第1話 未来世界とファイブ
地球人は忘却している。
絆は失われ、世界との繋がりが絶たれたこと。
この宇宙は絶望に支配されていたこと。
神はこの世界に光あれと言ったが、それは希望を意味しているのではなかったこと。
天の川は答えてはくれない。
女神ヘラが赤子のヘラクレスを払いのけた時に流れた母乳、織姫と彦星を離別させてしまう
橋を架けてくれるカササギはその翼を失い、もう誰も架け橋になれはしない。
絶望の未来に光が広がる。
アレハ、ハメツノヒカリダ
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
朝だ、僕は目を覚ました。なぜか、手がまっすぐ上にある。なんだか怖い夢でも見てた気がしたが、気のせいだろう。
突然ですが、僕の名前はファイブ。
もうすぐ学校に行く年になります。
ある日、前世の記憶らしきものを思い出しました。
その記憶の中の景色と今生きている世界には大きな違いがありますが、その前世の時に見たアニメ、漫画、映画がこの世界には古き良き娯楽として存在しているので、この世界は前世の未来にあたるのだと考えるしかないようです。
今住んでいる星は地球ではありません。この星は天球と呼ばれています。
育児用ドールのアルファが教えてくれた話によるとはるか昔、地球は人の住めない惑星になったのでこの星にご先祖様が移住してきたそうです。
この星には先住民として今の僕たちが獣人と呼んでいる宇宙人が住んでいたのですが、彼らは人類と共存せずに排除しようと攻撃をしかけてきたので、戦争になり、勝利したそうです。
それから人類は寛大にも彼らを二級市民として受け入れたそうです。今、彼らは人類があまりしたくないような仕事を任せられているらしいです。
この天球が地球とは違う大きなポイントは海がなく、すべての陸が空に浮かんでいること。海が無いからといって水が無いわけではなく、水が空中を川のように流れている場所がいくつかあって、そこから水を取ることで生活用水を確保しているんです。
陸の下を望遠鏡で見てみると暗闇が広がっている。これを衛星から見ると黒い球体に見え、その球体から特殊な重力場が発生してこのような状態になっているんだとか。
浮かんでいる陸のことは空島と呼んでいて、大陸と呼べるほどの大きさの陸は存在しない。昔はあったらしいんだけど戦争の影響で分断されたらしい。
今、僕がいる空島は
僕がこの世界で生まれたとき、そばには育児用チューンドールであるアルファがいて、彼女は生まれた時から僕の世話をしていました。
前世の記憶にある初期型というか試作機のチューンドールと比べると、ものすっごく違います。
彼女は八等身で水色の髪の毛に深い青色の瞳をしていて、白いワンピースの下の肌は雪のように白く、とてもきれいな人間の女性に見えます。
初期のチューンドールには髪がなく、愛嬌はありましたが、人の形をしているだけで人間には見えませんでした。現在のチューンドールは人口の皮膚と髪の毛、眼球、爪まで再現して人間とそっくり。
この世界のチューンドールはみんな美人の女性に見え、美しすぎるからこそ逆に人間と区別することができます。
「ファイブ!、ご飯ができましたよ!」と大声で僕を呼ぶ声がする。彼女がアルファだ。彼女は声も美しい。例えるなら転がした鈴の音がするようなイメージだ。
「今日はあなたの好きな唐揚げですよ」
「やったー」と子供らしくはしゃぐ。
僕はこの世界ではまだ子供なのだ。記憶の中の宇宙人が現れた時には大人になっていたようだがあまりはっきりしない。ともかく僕はもう前世から見て未来世界の人間なのだ。前世がどうだろうと今の僕には関係ない。将来、幸せに生きるための方法をこれから学校に行きながら考えようか。そう思いながら唐揚げにかぶりつき、アルファに口についた食べかすを拭いてもらうのだった。
それから、少し月日が流れ学園に通うようになった。
学校は単位制で将来なりたい職業に合わせて講義を受ける大学に近い体制となっている。この世界で人間がなれる職業は、作家や芸術家、音楽分野などのクリエイティブな仕事やメカニック、警察のような公務員、そしてスポーツ選手などだった。
