オカルトブロガーの結末

「さてと、今日の更新分は……」


 彼女は一人自宅で、ブログの更新を行っていた。亜子にオカルトブログを見せてきた、同級生の女の子である。

 これは誰にも言っていない事だが、あのブログを書いていたのは、実は彼女自身。フォロワーを装って、面白いサイトがあると言って周りに進め、閲覧数を増やすと言うのが、彼女のやり方だった。


「それにしても、この前は面白かったなあ。亜子ったら、本気で怖がるんだもの。『あぶくたった』って、あんなのただの作り話なのに」


 当時の事を思い出しながら、笑う彼女。オカルトブログを立ち上げてはいるものの、実は彼女自身は幽霊や妖怪と言ったものを、信じているわけではなかった。ただ以前に、遊び半分で自身の体験談風に怪談話をブログに上げたところ、反応が良かったので。それで味を占めて、今ではオカルトブロガーになったと言うわけである。

 そんな彼女がブログに上げる話は、全て創作。閲覧数さえ増えれば、本当か嘘かなんて関係ない。そんな気持ちで書いた、作り話。そのはずだった……


 トントントン


 不意に玄関から、ドアを叩く音が聞こえてきた。だけどブログの更新準備に忙しい彼女は、それを無視する事にした。


「どうせセールスか何かでしょ。それより何かもっと、インパクトのある話が欲しいなあ。あーあ、本当に恐怖体験でもできたら、楽なんだろうけどなあ」


 すると次の瞬間、玄関の方からドンという大きな音が響いた。


「何⁉」


 これはさすがにブログの更新をしている場合じゃないと思ったのか、彼女は立ち上がり、部屋から出た。が……


「ひっ⁉」


 瞬間、部屋の前まで来ていたを見て、腰を抜かした。 ソレは一目見ただけで普通じゃないと分かる、異形な姿をしていて、彼女の恐怖を誘うには十分だった。


「な、何? 何なのアンタ?」


 震える声で問いかける彼女。すると、頭の中に声が響いてきた。


『冷たいなあ、忘れちゃったの? ボクだよボク』

「何これ? 頭の中に声が聞えてきて……あ、アタシ、アンタなんて知らない!」

『いいや、知ってるはずだよ。だってボクを生み出したのはアナタなんだから。そうでしょ、お母さん』

「お、お母さん?」


 彼女はわけがわからなかった。まだ高校生、当然子供なんていないし、そもそも目の前にいるソレは、人間から生まれるようなものでは無い。普通なら。


『ボクはアナタのから産まれた存在。言霊って知ってる? 言葉には力があって、例えそれが嘘でも、声や文字にしてしまうと、稀にそれが現実になってしまう事がある。『嘘から出たまこと』とも言うかな』


 そう説明すると、ソレはニタリと笑う。

 彼女が今までブログに書いたのは、全て根も葉もない嘘だったけど、目の前に現れたソレを見ると、その嘘が現実になってしまったのだと、嫌でも思い知らされる。


『ボクがノックをしたのに、お母さんは返事をしなかった。だからボクは、中に入ってこれたんだ』

「ノックをして……アンタもしかして、『あぶくたった』の? で、でもあれは、歌を歌ったり、ジャンケンで負けたりした人の家に行くんじゃ?」

『うん、お母さんはそう書いてたね。だけど以前に別の誰かが、『あぶくたった』で遊びすぎると、その人の所にオバケがやってくるって言ってたんだよ。その言葉の力を、ぼくは吸収した。お母さん、遊んでたよね。ブログに書いて、いいように使ってた』


 確かに彼女はブログで、『あぶくたった』を題材にした話を作って広めた。全ては閲覧数を稼ぐために。見方を変えれば、これは『あぶくたった』の歌を遊び半分で使ったと言える。もちろん彼女はそんな風に考えた事は、一度も無かった訳だが。やってきたソレは、見逃してはくれなかったのだ。


『さあ、どうするお母さん? そう言えば前に行った家の子が、ボクを退散させる方法を知ってたっけ。あれも元は嘘だったけど、あの子が信じる気持ちが、言葉に力を与えたんだろうね。あの言葉を聞くと、ボクは帰るしかなかったよ』

「あ、あの言葉? それは何?」


 それさえ言えば、自分も助かる。彼女は必死になって、それを聞き出そうとした。しかし相手は、そんな彼女に向かって不気味な笑みを浮かべる。


『さあね』

「ひぃ!」


 

 ソレの言う『あの言葉』を知らない彼女に、もはやなす術はなかった。頭の中がグチャグチャになって、恐怖に支配されていく。そしてソレは、そんな彼女にゆっくりと、静かに一歩ずつ近づいて行く。そして……




♪あーぶくたった 煮えたった 煮えたか どうだか食べてみよう

♪むしゃむしゃむしゃ ご馳走様



 彼女のいなくなった家の中に、無邪気な歌声が響いた。





 この話はフィクションです。今はまだ、ですけど……

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あぶくたった 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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