世界の半分がバケモノになった世界で僕達は生きる
ベームズ
ハンター
ある日、学校から家に帰ると、珍しく親父が先に帰っていて、何やら深刻な顔をしてリビングのテーブルに座っていた。
「……何か話?」
深刻な話かと緊張感を持って向かいの席に着く。
「……太一。お前に話さなければならないことがある。」
親父は、一言一言噛みしめるように、僕にある話をしてくれた。
「我々、半澤一家、およびその家系は、代々狩猟民族として、世にはびこるモンスターと戦い続けてきたんだ。」
「………うん」
決していきなり頭のおかしな事を言い出した親父に引いているわけではない。
「お前も今年で15になる。そろそろその話をしなければならないと思ってな」
親父は、机の下から何やら生き物のツノか、爪か、鋭く尖ったものを取りだし、僕に見せてきた。
「これが何かわかるか?」
「……牛の角?」
「そう、牛の角だ。だが、ただの牛ではない。ベヒーモスという、非常に危険なモンスターの角だ。」
まさかあのまじめな社会人だと思っていた親父の口からそんなワードが出てくるなんて、にわかに信じがたい事態に頭がついていかない。
「FFのやりすぎなんじゃないのか?とか思わないでくれよ?ほんものだから」
「………」
「………」
FFは知ってるんだとは突っ込まない。
待っても突っ込んでくれないことを悟った親父は、軽く咳払いをして話の続きを始めた。
「これは父さんが20歳の時に初めて一人で倒したモンスターなんだ。本当は5人〜のパーティ推奨の、危険なモンスターランキング10位のヤバいやつなんだがね、仲間が誰もいなくて、一人で倒した。父さんの自慢だ」
「う、うん……」
この話いつまで続くんだろうと、最初のまじめな姿勢もいまやなく、ただ今すぐこの親父の妄想話から解放されたいという欲求にとらわれる。
「それでな、父さんの父さん、つまりお前の爺ちゃんだな、からこの話をされたのと同じ、15歳になる時にお前に話さなければと思っていたんだ」
うん、どうやら頭がおかしいのはじいちゃんからの遺伝らしい。
じいちゃんもかなり頭がおかしかった。
たまにふらっといなくなったと思ったら、一か月後に血だらけで帰ってきたり(返り血)
やたらゲームの話が噛み合ったり。(それこそベヒーモスとかペガサスとか、クラーケンとか……)
その最後に至っては、今からちょうど一年前、「ちょっと、一狩り行ってくる……」
と言って出て行ったきり、行方不明になった。
いまや死亡扱いだ。
じいちゃんのことだからどこかで生きていそうな感じがするが、なら帰ってこない理由がわからない。
そんなわけで、この家系は相当頭がおかしくできているらしい。
僕自身、昔からよく周囲に馴染めず、一人でいることが多かった。
今思うと、きっとこの血筋のせいなのだろう。
もう認めるしかないようだ。
「そしてそんな我々ハンターの家系には倒すべき宿敵がいる」
そんな僕の葛藤など知る由もない親父はその妄想話をまだ続けている。
「へー」
僕は適当に相槌を打つ。
「名をデケンヴリオス。代々その存在を伝えられ、追い続けているにもかかわらず、その尻尾すら掴めない謎の存在だ」
「ふーん」
「……妄想じゃないぞ?」
僕の思考を悟った親父は確認をいれてくる。
「わかってる」
脳死で肯定。
「わかってないだろ?」
だがそれもすぐに否定される。
「……うん」
これ以上は無駄だと諦めた僕はしぶしぶ最初から親父の言ってることを妄想だと、ただの冗談だと思っていたことを白状する。
僕の肯定を聞いた親父は、ふぅとひとつ息をして
「急に言われても信じられないのも無理ないか」
残念そうに少し俯いてつぶやいた。
「僕だって親父が真面目な人間だって知ってる。でも、そんなこといきなり言われても全てをはいそうですかって聞けるわけないだろ」
僕だって親父がそんな冗談を言わない人間だということはずっと見てきたから知っている。
でも、
「ああ、わかってる、こんな話急に全部信じろなんてこと無理だよな、でも、疑問には思って欲しい」
「……何を?」
「この世界のことだ」
親父はあるものを持ってきて見せてくれた。
それは一枚の白黒写真。
仲の良さそうな男女約20人ほどの子供達が、笑顔でこちらへ向けてピースをしている。
「これがどおしたの?」
「真ん中にいるのが僕で、周りのは中学の時のクラスメイトだ」
「へー」
いや、
これを見たところで、この世界がおかしいことが分かるのか?
