【完結】見た目はイケオジだけど、中身は女性店員です~推定転移した場所が自分が作ったキャラの中だった件について~

空廼紡

このイケオジ、アタシが作りました

 某置き型ゲーム機専用ゲームソフト『HUNTER OF THE FIRMAMENT』。直訳すると『蒼穹のハンター』ということから『蒼ハン』と略称でよく呼ばれている。


 あれだな、某狩りゲーと被るなとアタシも思う。だからといって、これ以上呼びやすいかつ流行りそうな略称がない。内容は某狩りゲーと大分違っていたけど。


 タイトルから察しの通り、プレイヤーは新米ハンターとなってプレイするゲームだ。とある事件から、伝説級のモンスターの謎を追って、色んな拠点や、広大+綺麗なグラフィックで入り組んだフィールドを駆ける、個人差があると思うが近年のゲーマーにとっては惹かれる要素があったりする。とくに広大で綺麗なグラフィックなフィールドってところが。


 昨今、限られたゲームではあるが、置き型ゲーム機でもネトゲできる時代になったが、そのゲームはオンラインでもオフラインでもゲームを楽しむことができるゲームだった。オンラインで楽しむ場合は、自分で集会場を作って、他のプレイヤーと組んでモンスターを狩りに出かけることが出来る。オフラインでも物語が追えるし自分で最後までクリアできるから、ゲームは一人でやりたいっていう人にも受け入れられた。


 ストーリーも面白かったことから、ファンが急増的に増えて社会現象にもなった。かくいうアタシもそのファンの一人だ。


 最近はやれオンラインだの、協力プレイだの、多すぎる多すぎる! 私は一人でコツコツと自分のペースでゲームがやりたい。


 なんのゲームなのか伏せるけど、ゲームなのにブラック企業みたいなことを言うプレイヤー(チームの長)がいて、炎上したから尚更スマホゲームはやりたくないなって思いました。作文。


 でもたまには友達と一緒にゲームやりたいな、でも友達遠いところにいるから難しいなぁ。ということもあり、オフラインでもオンラインでも楽しめる蒼ハンはアタシにとって手が伸びるくらいには魅力的なゲームだった。


 やってみると楽しいのなんの! オフラインでも十分楽しめるしストーリーも面白くて、拠点が移れるから、気分を変えて移れる。


 アタシはセカンドキャラを作るくらいには、蒼ハンにハマっていた。


 うん、ハマっていたよ。たしかにハマっていたけど。



「な、なんじゃこりゃああああああああああああああ!?」



 太陽に吠えちゃう系のドラマで出た台詞を叫んでしまった。その声は自分でもとてもダンディーな声だと思う。


 そう、ダンディーな声。ダンディーな声なんです。


 綺麗な水面に映る自分の顔にびっくらこいて、叫んじゃった。鳥も逃げちゃったよ。


 許しておくれ、鳥たちよ。


 だって、アタシの顔がダンディーなオジ様の顔になっていたのだから。







 オンラインゲームに限らず、キャラメイク出来るゲームであるあるなこと。


 女性キャラのプレイヤーが男性だったり、男性キャラのプレイヤーが女性だったりとか。


 なにを隠そう、それはアタシだ。


 女だけど、ダンディーなイケオジキャラを作って、プレイしていました。そのイケオジキャラと全く同じ顔をした自分。ドウシテコウナッタ? ホワーイ?


 マジでホワーイだよ!!



「なんでアタシ、自分の作ったキャラと全く同じ顔をしてんのよおおおおおお!?」



 また叫んでしまった。人がいないから今は許してほしいぜ!


 ヘイ! Si○i! ○iriちゃんはいねーよ!!


 何がどうなっているんじゃああああああああああ!?


 あかん、そうだ、もちつくんだ、いや落ち着くんだ。


 もう一度、水面に映っている自分を見る。何度見てもアタシの顔じゃなくて、ファーストキャラの顔だわね。



「落ち着けるかああああああああああああああああ!!」



 だめだ、この頭混乱しすぎている、一旦冷やしたい!!


 目の前には川。川に自分の頭を突っ込ませた。


 ある程度時間が経ってから、ゆっくりと川から顔を出した。



「オッケー……クールダウンだ、クールダウン」



 深呼吸してから、その場に座り込む。


 ふぅ……物理的に頭冷やしたおかげで、ちょっと落ち着いたわ。



「うん、前向きに考えよう。真面目にキャラ作ってよかったね、アタシ。おかげでただのダンディーなイケオジよ」



 キャラメイクの自由度は高かったゲームだった。男性キャラだけど、ツインテールに出来るし、肌の色はヒューマンでも緑色に出来たし。猫耳とかあったし。あのときは、アタシ遊び心ないなって、友達が作ったふざけている面白キャラと、自分が作った普通のキャラを比べてちょっと落ち込んだけど、あの時のアタシ、それ、正解。


 よし、自分を慰めることができた。よしよしよし。


 この勢いで状況を整理しよう、そうだ、それがいい。


 楽しく状況を整理するため、某キャラになりきってみるか。


 オッス! オラ、新井真妃! 四捨五入したら三十路になる、普通のゲーマー女店員だ! 目が覚めたら、ハマっていた蒼ハンのファーストキャラ、『フェルド』になっていたぞ! オラ、わくわくしねーぞ! 終わり!



