第2話:転がり続ける浮き輪

私が生まれ育ったのは、広島県の瀬戸内海沿いにある小さな町でした。小さな遊園地やプールはありましたが、夏の遊び場と言えばやはり海辺が多かったように思います。小学生中高学年の頃は友達同士で釣りをしたり、変わった生き物は無いかと探し回ったりする日々でした。ウミウシを初めて発見した時などは、地球外生命体では無いかと騒いだものです。

特に夏場のイベントは海水浴でした。瀬戸内海に浮かぶ小さな島まで、フェリーに乗って朝早くから海水浴場に行き、夕方近くまで遊ぶことが一番の楽しみでした。

幼稚園児の頃は、母親と町内会の父兄に連れられて海水浴に行きました。そこで食べるうどんやかき氷は格別です。

今回の話は、その幼稚園児の頃の思い出です。夏休みのある日、やはり母親と町内会の面々と一緒に、バスに乗って海水浴場に行きました。同い年くらいの子供はいなかったので、一人で遊んでいました。母親は町内会の知り合いと、海の家で談笑しており、時折こちらを見ています。最初は母親の目の届く範囲で遊んでいましたが、慣れてくると少しずつ行動範囲を広げていきます。浮き輪をつけていたので、足の届かない場所まで泳いで行きました。すると突然水温が下がった感触を得て、怖くなって慌てて浜辺まで引き返しました。今思えば、無防備なことをやっていたものです。

浜辺で一人で遊ぶことにしました。カニを見つけたり、浅瀬で小魚を捕まえたりしました。ふとした拍子で、浮き輪を転がしました。ほぼ無風であったにも関わらず、その浮き輪は転がり続けました。完璧に倒れかけているのに、何故か立ち上がり再び転がります。倒れても起き上がり、再び転がり続けます。私は段々と怖くなり、その浮き輪を掴んで動きを止めてしまいました。その後もう一度転がしましたが、直ぐに倒れてしまいます。何度試しても同じ結果でした。その浮き輪は私と遊んでくれていたのでしょうか。因みに転がり続ける浮き輪を止めたときは、何かから奪いとったかのような手の感触でした。

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素人の不思議な記憶 伊豆長岡 辻堂 @guiball422

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