんの目は、情熱で燃え盛っている。
木が好きなのだろうか?
だとすれば、是非ともウェルスに足を運んで貰いたいな。
「本当に……。凄いですね……」
感嘆しながら僕は御神木に近付いて、手をかざした。
その瞬間。
『助けて……』
短く。確かに。
その声は聞こえた。
「――……え?」
メイさんが言ったのかと思い、僕は慌てて振り返ってメイさんの様子を確かめる。
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【一時的復活】101歳のおじいちゃんが異世界転生する話 唯一 @sieyuiitu
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