「…………」



 状況整理になってねーよ。



「うん、しょうがないね! だって、なーんにも覚えていないもん!」



 開き直ってみる。だって、目が覚める前の記憶がさっぱりないんだもん。最後の記憶は、残業して上がったところだもん。それ以降のことは覚えていないもん。思い出そうとしても思い出せないもん。アタシ、悪くない。



「思い出せないものは仕方ないね! よし、ここがどこか確認するか!」



 どうしてこうなったのか、と考えても答えが出るわけがない。情報が少ないしね。


 まあ、はっきりと言えることは、蒼ハンはVR対応じゃなかったし、さっき川の中に顔を突っ込んだけど、冷たかったし、ちゃんと水の感覚がした。つまり、現実の世界ってことは間違いなさそうだ。


 立ち上がって、辺りを見渡す。ここは森のようだ。視線が違うから、最初は気付かなかったけど、森の中でも見える、あの山のように大きくてなんかキラキラした木には見覚えがあった。



「あれ、ユグドラシル?」



 蒼ハンの中にもあり、他のゲームでもお馴染みの世界樹、ユグドラシル。色々なユグドラシルがあるけど、あの見た目は間違いなく蒼ハンのやつだ。


 そうそう、蒼ハンの最後はあの樹の上で戦うんだよね。いや、正確には最後じゃないか。



「うーん。っていうことは、ここは蒼ハンの世界?」



 ああ、だからアタシこの顔なのね! はいはい、一応納得。


 ていうことはあれか? 最近のアニメとか小説とか漫画でよくある展開の一つ、ゲームの世界に転移もしくは転生しちゃったってことなのか~~~~!


 ガハハハハ! 参ったな、こりゃ!!



「笑えねーよ!!」



 せっかく立ち上がったのに、膝をついてダンッと地面を殴るアタシ。見た目はイケオジがこういうことするのは恥ずかしいけど、中身は平凡な女性店員だから勘弁してね。誰に言っているんだろうアタシ、あはっ。


 まったく覚えていないとはいえ、なんなの、この状況!! そういうのは物語の中だけにしてよね!! リアルに持ち込まないでよ、神様!! というか、これ神様の仕業ですか!? 誰が教えて!! ドラ○もん~!



「いやいやいやいや!! というか、アタシ、ずっとこの姿のまま!? イケオジだけど! イケオジだけどおおおおイヤやああああああああああああ!!」



 いくらイケオジでも、加齢臭があるやん!! シャンプーとか石鹸とか気を付けなくちゃいけないやん! 他にも加齢に伴う、視力の低下とかあるやあああああん! しかも下品な話、自分キャラだけど自分じゃないオヤジのナニを毎日見なきゃいけないの嫌やあああああああ!! 男のナニなんて、お父さん以外は見たことがない喪女にはキッツいよおおおおおおお!!



「いや、待てよ……」



 キラリと閃いた。


 この『フェルド』はファーストキャラ。アタシはセカンドキャラも作って、そっちのキャラもやり込んだ。


 男性キャラと女性キャラでは、キャラクターの台詞が違うと聞いて作ったから、セカンドキャラは女だ。


 そう、セカンドキャラは女である!! しかも、ゲームの中だけ若くありたかったから、見た目は十代にしておいたのだ!


 つまり、セカンドキャラになれば万事解決!



「よぅし! セカンドキャラになるため、情報収集でもするぞい!」



 目的は決まった! まずは拠点に向かおう。


 立ち上がって、改めて周りを見渡した。


 ここはユグドラシルがある精霊の森の手前にある、鎮守の森みたいだ。風景から察するにマップ4といったところか。



「だとすると、拠点はあっちかなー」



 うん、あっちぽいな。



「いや、待てよ」



 ちょっと不安要素があって、進もうとした足を止めた。



「このままだと拙いよね? この口調だと拙いよね?」



 アタシだってたまに男言葉を使うけど、基本女言葉だ。一人称もアタシだし。中身は女でも、見た目はイケオジ。違和感が半端ないうえ、普通はドン引きされるよね。オネェじゃないけど、オネェになっちゃう。情報収集をするには普通の人を装わなくては。



「でも無理に男言葉を使うのはなぁ。すぐボロが出そうだし、慣れていないから不自然になっちゃうかもね~」



 考えて考えて、またキラリと閃いた。


 そうだ、敬語キャラになろう。


 敬語なら男女は問わないし、第一印象も多少良くなる。これならイケる!



「よし、向かいながら敬語キャラの練習でもするか! 今のうちに慣れておこう!」



 敬語キャラの練習で、アタシはある大事なことを頭から抜け落ちていた。


 ここは鎮守の森といいながら、大型モンスターが闊歩する場所だったということを。





 このあと、鎮守の森の頂点に立つ大型モンスターと戦い、なんとか勝ったアタシ。その様子を一部始終見ていたサブキャラのハンターに話し掛けられて、ソロでプレイしていたアタシだったけど、そのハンターとは背中を預けられるほどの仲間になったり。




 蒼ハンとは違う物語の展開に戸惑いながらも、あちこち駆け回ることになったりする。


 それはまあ、気が向いたら語ることにしましょう。


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【完結】見た目はイケオジだけど、中身は女性店員です~推定転移した場所が自分が作ったキャラの中だった件について~ 空廼紡 @tumgi-sorano

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