前世で一般的に子供たちが将来の夢として挙げないような職業は全てチューンドールか獣人の仕事として扱われている。
今、特に人気のある職業はスポーツにカテゴライズされているSFDという競技の
SFDとはショット&ファイティングドールの略で簡単に説明すると、人間が指揮官となって戦闘用チューンドールやAI兵器を戦わせる競技なんだ。
この競技はいくつも大会が開かれており、公式戦にランク制が採用されていたり、明らかに他のスポーツカテゴリーよりも力が入れられている。
最近ではココロ・シンクロシステムという人間の意識をチューンドールの意識と一体化させる技術が開発されており、その結果、指揮をとっているだけでは生み出せない、今までになかった戦術が生まれ始めているようだ。そんなすばらしい試合を見て興奮を感じた多くの学生がSFD選手になりたいと殺到している。僕もその中の一人だったりする。
最近では、デスティニーカップという大会に優勝して鮮烈なデビューを果たして、公式戦では連戦連勝、負けなしで自分のことをキングと自称している選手が特に人気がある。戦い方がかっこよくてファンサービスも良くてこの世界では数少ない女子からの人気もある。
なんで女子の数が少ないって?それは、学校に来て初めて知ったんだけど、それは地球からこの星に移住することになった理由と関係があるんだ。
1000年くらい前(おそらく僕の前世とそんなに変わらないくらいの時代)に地球は人の住めない星になってしまった。
地球環境の悪化が原因で地球に住む生き物の生殖機能に影響が出て人間は子供が作れなくなり、異常な奇形生物が人々の生活を脅かすことになった結果、別の惑星に移住することになった。
この地球環境の悪化は完全に人間のせいというわけじゃなくて宇宙から降り注いだ何らかの物質が関わっていたんじゃないのかという説があるんだけどはっきりしてないみたい。
そんなわけで、現在では汚染されていない遺伝子を保管している遺伝子バンクから取り寄せた遺伝子を組み合わせることによって新しい子供を人口子宮ラボで作るシステムになっているんだ。
結果として、結婚というシステムはなくなり男女を半々にする必要がなくなった。
なんで男性が多くなっているのかというと、チューンドールの外見が基本的に女性(男性型のボディも一応存在する)なので、男女半々にすると客観的に社会を見て女性の割合が多く映るようになるので男性心理的に女性に対して気を使い過ぎる社会になる可能性が高くなる。
それを現在のバランスにすると男女が同数いるように感じて、性差による心理的効果を軽減できるかららしい。
学校には必ず部活動に入らなければならないというルールがあるので、僕は格闘術部に入った。
ちょっと背が低くて痩せている僕が格闘技は似合わないって?この部活動で戦い方を学べばココロ・シンクロシステムによる戦いに生かせるのではと考えての判断だよ。
僕は格闘術部の活動が行われる訓練ルームに入り、いつも通りの練習を行った。
「おいチビ野郎、俺と模擬戦やろうぜ」と突然、声をかけてきたのは同じ部員のギュウキという男だった。彼は筋肉隆々のガタイのいい大男で、それに対して僕はクラスの平均よりも背の低い男だった。
「僕はチビ野郎じゃなくてファイブって名前が・・」
「チビ野郎はチビ野郎だろ?さっさと準備しろよ それとも俺が怖いか?」
明らかに挑発である。彼はおそらく雑魚に見える僕をぼっこぼこにして勉強のストレスを発散させつつ己の強さを周囲にアピールしたいのだろう。
「・・受けて立つよ」
「よし!じゃあフィールドで先に待っとくぞ」
ギュウキは訓練用の部屋から模擬戦用のフィールドに向かった。僕は人間専用のアーマーを装着してから同じフィールドに向かった。アーマーは一見するとヘルメットにパイロットスーツを着ているだけに見えるが、人間が出せる程度の破壊力を無効化できる特別な素材で作られている。このアーマーは受けたダメージを数値化する機能が備わっていて、模擬戦用フィールドに設定してある特大モニターにその数値が表示される仕様になっている。この模擬戦のルールではどちらが先に4000ダメージ以上を与えるかを競うことになる。
