第4話 相棒とアテナ

 季節は過ぎていく。時は止まることなく動き続けるから。今日、学園島の卒業式が行われた。地球産の桜が綺麗に咲き誇る。その落ちていく花びらの一つ一つが一つの終わりと始まりを告げる。


 僕はこの日、法律上の大人になったのだ。隣にいるのは厳つい大男のギュウキと細見だが背が高いホンジョウ。ホンジョウは最初は嫌な奴かと思ったけど、実は彼もSFDの選手プレイヤーを目指していて、憧れの選手プレイヤーが同じだったので意気投合し、最終的には三人でよくつるむようになっていた。


 卒業式で全員集合の記念写真、三人で撮った記念写真、アルファと二人で撮った個人写真。それらの後、引率のチューンドールがバスで卒業生をこの島の港まで送る。その港に停留しているのは首都セントラル行きの空中艦。それに乗って僕たちは成人としての第一歩を行いに首都に行く。


 最初はチューンドール販売店に行き、成人に無料で配布される一体目のチューンドールを入手する。次にそのチューンドールを連れて役所に行く。事前にアルファから貰ったUSBデータから手続きをパートナーのチューンドールに行わせる。手続き完了後、SFDの場合は少し違うが基本的に職業案内所に行き、事前に伝えていた職業に必要な書類、道具がもらえ、配属先を教えてもらう。


 成人はみんなそうして社会に出ていくのだ。


「ファイブぅ。お前最初にどのアーマー買うか決めたか?」


「ホンジョウ君。さすがにそれは早いよ。まだ、どこに所属するか決まってないんだから」


 僕たちSFDの選手プレイヤー希望者はまず、試験を受け適正を見ることになる。それから、ドラフト制で三つの団体の一つに入団することになる。ドラフト制ってのはそれぞれの団体が指名して新人を獲得していく制度で、競合が発生した場合は普通は抽選などの方法が取られるが、SFDのことはSFDで決めるというルールのために、新人獲得のための団体交流試合が行われる。


 これがエンターテインメント性が重視されているSFDらしい光景だ。ちなみに団体にはそれぞれ別の企業のスポンサーが付いており、アーマーは公式戦ではその企業の製品を使わなくてはならないという縛りがある。


 その縛りを嫌って、フリーでやっていく人も中にはいる。その場合は企業の技術者のメンテナンスや修理の依頼に多額の料金が発生したりするので、フリーのメカニック頼りになり、実戦で整備不良が起こるリスクを背負わなくてはならない。


「俺はどの団体に所属した場合でも使うアーマーは決まってるもんね!」


「そうなんだ。やっぱり火力重視?」


「当たり前だろう!あのキングも火力こそ至高って言ってたし!」


「おいお前ら!もう首都の港が見えてるから降りる準備をしようぜ!」


「「了解!」」


 空中艦が港にゆっくり降下する。そして、船の昇降口が開き、僕たち卒業生がぞろぞろと降りていく。


 出迎えてくれたのはチューンドール販売店行きのバスだ。バスに乗ると三人で雑談しながらバスがチューンドール販売店に着くのを待った。


 数十分後、バスはチューンドール販売店に着く。バスに乗っていた新社会人たちは店に入り、四角い巨大な装置を目にした。


「私はこの店の店長、上級ドールのローラです。貴方達は学校で習ったことがあると思いますが、これがチューンドールのコアを製造する装置、ベクトル・フューチャーです。」


 その装置は僕の前世の記憶にある初期型よりも遥かに大きかった。初期型は人間より一回り大きいぐらいだったけど、これは見上げるほど大きい。これが、改良したベクトル・フューチャーか・・・。


「実は事前に貴方達のコアは作っておいたので、貴方達にはそのコアを入れるボディを選んでもらいます。」


 コアを作るのに時間がかかるから事前に作っておくのは妥当な判断だ。作ってるとこ見たかったけど。


「どうするファイブ。ボディはとりあえず標準体型か?やっぱり?」


 ボディで選択する項目はいくつかある。まずは体型だ。標準は人間でいうと八頭身のモデル体型だ。この体型が基本なので、所有者のいない上級ドールはみんなこの体型だ。SFDのアーマーも基本的にこの体型に合わせて設計してあるのでこの体型でいいだろう。・・・ドールをロリ体型にしてお金がかかるのにアーマーもその体型に合わせてオーダーメイドして貰う人も存在するが特殊な例だ。


