191.第30話 1部目
首都アルベロの来てから初めてのまともな休日の朝。
朝食を取っている時に、メイさんから提案を受けた。
「――……街観光……ですか?」
「えぇ。こちらに来てから、まともに街を見ていないんでしょ?見るだけで勉強になるものも沢山あるし、どうかなぁって思うんだけど……」
意外すぎるメイさんからの誘いを聞き、僕は目を丸くした。
まさか休日まで一緒に過ごす事を良しとするなんて、なんの心境の変化だろうか?
てっきり、まだ認められていないと思っていたのだが……。
僕がメイさんの心境を考えていると、返事に迷っている様に見られたのか、メイさんが少し慌てた様子で言った。
「あっ!休日まで勉強なんて嫌よねっ?ごめんね……。あ、でもね!やっぱり、街観光は楽しいと思うから、一緒に……」
僕に気を遣いながら言う様子を見て、初めてメイさんが年相応の女の子に見えた。
確か、メイさんは学園の高等部3年生。
初等部、中等部、高等部共に3年間の修学時期が設けられているため、
現在メイさんは14歳……のはずだ。
休日だから少し気分が緩んでいる……のだろうか?
それにしては必死にも見えるのだが……。
うーん……と考えていると、一緒に食事を取っていたハリーさんから刺さる様な視線を感じた。
……これは……どっちだ?
メイさんと出かける事になるかもしれないのを危惧されているのか?
それとも、メイさんからの誘いを断るつもりか?と言った視線だろうか……?
どちらか計りかねたが、僕は誘いを受ける事にした。
「案内して貰えるなんて光栄です。是非、よろしくお願いします」
誘いを受ける事を笑って答えると、メイさんは心底安心した様に息を吐いた。
ハリーさんはと言うと、素知らぬ顔で飲み物を飲んでいる。
恐らく、ハリーさんの視線の意味は後者だったのだろうな。
はてさて。
願わくば、今日でメイさんと少しでも打ち解けられると良いんだが……。
下手な行動は控えたい所だ。
1時間後。
朝食を取り終わり、出かける準備を済ませ僕は玄関先に出た。
メイさんの到着を待っている間、外の空気を一身に受け止める。
じりじりと照りつく太陽の光。吹き付ける風も暑い。
現在は5月下旬。アルベロに来てから2週間経っている。
首都アルベロを囲む石壁の外が完全に砂漠化してる影響か、ウェルスで過ごして来た5月よりもずっと暑く感じる。
湿度は無くただただ暑い。日陰に入れば、ある程度は暑さを凌げそうだ。
「はぁ……麦わら帽子がせめての救いか……」
アルベロへ出発する時にお袋さんから持たされた麦わら帽子を被り、太陽を見上げた。
この太陽の下を歩いて回るのは、なかなか骨が折れそうだな。
体調管理はしっかりせねば……。
そんな事を思っていると。
「テオ。お待たせ」
「メイさん」
涼しげな薄青のワンピースに、同系色のツバの広い帽子を被ったメイさんが屋敷から出て来た。
手には小さいカバンを携えている。
貴族のお嬢様としては、随分と軽装に見える。
てっきり、もっと暑苦しい洋装を着るのかと思っていたが。
まぁ、何はともあれ。
「涼しげで良いですね。とても似合ってます」
僕がそう言うと、メイさんは目を見張って驚く。
少しして。
「……ありがとう」
反応に困った様に微笑みながら答えてくれた。
やはり、何処かまだ距離感がありそうだなぁ。
「さ、早速行きましょ?」
「はい」
少しぎこちなく言いながらメイさんは先導して、神代邸の敷地を出ていく。
僕もメイさんの後を追って、邸を出て首都アルベロの観光へ向かった。
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