それぞれが所定の位置に立って一礼する。そして双方が一礼したことを確認したら、AIコンピュータ(モニターと一体型)が試合開始のゴング音を鳴らす。
「先手は俺がもらうぜ!」と先に仕掛けてきたのはギュウキだ。
圧倒的体格差から放たれる右ストレートだ。これにまともに当たれば、一発で1000ダメージは超えるだろう。僕は軽くかわす。ギュウキは空振りにより態勢が崩れるがすぐに立て直す。
つけいる隙は与えないぜとでも言うように。今度は左回し蹴りで真横から来るが僕は頭を下げて回避し、下段蹴りで相手の一本だけ立っている足を払う。
「うわっ!」と言って倒れる巨体。が、ここでマウントをとっても羽交い絞めを狙われるだけなので、相手が立ち上がるまで待つ。通常、マウントは圧倒的に有利な体勢なのだが、パワーで勝てない相手ではひっくり返されて逆転されかねない。
「お前、思ったよりやるじゃねーか」
この後も攻防は続くが割愛しよう。結果でいうなら僕は勝った。一切攻撃を受けずにだ。なぜ僕にこんな芸当が出来たのかというと、僕にはある特殊能力があった。
僕は相手の行動を先読みできる。まるでガンダムのニュータイプみたいに。しかし、この能力はニュータイプにありがちな時空を超えた非言語的コミュニケーション能力はないただの予知能力に過ぎないので、僕はこの能力のことをハイ・センスと呼んでいる。
僕は大分前からこの能力と格闘術部による経験があればSFDという競技でトップクラスのプロになれるのではないかという妄想をよくしていた。
結局、この後ギュウキとはなんだかんだあって友達になった。
自分よりも体格に圧倒的に劣る僕に模擬戦を仕掛けたのは僕が考えていたストレス発散のためではなく、格闘術部に入るのは警察志願者が大半を占めるので、その体格じゃ荒事は向いてないだろうということを教えてやろうというある種のおせっかいからだそうだ。
彼は、同じ育児用ドール(彼はなぜか母上と古風に呼んでいる)に育てられた先輩が警察官にいて自分も警察官になるべく彼から色々現場のことを教えて貰っているらしい。
僕がSFD選手としての技術に役立てるためだと言ったら謝ってくれた。口は悪いし不器用だが悪い奴ではないのだろう。その後、僕はギュウキと共に格闘術を磨いていくことになった。
*
「まさか、格闘術の部活に入るなんて・・・」
育児用ドールのアルファがコンピュータから学園内の情報を知る。すべての育児用ドール・・・もとい上級ドールは学園内のすべての情報を知る権利があって、監視用モニターからの映像をチェックし、自分が育てている子供の様子を見ることができる。
プルルルル
着信音が耳から鳴る。今時のチューンドールは携帯機能を耳に内蔵しているのだ。この着信は妹のベータからだ。特に意味はないがなんとなく手を耳に当てる。
「はい、もしもし」
「もしもし、姉さん育児休暇は満喫できていますか」
「ええ、とても。そちらの惑星代表代理業は順調かしら?」
「忙しくて、自分の子供とろくに連絡する時間が取れなくて困っています」
「あら、それじゃあ私にも連絡する時間は無いのじゃなくて」
「緊急要請です。惑星間抗争でこちらも人を出さなきゃいけなくなって」
「はあ・・、そんなのどちらも対星兵器で一撃死させればいいじゃない」
「それ私らの切り札だから! それ使えたら最上級ドールの一人だけで済むから!」
「仕方ないわね」
電話を切る。そして、自分と見た目が同じだけの影武者ドールにしばらくファイブの世話を任せるとする。
「アーマー、白銀、瞬着」
対星兵器が装備されてないほうの白銀のアーマーを身にまとう。そして、発進。飛行ユニットが空を切り、宇宙に到達することで重力を振り切り加速する。
目指すは会議用宇宙ステーション・ジェネシスだ。
次回予告
???「主人公ファイブ君による長々とした世界観説明編でした。
大丈夫?、頭こんがらがってなーい?
ファイブ君は予知能力があるから僕Tueeeができると思っているようだけど
そんな簡単に人生うまくいくかなー?
さて次回は!
いわゆる、アカデミア編だー!」
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