「人工肌はどうするよ?」


 次に人工肌だ。色と肌触りにいくつか種類がある。今回は無料なので付けないという選択肢はないが、経費削減のために有料になる2,3体目のドールには頭にだけ付けたり、人工肌なしを選ぶ人もいる。まあ、標準の色白で。


「人工爪は標準として、お次はフェイスと髪の毛か」


 フェイス、つまり顔にも種類がある。通常の美人顔以外に童顔とか人間じゃない系という色物もある。昔のアニメに出てきたロボットの顔とか。まあ、ここはA(標準型を意味する)のタイプ11で。目の色は銀色、髪の色も銀色。髪の形はウェーブのかかったロングヘア―がいいかな。


「で、人工声帯か」


 声にも種類がある。大人の女性とか子供っぽい声、なぜか男みたいに低い声もある。サンプルボイスで聞いてみて気に入った声を選ぼう。僕は・・・・114番にしよう。


「最後はドレスだな」


 ドレスとはチューンドールが通常着ている服のことだ。このドレスは人間が使っているものとは全く違う。このドレスはチューンドールのコアから信号が送られると溶ける。溶けたドレスはチューンドールとアーマーの間で接着剤となる役割とチューンドールがアーマーを動かすための信号を送る媒介液としての役割がある。そして、チューンドールがアーマーを解除する時に解除用の信号を送ると元のドレスに戻る。ドレスも銀色で統一しておこう。


 全員に配られたPAD型のPCに情報を入力すると店員のチューンドールが情報通りに組み立てたボディを目の前に持ってくる。


「皆様、どうやらボディを選び終わったようなのでコアを配りたいと思います」


 コアが配られる。コアは手のひら大の大きさだ。見た目に違いがないので誰のかわかるようにネームシールを貼る。


「では、目の前のボディにコアを装着してください」


 ボディの胸部はすでに開いた状態で置かれているので、そのコアを格納するところにコアを差し込む。すると


「あなたが俺のマスターなのかぜ?」


 俺っ子でだぜ口調のドールか。チューンドールには個性がある。チューンドールの話し方は所有者との話合いによって標準語から中二病語?まで様々だが、たまにコアが生まれた段階で自分のキャラを考えているドールもいる。


「そうだよ。僕が君の・・・いや、これから相棒になるファイブだ」


「相棒か、わかったぜよろしく俺の相棒! ・・・俺の名前はどうするんだぜ?」


「ギリシャ神話の戦いの女神からとった名前、アテナにするよ」


「わかったぜ、今日から俺の名はアテナだぜ」


「皆様方、挨拶も済んだようなので役所行きのバスにお乗りください」


 上級ドール、ローラの案内で店の外に停まっているバスに乗り込みに行こうとするが。


「あれ?ギュウキは?」


「俺はもう2体ドールを購入するから次のバスで行くからよ。じゃあな!」


「じゃあね」「落ち着いたら連絡くれよ!」


 おそらく、これでギュウキとは別れることになるだろう。僕達は、SFD選手プレイヤー、彼は警察官だ。まあ、メールアドレスは交換しているので連絡はいつでも可能だが。ということで、アテナと一緒にバスに乗り込む。行先は役所だ。