と首を傾げる。
「よく見てみろ」
間違い探しでもしろというのか?
だが、心霊写真じゃあるまいし、おかしなところなんて……
「これ……」
「気がついたか?そう、この写真には人間しか写ってないだろ?」
それは普通のことのはず。
だが、今はそうではない。
今の世界は全生物の半分がモンスターと化している。
学校に通う生徒もそうだ。
だからそもそも、全員集合自体、難しいことなのだ。
「父さんの子供の頃はこれが普通だったんだ」
親父は写真をしまってくると、話を続ける。
「これで分かったろ?今の世界はおかしいと」
「……ああ、分かった」
どうやら認める日が来てしまったようだ。
毎日毎日モンスターに殺されそうになりながら、逃げ回りコソコソ隠れ回る一日。
そんなのはもう嫌になっていた。
隣の席の館くんも、後ろの席の由美ちゃんも、もううんざりだと話をしていたところだ。
原因は親父が大人になってからか、僕が学校に通い始めてからか、そのどこかで何かが起きて、狂ってしまったということだ。
そのデケンヴリオスとやらのせいなのだろう。
「でも、それが分かったところで僕達に何ができる?モンスターどもに立ち向かったところで勝ち目がないんだけど?」
人間とモンスターには圧倒的な力の差がある。
それは体の大きさもだし、体の作りそのものがもう違う。
ここらで一番ザコのヨワキクンですら、体長2メートル〜の恐竜みたいな姿で、走る速度は時速60キロをこえている。
それに鋭い爪やら牙やら、向こうはとにかく殺すことに特化した体の作りをしているのだ。
こんな柔い肌に弱い筋肉では、とても太刀打ちできない。
「それは大丈夫」
何を根拠にか、親父は力強く大丈夫だと言った。
「筋肉がないというなら鍛えればいい。皮膚が柔らかい、武器もないというなら纏えばいい」
いかにも簡単なことでも言うように、当たり前のことを言ってくる親父。
「それができれば苦労はないって」
僕だってなんとか対抗できないかと体を鍛えてはいた。
でも結局、人間と比べれば飛び出た身体能力を持ったとしても、自然界においては全くの弱者にすぎないのだと思い知らされた。
それは僕が今の学校に入学したばかりの頃。ウチの学校は、約20万ヘクタールの広さに、人間150人、モンスター150頭が通う、ここらでは1、2を争う大きな学校だ。
そんなウチでは、入学したばかりの生徒は、まず最初に縄張りを決めなければならない。
現在の人間の拠点は一つ。
モンスターの縄張りは、それぞれの強さに応じて広さは変わるが、場所取りは人間もモンスターも混ざって一斉に始まる。
つまりはそこでボロ負けしたのだ。
今や、我が組はボロ校舎一つに150人が入って勉強をしている状態だ。
それもいつモンスターが襲ってくるかとビクビクしながらだ。
そりゃこんな毎日から逃れられるなら逃れたい。
「……そう、だから今、この話をしたんだ」
親父は、そういうと、席を立ち、居間へ向かった。
なんなんだと思いながらも、わざわざこんな話をしたんだ、もしかしたら何かすごいものが出てくるかもしれないと若干胸を躍らせながらついていく。
襖を開け、居間へ入ると、正面には大きなクローゼットが一つある。
服を入れるにしてもやたらと大きく、用事もないから開けたこともない、中に何が入っているとも知らない、家にあって謎のものだったクローゼット。
親父は、僕が居間に入るのを確認してから、一度うなづくと、クローゼットに手をかける。
ギギギ、と、長年開いたことがないのか、年代を感じさせる音を立てて開いていくクローゼットの扉。
ついに、長年謎だった中身が分かる時がきたのだ。
無意識に生唾を飲み込んだのが分かる。
時間にしてほんの2〜3秒のことだが、スローに見えて、ジッとことが進むのを見守る僕。
暗く、深い闇の空間に、居間の電気の光が差し込み、中があらわになっていく。
キラリと光るのは、研ぎ澄まされた刃が光を反射したもの、
長さ2メートル弱、幅50センチほどの鞘がともに刀掛けに飾られた、刃渡り約2メートルの大剣が姿を現した。
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