「あれ?ホンジョウ君は違うバス?」


「俺はちょっと別の店でアーマーを見てから行く。俺たちの目的は同じSFD試験所だからよ。また会おうぜ。」


「わかったよ。じゃあ、また」


 バスが走る。役所はセントラルランドの中央に位置する。しばらく時間がかかるだろう。


「あ、そうだ! これ、アルファがくれたUSB」


「アルファっていうのが相棒のお母様なのかぜ?」


「育児用ドールだよ」


「??? とりあえずUSBを受け取るぜ」


 アテナは後ろの首筋にある接続端子にUSBを指す。ここから外部データを取り込むのだ。


「インプット完了。これであとは俺が役所で手続きをして、SFD試験所に行くだけだぜ」


「そうだね」


「・・・着くまで暇だから相棒のお友達のことを話して欲しいぜ」


「うん! 分かった!」と僕はギュウキとホンジョウについて話をする。それから、他愛もない話をしているといつの間にか役所に着いていた。


「着いたぜ。ここが役所なのかぜ?」


 ともかく広い。さすがに首都の役所だけのことはある。


「新成人の方ですね。ご案内します」と案内のチューンドールに付いて行き、成人の登録を行う窓口に着く。


「パートナーのチューンドールは窓口で記入を行って下さい。新成人の方はパートナーが登録を終えるまでそちらのソファにお掛けになってお待ちください」


 言われた通りにする。ソファに座ると、いつの間にか隣に知らないチューンドールが座っていた。


「ねえ?」といきなり声を掛けられる。


「え?」


 そこにいたのは長身が標準のチューンドールには珍しく僕と同じくらいの背丈のドールだ。紫色のおかっぱヘアーに黒いスーツを着ている。


「自分の母親を育児用ドールって言ってるって本当?」


 突然、脈絡のなく。


「そうだけど、どなたですか?」


「私はSFD運営委員会のメンバーでハオハオと言います。OK?」


「え?なんで委員会の方が」ここにという前に彼女が答える。


「私は新人の情報を調べている内に貴方が母親をそう呼んでいると聞いたので気になった。ここに来ることは分かっていたので待っていた。OK?」


「何でそんなことを気にして」いるんですかという前に彼女は言う。


「ぶっちゃけて言うと、貴方の母親にネグレクトの疑いがかかっています。何か気になることはありませんか?ここで言ったことは他言しないので素直に言って下さい。OK?」


 OK言いすぎだろこの人! 心当たりはあるけど言うほどのことだろうか?


「特にありませんよ。育児用ドール呼びがおかしいと知っていましたけど、そのくらいで大袈裟ですよ」


「そう」


 彼女は、突然黙り込んで何か考え事をしているかのような顔をしている。


 ・・・・・この人、突然、「そう」と言ったきり黙っちゃったんだけど。なんだか気まずいよ。早くアテナが戻ってきますように。


 そんな風に思っていたら、アテナがやっと来た。これで助かると思ったらいつの間にかハオハオが消えてる。何だったんだろう?


「じゃあ、次はSFD試験所だぜ」


 とりあえず、またバスに乗る。ハオハオさんのことはあまり考えなくてもいいだろう。また、移動時間が出来てしまった。


「それじゃ、相棒。今度はそのSFDの団体について教えてくれなのぜ」


「ああ、分かった。まず、」


 三つある団体を順番に説明していくと、


 まず、レッドモンスター。この団体の試合テーマは戦争。団体内公式戦は複数のチューンドールやAI兵器を使ったコスト戦が主に行われている。


 コスト戦は最大コストを設定し、そのコストに収まるように部隊を編制して試合をする形式だ。コストはドールを30とし、他のAI兵器が1~20のコストで設定されているものを使用する。


 この団体のスポンサー企業はハードコアエレクトロニクス。この企業のアーマーは昔の戦車や戦闘機をモデルにしたものが多く、重装の装備に定評がある。


 次にブルーウィザード。この団体の試合テーマはエンジョイ。団体内公式戦は様々な特殊ルールで行われる。公式戦の評価は面白い試合だったかどうかで決まる。


 企業スポンサーは、(株)ジ・パーン。この企業のアーマーは昔のロボットアニメの合体を再現したみたいな面白ギミックに凝っていて、ネタ装備と言えるものが多い。真面目な装備は軽装のものが優れているという評価。ちなみにドールのボデイも作っている。


 最後に、イエローウォーリア。この団体の試合テーマは決闘。団体内公式戦は1on1の個人戦が主に行われている。個人の技量を重視している団体だ。


 スポンサーは、ウエストオリンピア。この企業は騎士や西洋ファンタジーをモデルにした美しい見た目のアーマーを製造している。装備は軽装と重装の中間ぐらいのものが評価が良い。


 まあ、こんなとこかな。


「相棒はどの団体志望なんだぜ?」


「イエローウォーリアかな。複数を同時に相手にするのは難しいし、個人戦の方が僕向きだと思うから」


「へえ。相棒は個人戦派か。じゃあ、レッドモンスターに指名されて所属することになったらどうするんだぜ?」


「そのときは、一年後に団体を異動することができるからそこまで我慢かな」


 そんな話をしていたら、SFD試験所に到着した。


「ん?あれは・・」


 ハオハオさんがSFD試験所の前に立っていた。いつの間にそこに移動したんだろうか。


「ファイブ君。貴方の試験担当官はこの私です」


 バスを降りて早々にいきなりの発言。試験担当官はSFD運営委員会の人がするということは聞いていたけどこの人かよ。


「えっと。じゃあ」


「試験所に入る必要はありません」


「「え?」」何だって?


「はい、これ」


 なぜか白いパンフレット1枚を渡される。そこに書かれていたのはイベント告知。イベント内容は・・・レイド戦?


「貴方を含めた今回の新人の実力は来週行われるレイド戦で測ることになりました。がんばって下さい。OK?」


 レイド戦って初めて聞くけど一体どういう催しだろうか?

 

 疑問に感じながらも、レイド戦の目玉景品がキングスランドで行われる大きな大会、キングスカップの特別参加権だということが目に入ると目の色を変えてしまう僕がここにいた。


                  *


 ある時、とある宇宙の座標で一つの決着が着こうとしていた。


「貴方の瞬間移動先探知用装備の開発に手こずったせいで、とっても時間が掛かってしまいましたが、これで貴方との長い闘いもおしまいですね。OK?」


 ハオハオことNo.4はズタボロの星の戦士、NEOZを見下しながらそう言う。


 客観的に見ると、彼女は黒く禍々しい造形をしたアーマーを着ているのに対して星の戦士は白く輝く塊が人の形を取っているような見た目をしているので、巨悪の前に偉大な光の戦士が破れてしまうかのように見える。


「今まで何度だって言ったことだけど・・君たちは間違っている!!」


「この宇宙は勝った方が正しくて、負けた方が間違っているんですよ。星の戦士団は貴方の敗北と消滅によって解散することになる。そして、この宇宙の完全なる勝利者は大宇宙同盟。大宇宙同盟の意思が正しく、貴方たちこそ間違っているんですよ。わかりますか。OK?」


「大宇宙同盟によって多くの星々が攻められ、植民地になり、人々は奴隷や家畜として扱われている。それのどこが正義だ! 君たちの地球人だって!」


 涙を流している。これは彼自らのためではなく、苦しい思いをしている人々、未だに厳しい闘いを強いられている仲間を想って流す涙だ。慈悲の心からくる真の涙。


「黙れ! ・・・もういいです。消えて。OK?」


 ハオハオは対星兵器搭載アーマー、覇王の右腕をNEOZに向ける。その右腕から光の粒子が放射状に出力され、それが輪のような形になる。彼女はその輪をすでに満身創痍で動けないNEOZに放つ。


 半分こだ。


 慈悲と正義の心を持つ偉大な星の戦士が。


 彼ら星の戦士団は今まで自分たちとは関係がないはずの別の星の人々を大宇宙同盟から守るために活動していた。彼らの心にあるものは地球人の考える正義とよく似ていた。


 だが、彼らの主柱ともいうべきNEOZの死によって彼らの組織はもう長くはもたないだろう。


「もし、地球を発見したのが大宇宙同盟ではなく貴方達だったら・・地球人は貴方達と手を取り合い、大宇宙同盟に立ち向かう未来もありえたかも・・・」


 もし、彼女に涙を流す機能が付いていたのなら涙を流していたかもしれないような苦しい表情を一瞬だけ見せて、顔を振り、元の無表情に戻る。


 彼女は帰る。もうすぐ始まるレイド戦の準備をしなくてはならないからだ。彼女は思う。地球人こどもたちが楽しみにしてるはずだからと。







 


次回予告

???「というわけでファイブ君がついに学園を卒業して

    パートナードールを手に入れるという話でした。

    次回のレイド戦は獣人とのバトルだぞ

    君は時の涙を見る・・・かもしれない

    それでは、まーた次回!」







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